労働政策研究報告書No.224
現代イギリス労働法政策の展開
概要
研究の目的
本研究は、現在イギリス政府によってなされている労働法政策の淵源であるTaylor ReviewとGood Work Planを中心に、その対極に立つ政策文書(Manifesto for Labour Law, Rolling out the Manifesto for Labour Law)や関連する政策文書(労働・年金委員会による報告書、労働・年金及びビジネス・エネルギー・産業委員会による報告書、Industrial Strategy)などに関しても具体的に紹介し、それらによる提案事項につき論じつつ研究者による反応も確認することとし、もって、現代イギリスにおける労働法政策の展開を明らかにすることを主な目的とする。
研究の方法
文献サーベイ 研究会開催
主な事実発見
イギリス労働法における多岐にわたる論点を本研究で扱うこととなったが、その中にあって、とりわけ日本でも問題となっている論点として、雇用上の法的地位に係る問題を挙げることができるだろう。イギリスでは雇用上の法的地位について3分法(とはいえ被用者は労働者に含まれる)が採られているが、それをどうにか維持しようとし、あるいはそれを前提とするのがTaylor ReviewやGood Work Planの立場であり、自己の計算に基づいて事業を営んでいる個人を唯一の例外として「単一の法的地位」を主張(2分法の採用を主張)するのがManifesto for Labour LawやRolling out the Manifesto for Labour Lawの立場であった。今後の政治的動向によっては、2分法が採用される可能性もないわけではない。
かかるようなイギリスの議論は、いかなる保護をどこまでの人々に及ぼすかという根源的な問いについての議論であることを、改めて認識させるものであった。どちらかといえば、2分法を主張するようなドラスティックな立場に理論的妥当性があるようにも思われるが、その反面において、それがどこまでイギリス実社会における様々な要請に応えられるかは未知でもあり、また、「単一の法的地位」への該当性についての議論の深化も再度必要になるところ、複眼的にはいずれが最適解なのか不明ともいいうる。
ところで、2022年7月に出された政府による応答文書では、Good Work Planが雇用上の法的地位についてのテストの明確性を改善するための立法をなし雇用上の諸権利と税制との整合性を図ると約したことを確認しつつも、新たな立法による利益よりもそれに伴うリスクの方が大きいし、そうした改革は企業が新型コロナウイルスのパンデミックからの回復に注力しているときにコストと不確実性を生じさせるなどとして、制度的な見直しを見送る旨が示されている。
よって、当分の間は雇用上の法的地位に関する制度的な見直しは行われないものとみられるが、仮に政権交代が生じた場合など、Manifesto for Labour LawやRolling out the Manifesto for Labour Lawに示された提案事項が実現する可能性があり、今後もその動向を注視する必要があろう。
政策的インプリケーション
イギリスにおける法政策に係る議論は様々な示唆を与え得る。大きな議論の枠組みでは、雇用上の法的地位に係る問題について、日本では3分法の可能性を探る議論も存在するところ、3分法(但し、被用者は労働者に含まれる)を採るイギリスにおいて2分法の採用を主張するような議論が存在しているという点は示唆的といい得る(とはいえ、イギリスにおける3分法は、イギリス固有の事情から生じたものであり、独特の法構造となっている点には留意が必要である)。
政策への貢献
厚生労働省をはじめ、各種政府会議で資料として活用されることが期待される。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「多様な働き方とルールに関する研究」
サブテーマ「多様な/新たな働き方と労働法政策に関する研究」
研究期間
令和4年度
執筆担当者
- 滝原 啓允
- 労働政策研究・研修機構 研究員
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