労働政策研究報告書 No.197
現代先進諸国の労働協約システム(フランス)

平成30年3月30日

概要

研究の目的

フランスにおいて、労働協約を中心とした集団的労働条件の規範設定システム、およびそれを取り巻く集団的労働関係にはどのような特徴があるのか。また、近年のいわゆる「分権化」の動きに対し、産業別労働協約および企業別協定の役割と機能について、どのような変化が生じているのかを明らかにする。

研究の方法

日本で入手可能な文献による基礎調査並びに、現地(フランス)におけるヒアリング調査及び文献収集。

主な事実発見

  1. 産業別労働協約の規制権限について

    フランスにおいては、規範は本来『法律』により定めるという古典的な伝統があり、他方、実態として、労働組合が(ドイツなどと比べ)組織的に脆弱であることを前提に、産業(市場)における共通規範を設定する装置が必要とされた。そこで、1936年法以来、いわゆる「代表的労働組合」の概念と、これによって支えられる産別協約の拡張適用制度によって、労働協約による集団的労働条件の規範設定がなされてきた。この結果、フランスにおいては現状でもなお、(産業別)労働協約の適用率が90%以上あり、少なくとも労働条件の「最低基準」の設定としては一定の機能を保ち続けている。

  2. 「分権化」の実態

    フランスにおける集団的労働条件の規範設定システムにかかる分権化の象徴としてしばしば取り上げられるのは、2004年のフィヨン法および2008年法による改革である。しかし、これらの改正は、法的な原則(有利原則)に大幅な変更を施した点において、象徴的な意味はあるが、フランスの労使関係の実態を見ると、フランスにおける「分権化」の端緒は、1980年代のオルー改革がもたらした企業別交渉の活性化であると評価すべきである。そして、この企業別交渉の活性化は、とりわけ大企業における労働条件(賃金制度)の、産業別協約にもとづく労働条件(賃金制度)からの遊離をもたらすこととなった。このため、フィヨン法による改正が行われた時点で、労使交渉の基盤が確立された大企業においては、既に企業レベルの集団的労働条件規範設定は、産業レベルのそれからは自律した状況にあり、同法による改正は結果として実務に大きな影響をもたらさなかった。

    また、1968年まで企業内における組合支部の設置ができなかったこと、他方でオルー法による義務的団交事項の法定がなされたことの結果として、フランスにおける「分権化」は、労働組合が産業レベルの組織から企業の中に入っていく過程でもあった点に留意すべきである。こうした事情から、他の欧州諸国と異なり、企業別交渉の活性化を組合も支持していたという点に大きな特徴がある。

  3. 近年のフランスにおける集団的労使関係政策とその影響

    フィヨン法および2008年法による改革以降も、フランスにおいては集団的労使関係に関する様々な法政策が打ち出されている。具体的には、義務的交渉事項の増加、「代表性」の改革(2008年法)、労使協定による雇用保護計画の「優遇」(2013年法)、政策立法にかかる協約締結の義務化、産業単位の「整理」などである。これらの改革の1つの集大成とも言うべき2016年のエル・コムリ法による改革では、競争力協定の強化と企業レベルの集団的決定が個別の労働契約の変更をもたらしうる改革がなされている。これらの改革の中には、フランスにおける伝統的な労働法システムの根幹に関わる部分も含まれており、今後の影響がいかに生じるかについては今後も注目する必要がある。

政策への貢献

公表結果は厚生労働省資料として各種政府会議で活用される予定である。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「労使関係を中心とした労働条件決定システムに関する調査研究」
サブテーマ「規範設定に係る集団的労使関係のあり方研究プロジェクト」

研究期間

平成28年度

執筆担当者

細川 良
労働政策研究・研修機構 研究員

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