調査シリーズNo.259
若年者の初職離職後のキャリア形成
―第3回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査―

2025年12月12日

概要

研究の目的

初職離職から調査時点までの就業状況を観測するとともに、正社員から正社員へ転職したことでより優良なキャリア形成環境を得た者の特徴と、正社員以外の労働者から正社員へ移行できた者の特徴を探索する。

研究の方法

2023年11月に、20~34歳の高校卒~修士修了の非在学者を対象にWebモニター調査「第3回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」を実施した(回収目標数8,072、回収有効票7,994)。

主な事実発見

  1. 初職正社員の正社員への転職
    • 初職離職後の就業状況は、男性は徐々に正社員割合が増加し調査時点で80.4%に達するが、女性では50%超で横ばいとなる。調査時点における非典型雇用または非就労の割合は男性や大学・大学院卒より女性や非大卒者で大幅に高い。
    • 非大卒男性は「仕事がうまくできず自信を失った」、非大卒女性は「学校で学んだことや自分の技能・能力が活かせられなかった」場合に異なる産業や職業へ転職する傾向がある。
    • 転職により雇用の質が向上した女性や非大卒男性は、公的な訓練制度の利用や、職業に関連する資格や免許の取得を経験した傾向がある。非大卒女性は、公共職業訓練機関や求職者支援制度、職業に関する資格や免許を取得した場合に産業間を移動する割合が高くなる。
    • 賃金/労働時間・休日を理由に転職した若者の6、7割に賃金上昇/労働時間短縮がみられた。一方、人間関係や健康損害、ノルマや責任の負荷、自信喪失を理由に転職した人は月給額が減少する傾向がある。
    • 全体に、労働負荷の重い仕事(労働集約型産業、肉体労働・感情労働、職務内容・勤務地・労働時間等に制限がない働き方、業務の変化が多い)から比較的軽い仕事(知識集約型産業、対人折衝の少ない専門技術職・事務職、雇用条件が限定された働き方、業務の変化が少ない)へ転職する傾向にあるが、キャリアアップのために転職した若者は負荷の重い仕事を受け入れ、結果的に賃金は上昇し職務遂行能力や職業生活満足度も高くなる傾向が、主に大学・大学院卒でみられる。
    • 非大卒(特に女性)の雇用の質の向上やキャリアの安定化には、専門技術職資格を取得し医療・福祉分野へ移動することが有効と考えられるが、実際に能力開発を通じて異産業へ転職した非大卒女性は、転職後は医療・福祉以外の産業で事務職につく傾向がみられた。
  2. 初職正社員以外の労働者の正社員への転職
    • 初職離職後から次職時点、調査時点にかけて、正社員割合は男性では22.2%→34.8%→42.6%と増加するが、女性では17.6%→28.5%→27.9%と次職時点で頭打ちになる。また、次職で正社員に移行しても、女性の勤続率は29.0%と、男性の50.0%に対して顕著に低い。学歴別にみると、大学・大学院卒の正社員比率は非大卒に比べて一貫して高い。
    • 初職が正社員以外であっても、初職在職時の業務の量、種類、責任の重さの増大などの業務の発展性や労働時間の長さが、次職での正社員化に寄与する。特に女性においては、業務裁量の拡大や、非正社員・部下・後輩正社員の指導経験も正社員化に有効である。
    • 男性の正社員化における主な受け皿は製造業であるのに対し、女性は製造業への正社員移行が困難であり、医療福祉分野が主な受け皿となっている。
    • 小売業、宿泊・飲食サービス業では、男女ともに正社員化が進みにくい。加えて、正社員に移行した者は、感情労働や責任・ノルマの重さなどから他産業・職業に流出する傾向にあるが、次職も正社員以外であった者は産業・職業も移動しにくく、同産業・職業にとどまりやすい。
    • 次職の求職活動において、男性では民間の職業紹介サービス、女性では卒業した学校やハローワークへの相談を利用すると、正社員に移行しやすい。
    • 次職で正社員化した場合、管理職への昇進や職種・配置転換の機会が生まれる一方で、残業などの負担も増える。職業生活の満足度をみると、男性では正社員化した者の方が評価・処遇、賃金、雇用の安定性、福利厚生に対する満足度が高い。一方、女性では正社員へ移行した者において満足度が有意に高い傾向は確認されず、むしろ労働時間や休日などの労働条件に対する不満がみられる。加えて、女性は正社員へ移行しても、賃金水準が低い仕事に選択肢が限られており、男性よりも限定的な働き方をしている傾向にある。これらの要因が女性への家庭責任や家族ケアの集中とあいまって、正社員に転職した女性の離職を招いていることが示唆される。

図表1 初職正社員の初職離職から調査時点までのキャリア(性・学歴別)

初職が正社員の若者について、初職・次職・調査時点での就労状況と雇用形態を組み合わせたキャリア類型を作成し性・学歴別に集計した。

図表2 性別 初職における業務の変化と次職雇用形態(初職正社員以外かつ初職離職後に就業経験のある者)

初職が正社員以外の若者のうち、次職で正社員に移行した者と、次職も正社員以外であった若者とでは、初職在職時の業務の変化状況がどのように異なるのかを男女別に比較検討した。

政策的インプリケーション

  1. 初職正社員の正社員への転職
    • 転職活動支援においては、学卒時に正社員へ移行できても初職離職後に非典型化、非就労化するリスクが高い女性や非大卒を重要支援対象とすべき。
    • 非大卒の職務遂行能力と仕事内容のマッチング向上には産業・職業間移動を促す必要がある。
    • 転職によって雇用の質の向上や異なる職業・産業への移動をめざす女性・非大卒男性には、公的な訓練制度の利用や職業資格・免許の取得を奨励することが有効。
    • 転職は労働条件改善やキャリアアップの手段として有効である。一方で、職場トラブルから逃れるため転職する若者には、必要以上に給与額を下げずに済むよう、キャリアの棚卸しや転職候補の範囲拡大、能力開発機会の提供などにより、長期的視野に立った選択を促す必要がある。
    • 正社員の働き方が多様化しているので、労働負荷とキャリアの発展性とのバランスについて若者が言語化できるよう支援し、雇用主の期待とのマッチングを推進する必要がある。
    • 医療福祉分野の人材不足解消にむけては、待遇や雇用管理の改善を支援するとともに、資格取得の障壁を下げるべく様々な制度を見直すことが求められる。
  2. 初職正社員以外の労働者の正社員への転職
    • 正社員移行には初職在職中の業務の発展性が重要であり、正社員以外でも在職中の経験蓄積が正社員化につながる。しかしその機会は正社員に比べ限定的であるため、公共職業訓練による補完が求められる。
    • 男性では製造業、女性では医療福祉分野が正社員化の受け皿となっており、産業団体や公的機関との連携による人材育成・参入促進を進めることが正社員移行に資する。公共職業訓練へのアクセスを拡充し、製造業への女性進出を支援することも重要だろう。医療福祉分野では在職者・離職者訓練による資格取得機会の拡充や、有資格者が正社員として活躍できるマッチング支援に加え、産業全体の待遇改善が必要である。
    • 正社員移行に際し、負荷の大きい産業・職業から移動する層と、正社員移行や産業・職業の移動自体が困難な層の双方に対応するには、公共職業訓練を通じ、他産業・職業への移動可能性と接続性を高める資格・スキルを働きながら取得できるよう支援する必要がある。
    • 女性の正社員移行には、量だけでなく質と継続性を高める支援が不可欠である。学校やハローワークを中核とし、自治体や地域企業と連携したチャネル統合型支援により、教育訓練の拡充、マッチング支援、雇用の質向上を一体で推進することが有効だろう。さらに、正社員移行後の定着を支えるため、職務や勤務地の無限定性を含む労働条件を男女問わず柔軟に設計・選択できる制度を整備し、家庭責任と仕事を両立しやすい環境を整えられるよう、事業主支援を行う必要がある。

本文

分割版

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「技術革新と人材開発に関する研究」

研究期間

令和5~7年度

執筆担当者

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 主任研究員(主担当)
小黒 恵
労働政策研究・研修機構 研究員
阿形 健司
同志社大学 教授
陳 炯楷
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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