調査シリーズNo.209
派遣元事業所のキャリア形成支援と雇用安定措置
「派遣労働者の人事処遇制度とキャリア形成に関する調査」

2021年3月31日

概要

研究の目的

本調査は、派遣法改正から3年後の派遣元事業所での雇用状況やキャリア形成支援と派遣労働者の働き方の実態を掴むことを目的とする。

2015年(平成27年)9月30日施行の派遣法改正で派遣労働者のキャリア形成支援が導入され、派遣労働のあり方がこれまでのマッチング中心から段階的、体系的教育訓練を義務付けることになった。また、2018年(平成30年)同日には法施行から3年経過し、雇用安定措置も本格運用が始まっている。

派遣元事業所でのキャリア形成支援や雇用安定措置の施行状況について、具体的取組みや課題を調査し、その効果を検証する。

研究の方法

アンケート調査

労働者派遣許可事業所のうち、労働者派遣事業を開始後2年以上の事業所を調査対象とし、調査書類一式を送付、調査専用WEBサイトから回答する方法で実施。

調査期間
2019年(令和元年)9月18日~10月31日
有効回収数
7,366件
有効回収率
30.9%

主な事実発見

(1)派遣事業全体の傾向について

<派遣事業によって大きく異なる属性>

派遣元事業所の主な派遣事業について、「専門・技術系」、「事務系」、「製造系」、「販売・サービス系」の大きく4つに分類できるが、「専門・技術系」とそれ以外の3つの派遣事業を主とする事業所では、事業所の規模や派遣労働者の主とする雇用形態が大きく異なる(本文第2-5表参照)。

「専門・技術系」を主な事業とする事業所は、「10人未満」が51.0%、「10~29人」の階層でも22.2%と高く、大多数が小規模事業所である。また、派遣労働者の雇用形態は「無期のみ」の事業所が68.4%と高く、「有期のみ」の事業所は極めて少ない。

「事務系」(34.0%)と「製造系」(35.9%)は、大規模事業所の割合が高く、有期/無期雇用派遣の「両方あり」が約6割を占めている。

「販売・サービス系」の事業所は、事業所の規模はばらばらで、派遣労働者の雇用形態は「有期のみ」とする事業所が31.3%と、他に比べて割合が高くなっている。

<派遣労働者数が多い業務トップ3>

当調査では、事業所における人数の多い業務を多い順に3つ聞き、その人数を回答してもらっている(図表1:本文第3-1図)。棒グラフは業務別の合計人数が多いものから順に並べている。また、折れ線は、1事業所あたりの人数を示している。

派遣の業務別人数のトップ3は、製品製造・加工処理従事者、一般事務従事者、情報処理・通信技術者で、全体の約4割を占めている。また、4位の運搬従事者を入れると全体の約45%を占める。これらの業務は、それぞれ系統が異なる派遣事業に属しており(すなわち、製品製造・加工処理従事者→製造系、一般事務従事者→事務系、情報処理・通信技術者→専門・技術系、運搬従事者→販売・サービス系)分布が分散していることがわかる。

折れ線グラフから1事業所あたりの人数をみると、突出しているのは、商品販売従事者、販売類似職業従事者等、販売・サービス系もしくは製造系が多く、派遣料金の低い業務(本文第3-3図参照)においては、マージン率も低くなることから、より多くの人数を派遣することで利益を確保する経営戦略となっていることがうかがえる。

図表1(本文第3-1図)業務別の合計人数の上位(3,000人以上の業務)

図表1画像画像クリックで拡大表示

<業務別の賃金、派遣料金の特徴>

派遣労働に多い業務3つ、すなわち情報処理・通信技術者、一般事務従事者、製品製造・加工処理従事者の1日8時間あたりの平均的な賃金と派遣料金は、情報処理・通信技術者(賃金19,874円、派遣料金31,702円、小数点以下四捨五入、以下同じ)、製品製造・加工処理従事者(賃金10,275円、派遣料金14,815円)、一般事務従事者(賃金10,824円、派遣料金15,794円)、となっている(本文第3-3図、第3-4図参照)。賃金や派遣料金が高い業務ほど値に広がりがあり、1つの業務における賃金や派遣料金のレンジがあることが示唆される。また、マージン率は平均的に3割程度であるが、派遣料金が高い業務ほどマージン率は高くなる傾向がみられる。

(2)キャリア形成支援について

<派遣労働者のキャリア相談は営業担当者のフォローが中心>

派遣労働者のキャリア形成支援を行うにあたって、キャリア相談は希望を聞く上でも重要である。キャリア相談は営業担当者がフォローの中で行っているとする事業所が全体では約7割と、派遣労働者のキャリア形成の重要な役割を担っていることがわかる(本文第4-2表参照)。営業担当者が派遣労働者のキャリア形成支援に重要な役割を果たしているのであれば、営業担当者がキャリア相談に必要な知識や能力を獲得できるような教育訓練をしたり、キャリアコンサルタント有資格者の割合を押し上げる必要があるだろう。

<キャリアラダーやキャリアマップは、普及には至っていない>

キャリアラダーやキャリアマップが「ある」事業所は2割弱、「ない」事業所は半数を超えている。キャリアラダーやキャリアマップが派遣元事業所に広く認識されている状況にはない。比較的「ある」の割合が高い業務は、無期雇用派遣が多い専門・技術系が中心であり、有期雇用派遣への展開、普及には至っていない(本文第4-3表、第4-4表参照)。

<効果を感じているのは製造系、一方、効果に疑問も>

研修の実施は10年前に比べると増えている(図表2:本文第4-1図のみ掲載、第4-2図は本文参照)。キャリア形成支援の効果について、特に製造系では、他に比べて高い項目が多く、ポジティブに捉えている可能性がある(本文第4-15表、第4-3図参照)。

一方で、「その他」の自由回答の中にはネガティブな意見が約半数あり、キャリア形成支援を希望しない状況を整理すると、①業務が単純、単発である場合。②本人のスキルが高く、教育訓練のレベルが追いついていない場合。③派遣労働者自身にキャリア意識がない場合の3つに大別される。

図表2(本文第4-1図)研修実施割合の前回調査との比較(「一般派遣」と「両方あり」「有期のみ」)

図表2画像画像クリックで拡大表示

(3)雇用安定措置について

<雇用安定措置による無期雇用派遣の増加>

講じた措置の中では、新たな派遣先の提供を講ずる第2号措置が最も多い(本文第5-1図参照、図表3:本文第5-2図)。第2号措置のパターンの中でも、無期雇用派遣へ転換して同じ派遣先の職場で働き続けるケースの割合が高く(本文第5-3図参照)、その影響で2017年から2018年にかけての無期雇用派遣労働者数が増加している(本文第2-1表参照)。特に、これまで有期雇用が中心であった製造系、事務系での増加が著しい(本文第2-2表参照)。

図表3(本文第5-2図)講じた雇用安定措置(人数ベース)

図表3画像

<依頼を講じた事業所の6割で派遣先への直接雇用に至る>

第1号措置である派遣先への直接雇用は、1事業所あたり平均5.6人、派遣先に依頼を講じた約6割で直接雇用に至っている(本文第5-4表参照)。

<賃金は派遣先への直接雇用、無期雇用派遣に転換、有期雇用派遣のままの順で高くなる>

雇用安定措置後(第1号および第2号措置の4パターン比較)の賃金変化をみると、派遣先での直接雇用化(第1号措置)が月給、年収とも高くなるとする割合が最も高く、次に無期雇用派遣に転換するパターンの割合となる。有期雇用派遣のままの場合、派遣先を移動することによる賃金の変化は小さい。ただし、派遣先での直接雇用化では、月給は下がるが、賞与などの支給で年収額はほぼ変わらない割合が、派遣を継続する第2号措置に比べて高くなっている(図表4:本文第5-5図)。

図表4(本文第5-5図)雇用安定措置後の賃金変化

図表4画像画像クリックで拡大表示

政策的インプリケーション

今回の調査から、研修実施割合が高まり、より安定的な無期雇用派遣が増加し、派遣先への直接雇用による賃金増加がみられるなど、キャリア形成支援、雇用安定措置の法改正の一定の効果は認められる。ただ、有期雇用派遣に対しては、より一層工夫したキャリア形成支援のあり方を展開しないと、これ以上の展開は見込めない可能性もある。特に、派遣労働者とファーストコンタクトを取る担当者は、派遣労働者のキャリア形成にとって非常に重要な立ち位置であり、キャリアコンサルタントの資格を有することが望まれる。

キャリア形成支援については、一律のやり方に違和感を唱える事業所もあり、事業所の扱う業務や雇用形態の傾向に合わせて、柔軟な施策と共に、事業所側にも柔軟な対応が求められる。

また、雇用安定措置の影響により、無期雇用派遣が大幅増加した背景には、同一派遣先との継続した派遣契約が見込まれることがあることが想像されるが、今般の新型コロナウィルス感染拡大の影響から、将来的に経済の落ち込みや職場、事業の再編による派遣契約の解除も予想される。無期雇用派遣に転換した派遣労働者に新たな派遣先を提供できないなど、配置権(配置転換命令権)や処遇の問題が近い将来出てくる可能性があると同時に、不況下で雇用安定措置をいかに講じていくかを今後考えていく必要があるだろう。

政策への貢献

労働政策審議会需給制度部会等における資料、他

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「人口・雇用構造の変化等に対応した労働・雇用政策のあり方に関する研究」
サブテーマ「非正規労働者の処遇と就業条件の改善に関する研究」
厚生労働省職業安定局要請研究

研究期間

令和2年度~3年度

研究担当者

小野 晶子
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
古俣 誠司
労働政策研究・研修機構 リサーチアソシエイト

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
ご購入について
成果普及課 03(5903)6263

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