調査シリーズNo.228
暮らしと意識に関するNHK・JILPT共同調査
- 記者発表『「暮らしと意識に関するNHK・JILPT 共同調査」(一次集計)結果の概要』(PDF:1.2MB)(2022年9月16日)
概要
研究の目的
アンケート調査を通じて、日本における所得環境とそれに伴う人々の暮らし向きや意識の変化、将来の見通しや社会に関する考え方などを把握する。
リサーチクエスチョン: 1)若い世代ほど親より経済的に豊かになれないのか。2)親より経済的に豊かになれないことが社会的にどのような負の影響を与えるのか。3)かつて「一億総中流」という言葉があったが、人々は何を持って中流の暮らしと考えているのか。4)年齢、学歴、性別などの個人属性別にみて、イメージする「中流の暮らし」と実際の暮らしにどのような乖離があるのか。5)生活水準を指標にした場合、人々は自分がどの階層にあると考えているのか。
研究の方法
NHKからの協力依頼を受けて、調査会社の登録モニターを対象としたWEB調査を実施。調査概要は、以下の通り。
- 調査対象:
- 日本における20~69歳の男女
- 調査対象の抽出:
- 「国勢調査」(2020)の性別、年齢、就業形態、居住地域の構造に比例するように行った。具体的に、性別×年齢階級(5階級)×就業形態(正規・非正規・自営業等・無業の4区分)×居住地域(8ブロック)の320セルで、サンプルの割り付けを行った。
- 調査時期:
- 2022年7月29日~2022年8月1日、2022年8月1日現在の状況について調査。
- 有効回答数:
- 5,370人
主な事実発見
本調査で明らかになったこと:
- イメージする「中流の暮らし」について
1.1 イメージする「中流の暮らし」を送るのに必要な年収
有配偶者は「600万円以上」と「800万円以上」、無配偶者は「400万円以上」と「600万円以上」のカテゴリーに回答が集中し、各々「600万円以上」の割合がもっとも高い。
1.2 イメージする「中流の暮らし」に当てはまる条件(複数回答)
世帯主が正社員(63.0%)、持ち家(61.2%)、自家用車(59.5%)が「中流の暮らし」の条件として多く選択。
1.3 イメージする「中流の暮らし」をしているか
過半数(55.7%)は「中流より下の暮らしをしている」、4割弱(38.4%)は「中流の暮らしをしている」と回答。
- 階層帰属意識
生活水準に関する階層帰属意識では、全体の55.3%が中間層と回答しており、学歴が高いほど中間層と回答する割合が高く、下位層と回答する割合が低い。20代と40代は、他の年齢階級と比べ、中間層と回答する割合が低く、下位層と回答する割合が高い。
- 現在の生活水準の感じ方
現在の生活水準について、過半数(56.7%)は暮らしに余裕はないと回答。
- 現在の消費スタイル
現在の消費スタイルについて、約1割は「節約を最優先に、生活を切り詰めている」、6割弱は「節約のため、無駄な消費をしない」と回答。
- 項目ごとの消費行動
節約する項目は衣服(71.3%)、食料品(64.9%)の順に割合が高く、もともと支出していない項目は書籍の購入・教育(24.2%)、交際費(16.1%)、娯楽・レジャー(12.5%)の順に割合が高い。
- 将来の暮らし向きの見通し
自分の将来の暮らし向きの見通しについて、53.2%は「今の暮らし向きを維持できる」、37.2%は「今より暮らし向きは悪くなる」と回答。
- 理想とする働き方、所得と実現するための条件
「同じ会社で長く働き続ける(終身雇用)」が過半数(50.5%)ともっとも高く、実現するためにもっとも必要なことは「仕事と生活の両立支援」(29.4%)が約3割ともっとも高い。
- 努力に対する考え
努力さえすれば誰でも豊かになることができるかについては3分の2(65.6%)が「思わない」と回答。
- よい人生を送るための条件
もっとも割合が高い「真面目に努力すること」は若い世代ほど重視していない。
- 親より経済的に豊かになれると思うか
「なれないと思う」割合が4割弱。30~40代や非正規雇用者・フリーランスで相対的に高い。
- 親より経済的に豊かになれない理由
親より経済的に豊かになれない理由は、「親の時代と景気が異なるから」が約6割でもっとも高く、給与水準の違い、生活コストの上昇、雇用形態が異なることが次ぐ。
- 親より経済的に豊かになれないことの影響
親より経済的に豊かになれないと思う個人は、「日本では、努力さえすれば誰でも豊かになることができる」と考える割合が約25.8%と低く、「自分ひとりが活動しても社会は変わらない」と考える割合が5割弱と高い。
政策的インプリケーション
本調査は、「格差、セーフティネットと政策効果に関する研究」の一環として実施したものであり、人々の意識面も含めた「中流」の実態を明らかにしている。すなわち、「中流の崩壊」に伴い、人々の暮らし向きが変化すると共に、将来の見通しや社会に関する考え方などの意識面にも負の影響をもたらし、消費行動にも影響を与えている。また、親より経済的に豊かになれないと感じる人や、努力しても豊かになれないと思う人、将来の見通しに対して不安を持つ人が多くいることが確認された。このように、現在の日本の大きな課題となっている「賃金が上がらない」、「国民全体が貧しくなっているのではないか」といった所得環境が社会に及ぼす影響の実態が明らかになることで、人々が希望を持てる社会を構築するためにも、政策的に所得格差や貧困問題に優先的に取り組むことの重要性を示唆していると考える。
政策への貢献
- 日本の格差問題や階層問題の関連政策を検討する際の基礎資料となりうる。
- 令和4年9月18日、「NHKスペシャル“中流危機”を越えて「第1回 企業依存を抜け出せるか」」で調査結果(集計表)が引用された。
- 令和4年12月8日、OECD-JILPT共催ハイレベルラウンドテーブル「不平等は問題か:人々は日本における経済格差と社会移動をどう捉えているか」の中で、日本の格差についてのプレゼンテーションにおいて分析結果を紹介した。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「労働市場とセーフティネットに関する研究」
サブテーマ「格差・ウェルビーイング・セーフティネット・労働環境に関する研究」
研究期間
令和4年度
執筆担当者
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