調査シリーズNo.201
フリースクール・サポート校等における進路指導・キャリアガイダンスに関する調査結果

2020年3月27日

概要

研究の目的

従来型の学校になじめずに不登校となった生徒の進路として存在するフリースクールやサポート校等の施設において、特に高校生に相当する年代(中学卒業後の15~19歳)の生徒に対する、キャリア支援や進路指導等の実態を明らかにすることを目的とする。

研究の方法

アンケート調査

実査期間:平成30年4月~5月、有効回答数:120校(回収率31.3%)

主な事実発見

(1)回答校・回答者の属性に関する特徴

  • 回答校(施設)の運営主体は特定非営利活動法人(NPO法人)が4割程度で、活動名称を「フリースクール」と称する施設が半数程度あり、通所型が9割程度を占めていた。地域特性では、東京を含めた関東地方が最も多かった。2000年以降にサービス提供を開始した施設からの回答が半数以上を占めた。財政面の特徴として、「1万円~5万円未満」の入会金を設定し、月額の会費が「1万円~5万円未満」かかる施設が半数程度あった。団体運営に関して財政的な支援を特に受けていない施設が半数程度あった。
  • 生徒の対象年齢に制限を設けている施設は8割以上あり、年齢制限の下限は学齢期(6~7歳)を境にするとの回答が最も多く、年齢制限の上限は特に設けていないとの回答が最も多かった。施設の所属(登録)人数について、中学卒業後の15~19歳の年代の生徒が1名以上所属する施設での回答値を平均すると19.73人、1日平均来室人数は8.24人であった。障がいのある生徒については9割以上の施設で受入実績があり、特に発達障害の様々な特徴を持つ生徒の受入が多いことが示された。
  • 施設の開室日は平日中心の週5日が最も多かった。電車・バス等の公共交通機関を使って比較的近場から通うケースが最も多かった。生徒の平均在籍期間は「1年以上3年未満」との回答が5割を超えた。
  • 施設で働く人材については、少数精鋭の常勤有給スタッフの活用と、一定規模の非常勤有給スタッフの活用が進んでいた。スタッフの主な職歴として、教育職(中学・高校の教員、塾講師)が半数近くあり、一般企業勤務経験者がそれに続いた。本調査に回答したスタッフの経歴は、5年未満の経験の浅いスタッフから15年以上のベテランまで様々であった。回答者の大半は、フリースクール等への通学経験や勤務経験がなく、企業勤務経験者や教育職経験者が多かった。回答者の大半は生徒や保護者との相談業務や見学者対応を行っているが、その他にも仕事内容が多岐にわたっており、業務の多さと施設の財政面に悩みを感じていた。
  • 生徒の学校復帰に関するスタッフの考え方について、それを目標とするのではなく生徒の自主性に任せる姿勢をとるが、基礎学力は重視したいと考えていた。スタッフの学歴や学校歴、大学入試等に対する考え方を、労働政策研究・研修機構(2017)で実施した高校進路指導担当教員の回答結果と比較したところ、偏差値の高い大学が生徒の将来に有利との考え方については、高校教員が概ねそのように考えているのに対し、フリースクール等のスタッフには否定的な見解が多く、両者で大きく意見が異なっていた。生徒の個性を発揮できるような多様な入試制度に関する意見では、フリースクール等のスタッフは高校教員よりも賛成の回答が多かった。

(2)施設の具体的活動について

  • 「個別の学習」(通信制高校の勉強のサポート等)は回答施設の9割以上で実施されており、「個別の相談・カウンセリング」が次に多かった。施設側が受けている個別相談の内容で最近増えているものは、発達障害に関する相談と、進路相談(進学先、就職先について)という傾向があった。相談に関する今後の課題として、外部の専門機関との連携の推進が最も多く挙げられていた。
  • 生徒が抱える様々な課題については、施設として対応ができているとの回答が9割近くに上った。施設の教育方針や環境が合わずに途中退会する場合、その後の進路で最も多かったのが、進学や受験準備という進路であった。一方で、進学も就職もせずに自宅にいるとの回答も一定割合おり、施設を中途退会した場合の不安定な状況も示唆された(図表1)。スタッフ側から見た保護者が抱える悩みに関する回答では、保護者が最も心配しているのは我が子の将来の自立についてであった。

    図表1 フリースクール等退会後の進路状況

    図表1画像

  • 卒業生への追跡調査について、実施に前向きな施設が約7割に上った。卒業生への支援内容で最も多く挙げられていたのは、生活上の悩み相談、進学相談、学習相談といった、様々なトピックの寄り添い型の支援であった。
  • 外部機関等との連携の状況については、卒業生個人との連携や、他のNPO・ボランティア団体との連携という回答が多かった。連携の効果に対する施設側の評価は概ね高かった。人手が足りないのでやむを得ず連携で人手を補うという考えではなく、生徒への質の高い支援を目的として、連携という手段を積極的に用いていた。今後の連携にも前向きな姿勢を示す施設が大多数であった。

(3)フリースクール等における進路指導の実際

  • 結論として、フリースクール等では「進路指導」や「進路相談」と銘打った指導や相談が必ずしも明示的には実施されておらず、個別対応で行われている傾向があった。進路指導の個々の項目に関して、フリースクール等での実施率は高校よりも低く、進路相談や進路指導を全く行っていない施設もごく一部に存在していた(図表2)。一方で、各施設における進路指導の推進状況や、スタッフ自身による進路指導のあり方については、ある程度進められているとの認識に立つ施設が多かった。進路決定に関して生徒が持ちやすい課題や問題点について尋ねたところ、情報や条件の偏り、進路意識や意欲の低下が課題として挙げられた。さらに、進路指導における悩みとして、フリースクール等では生徒の進路選択を現実問題として考える以前に、精神面や日常生活の困難さへの対処が必要で時間がかかる点が指摘されていた。
  • 大学等選びで最も重視している観点(偏差値以外)は、生徒の希望に合った大学であることと、学内のフォロー体制の充実や、交通の利便性、学費の安さといった学生自身及び家庭にとってのメリットも重視されていた。フリースクール等では生徒の多様な個性を受け止められるような入試制度が重視される一方で、卒業後の就職状況や大学で提供される学術レベル等への重視度は相対的に低く、その点は高校調査の傾向と異なっていた。

    図表2 進路指導の各内容に関する実施割合(複数回答)

    図表2画像

    ※無回答件数:本調査 3、高校調査 18

    ※注1:高校調査では、「大学関係者による講演会・説明会 」と「企業関係者による講演会・説明会」の2項目で尋ねていた。当グラフ上は「大学関係者による講演会・説明会」の値のみ掲載した。

    ※注2:高校調査では、「卒業生による受験体験談や大学紹介」という表記を用いた。

    ※注3:高校調査では、「大学等受験のための模擬試験(業者テスト)」という表記を用いた。

    ※注4:高校調査では、「就職のための模擬試験(業者テスト:公務員試験等含む)」という表記を用いた。

  • 「適性」の概念には、「興味」や「意欲」が含まれるほか、フリースクール等では、「学力」や「得意教科科目」が「適性」に含まれると考える割合が高校教員の回答割合よりも低かった。フリースクール等での適性把握の方法は、調査や検査等のツールを利用するよりも、スタッフによる直接的な面接や観察が中心であった。適性把握の必要性については、フリースクール等も高校と同程度に認識されており、実践状況についても一定程度進んでいるとの認識が得られた。もし適性に合わない進路を選ぶ生徒がいた場合は強く指導するのではなく、本人の意向を重視した指導を行う姿勢が示されていた。
  • 進路選択に対する支援や指導において今後重視したい点については、生徒の生活全般の支援や保護者との連携強化、スタッフのカウンセリング力向上といった、支援者としての総合力を向上させる取り組みが挙げられた。今後の取り組み予定として、生徒に対する基本的支援方針(自主性尊重、気持ちの受け止めや寄り添い等)を言及する施設が多かった。

(4)フリースクール等における具体的な支援事例の紹介

調査回答校の一部に協力を依頼し、補足的なヒアリング調査(サポート校、フリースクールの2事例)を実施した。両施設とも設立経緯や教育方針、教育内容等は大きく異なっているが、共通して確認されたことは、子ども・若者に対して、信頼関係が十分に構築された教員が柔軟な個別支援・個別指導を行っていることであった。それぞれの生徒が抱える事情に合わせて、学習や生活上の困難を乗り越えるための措置がとられていた。進路指導やキャリア支援は、必ずしも系統立って行われているわけではなかったが、信頼関係のある教員との個別相談の中に包含されて実施されていた。すなわち、日常の教育活動の中に、進路指導やキャリア支援が一体化して溶け込まれているために、進路指導・キャリア支援の実態が表面化しにくい構図になっていることが示唆された。

政策的インプリケーション

高校生に相当する年代の生徒を指導するフリースクール等の場合、進路指導と特別に銘打っていなくても、日常の学習支援や生活支援の延長線上に、進路指導的な活動が行われていた。施設のスタッフによると、生徒も保護者も将来の進路や自立に関心を抱いているとの報告もあり、施設側も、生徒の将来の進路へ向けた指導を重視したいとの意向も明らかとなった。進路指導に関するリソースとして、近隣のハローワーク、地域若者サポートステーション等の公的な就職支援機関との連携が有効と考えられるが、現状では、フリースクール等の施設側と、就職支援機関側においてお互いの領域に対する情報不足の側面も大きいと思われ、今後の伸びしろも多く残されていると言える。

フリースクール等は、一般的な高校と比較すると規模も小さく、当事者である生徒や保護者でなければ具体的な様子や活動実態をなかなかうかがい知ることができない。例えば、地域の就職支援機関からフリースクール等へ積極的にアプローチすることで、フリースクール等の在校生だけでなく、施設を離れてゆく生徒(卒業だけでなく中退も)に関する情報を共有し、支援策を共に検討することで、フリースクール等の若者へのキャリア支援の充実に貢献できるのではないかと考える。さらに、新たな進路先での適応に悩む卒業生や、フリースクール等を中退する生徒に対しても、目先の進路にとらわれずに長期的な視野による人生設計を支援するという方向性で、キャリア・コンサルティングの専門人材による支援も有効ではないかと考えられる。キャリア・コンサルティングの専門人材側においても、フリースクール等というフィールドに対して、今後より一層の理解と関心をもつことが併せて必要と思われる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業情報、就職支援ツール等の整備・活用に関する研究」

研究期間

平成29年度~令和元年度

研究担当者

深町 珠由
労働政策研究・研修機構 主任研究員
秋山 史子
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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