労働政策研究報告書No.149
成人キャリアガイダンスの多様なニーズとそのあり方に
関する調査研究

平成24年 3月30日

概要

研究の目的と方法

仕事と家庭をめぐる昨今の環境変化によって30代~40代の就労者を中心とするミドル層の働き方は変化し、新たなキャリアガイダンス・ニーズが生じている可能性がある。そこで、本研究では、30代・40代の正規就労者・非正規就労者・無業者・求職者・専業主婦を対象に調査を実施し、現在どのようなニーズがあるのかを明らかにし、現在の就労状況・意識、これまでのキャリア等との関連を検討することを目的とした。調査は30~40代の調査会社モニター約4,000名(30代・40代×男性・女性各1,000名)を対象とした郵送調査であり2011年3月に実施した。

主な事実発見

  1. 現在、求職中の専業主婦あるいは求職中の無業者(失業者)において自らのキャリアや職業に対する問題意識が高く、キャリアガイダンス・ニーズが高かった(図表1参照)。より細かくみた場合には、転職を強く希望している場合、現在の職業生活に対する満足感が低い場合、無業者で配偶者がいない場合、就業者層では自分のキャリアに向けて具体的に行動を起こしている場合、キャリアへの問題意識が高かった。

    図表1 キャリアに対して現在問題を感じる程度

    図表1 キャリアに対して現在問題を感じる程度/労働政策研究報告書No.149

  2. 現在の意識との関連では、自尊感情が低い者もしくは抑うつ傾向がある者は自らのキャリアや職業生活に問題を感じている割合が高かった。特に、抑うつ傾向の高い回答者は、過去に人間関係、倒産・リストラ、職場のトラブル、配偶者との離死別など問題を抱えていたことが多く、そうした問題が現在に至るまで影響を与えているようであった(図表2参照)。

    図表2 抑うつ傾向ありの者が過去にキャリアガイダンスを必要とした場面

    図表2 抑うつ傾向ありの者が過去にキャリアガイダンスを必要とした場面/労働政策研究報告書No.149

  3. 上記以外の結果として、例えば「学校時代に成績が悪かった」「学校卒業時に就職活動で不採用であった」「転職回数が多い」など、学校から職業への移行やその後の若年キャリアの問題をそのまま30~40代の成人キャリアの問題に持ち越していることが示された。一方、中核的な正社員層ではキャリアに対する問題意識およびサポートのニーズは低かった。

政策的含意

  1. 求職中の専業主婦、その他の求職者、無業者、非正規就労層がミドル層において拡大していることから、ミドル層全般のキャリアガイダンス・ニーズが拡大している。ミドル層に向けた様々な成人キャリアガイダンス施策は従来から行われているものも含めて拡充する方向で考えるべきである。なお、抑うつ傾向がある対象層は、従来、臨床心理学的な介入支援の対象として捉えることが多かったが、本研究の結果から適切なキャリアガイダンス的な介入支援によって何らかの解決が図られる場合が多い可能性が示唆された。
  2. 成人キャリアガイダンスの内容としては「情報」「テスト」「相談」の順にニーズが高かった。現在、「情報」「テスト」「相談」は別個に提供されることが多いが、相互に連結することで費用をかけずにより充実した体制が整備できる可能性がある。なお、 (1)自宅で時間を特定しない短時間の簡便なキャリアガイダンス、 (2)職業訓練もしくは生涯学習と絡めたキャリアガイダンスなど従来型のキャリアガイダンスではカバーしにくい新たなニーズも見出された。
  3. 大企業で働くホワイトカラー大卒男性のキャリアガイダンスは本人のニーズが低いために相対的に看過されやすい現状がある。しかし、相対的に問題が少ない対象層であるが故に問題が放置されやすく適切な配慮が行き届かない場合がある。改めて大企業におけるキャリアガイダンスの必要性を人事労務管理・人材育成との関わりをふまえて考慮する必要がある。

政策への貢献

上記の事実発見および含意をふまえて、(1)日本のミドル層の環境変化に伴う新たなキャリアガイダンス・ニーズに対する対応、(2)ミドル層におけるパーソナルな支援とキャリアガイダンスとの接合、(3)大企業等における中核的なホワイトカラー層に対するキャリアガイダンスの再検討等について、政策的な示唆を行った。

本文

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研究期間

平成23年度

執筆担当者

下村英雄
労働政策研究・研修機構主任研究員
室山晴美
労働政策研究・研修機構主任研究員
深町珠由
労働政策研究・研修機構副主任研究員
高久聡司
労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー
川﨑友嗣
労働政策研究・研修機構特別研究員(関西大学教授)

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.58)。

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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