調査シリーズ No.78
人材派遣会社におけるキャリア管理に関する調査(派遣元調査)

平成22年11月 5日

概要

研究の目的と方法

  • 派遣労働でキャリアは形成できるのか。その実態を探るべく、JILPTでは、派遣労働者のキャリア形成や働き方に注目し、派遣元、派遣先、派遣労働者の三者に向けて調査を行った。三者に対し同時に調査することで、キャリア形成の行われ方、働き方の状況を多面的にとらえ、派遣労働におけるキャリア形成の現状と問題点を明らかにしている。
  • 本研究は、その一環として派遣元に対してアンケート調査を行った。対象は、全国の労働者派遣事業の登録事業所、5,000事業所(内訳:特定労働者派遣事業所(以下、「特定派遣」という)2,500事業所、一般労働者派遣事業所(以下、「一般派遣」という)2,500事業所)。有効回収数は1,620件、回収率は32.4%。
  • 派遣元調査では、派遣会社が派遣労働者のキャリアをどのように考え、管理・支援しているのか、派遣に際しての賃金や、マッチングはどのようなものなのか、派遣社員から正社員へ転換する人はどのくらいいるのか、また、年齢の上限はあるのか、などについて調査を行った。

主な事実発見

  1. 過去1年の平均時給額は軒並み下落しており、特に一般派遣でその傾向にある。下落幅が大きいのは「その他の技術・クリエイティブ職」(特定101.1円/一般85.7円)、「情報システム開発」(特定70.3円/一般80.2円)、「機械設計」(特定42.6円/一般8.9円)である。
  2. 賃金上昇の要因は、特定派遣、一般派遣共に、「貴社での稼働経験が長くなるにつれて」、「スキルや職務遂行能力があがったとき」。また、一般派遣の方が「同一派遣先での勤続が長くなったとき」、「派遣先での仕事が高度化したとき」、「派遣先での仕事の幅・量が増えたとき」、「派遣料金の世間相場が上がったとき」、「派遣先を新しく変わるとき」と、派遣先の事情や相場など外部要因の影響が特定派遣よりも高い。
  3. 業務未経験者の派遣実績は、一般派遣72.2%、特定派遣45.7%と、一般派遣が26ポイント高い割合を示している。業務別にみると、「一般・営業事務・データ入力等」(特定17.6%、一般23.4%)、「その他製造」(特定25.4%、一般27.5%)、「その他軽作業」(特定11.9%、一般21.8%)といった比較的高い技能レベルが求められない業務において、その割合が高い。
  4. 年齢が高くても仕事の紹介が比較的容易な業務の上位3業務での「年齢上限」の平均は、特定派遣で49.52歳、一般派遣で51.87歳と一般派遣の方がやや高い。業務ごとでは「一般・営業事務・データ入力等」「情報処理システム開発」は40歳代がピーク。製造業務、軽作業系は50歳代、60歳以降も派遣が容易とする事業所も多い。以上のことから、事務系、技術系では40歳代に「壁」が訪れることが推測される一方、製造業務や軽作業では年齢上限は事実上ない。
  5. 一般派遣における直接雇用(正社員に限らず、契約社員やパートアルバイトも含む)への転換の有無を転換形態別にみると、最多は「通常派遣を経て転換」(45.0%)であった。これは「紹介予定派遣」からの転換(24.7%)や「自由化業務3年経過後転換」(27.3%)より、20ポイント以上高い。
  6. 今後の人材派遣業の方針では、製造業務派遣や登録型派遣の自由化業務について今後規制されることが見込まれたため、「業務請負事業」や「人材紹介事業」へのシフトが予想される。特に、一般派遣では、 (1) 「業務請負事業の拡大」57.7%、 (2) 「人材紹介事業の拡大」39.0%――の2つの事業へのシフトが顕著である。特定派遣では、「派遣社員の高付加価値化による派遣料金の上昇」(25.8%)が高く、質的競争による事業戦略を考えていることがわかる(図表参照)。

政策的含意

  • 派遣先の直接雇用への転換数では「通常派遣を経て転換」が「紹介予定派遣から転換」のおよそ3倍となっている。
  • 派遣業界は、今後の事業方針として、業務請負事業や人材紹介事業への拡大を検討している事業主が多い。

図表 今後の事業方針(M.A.)

図表 今後の事業方針(M.A.)/調査シリーズNo.78

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

奥田栄二
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
小野晶子
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
郡司正人
労働政策研究・研修機構 主任調査員
福田直人
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員(東京大学大学院経済学研究科博士課程後期)
森山智彦
同志社大学社会学部助教

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.50)。

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