ディスカッションペーパー 18-06
職業レディネス・テスト第3版の尺度の信頼性および換算規準の妥当性に関する検討

平成30年10月3日

概要

研究の目的

「職業レディネス・テスト第3版」は、2006年の公表から10年以上が経過し、心理検査におけるテスト・スタンダードの観点から改訂の必要性を検討する時期を迎えた。そこで本研究では、検査を構成している3つの下位検査(A検査:職業興味、B検査:基礎的志向性、C検査:職務遂行の自信度)に関する尺度としての信頼性および第3版で用いられている中学生、高校生の換算規準の妥当性の検討を行った。

研究の方法

(1)分析データ

2007年4月から2017年7月までに全国から集められた中学生3万8,622名、高校生2万1,733名の「職業レディネス・テスト第3版」の回答記録が分析された。

(2)検査の構成

A検査(職業興味)とC検査(職務遂行の自信度)は個別職業の職務内容を記述する54項目で構成される。54項目は、現実的(R)、研究的(I)、芸術的(A)、社会的(S)、企業的(E)、慣習的(C)の6つの職業領域に分かれており、一つの領域には9項目が含まれる。各項目についてA検査では興味(「やりたい」「どちらともいえない」「やりたくない」)、C検査では自信の程度(「自信がある」「どちらともいえない」「自信がない」)を3件法で 回答する。B検査は日常生活での行動傾向や態度に関わる64項目に対して「あてはまる」、「あてはまらない」の2件法で回答する(1~0点で採点)。64項目は3つの志向性で構成され、対情報志向(D志向)、対人志向(P志向)を測定する項目は各24項目、対物志向(T志向)には16項目がある。

(3)分析方法

尺度としての信頼性の検討に関しては、3つの下位検査ごとに各検査を構成する項目への回答を用いて因子分析と信頼性係数の算出が行われた。換算規準の妥当性に関しては、A検査とC検査で得られる6つの領域(RIASEC)、B検査で得られる3つの志向性(DPT)ごとに、中学生、高校生それぞれの男女別の合計得点の平均値の水準と経年変化が検討された。今回のデータの分析結果は、「職業レディネス・テスト第3版」の開発時に集められた標準化データの値や傾向と比較検討された。

主な事実発見

1.3つの下位検査における信頼性の検討

中学生、高校生別に各検査への回答を得点化し因子分析を行ったところ、A検査とB検査で、本来の想定とは異なる因子にも負荷量が高い項目がみられたものの、全体としては第3版の因子構造は概ね維持されていることがわかった。

ずれがみられた点として、A検査(職業興味)において、企業的領域(E)の1~2項目が芸術的領域(A)にも高い負荷量を示したことがあげられる。中学生では、企業的領域(E)の項目である「客を集めるため、広告や催し物などを企画する」が芸術的領域(A)にも高い負荷量を示した。また、高校生では上記項目に加えて「世の中のできごとをいち早く取材し、新聞にその記事を書く」も芸術的領域(A)に高い負荷量を示した。ただし、これらの項目もC検査(職務遂行の自信度)では、本来、想定されている企業的領域(E)の因子にまとまった。また、B検査(基礎的志向性)では高校生のデータで、対物志向(T志向)の項目である「自然公園やアスレチックに行くのが好きだ」が対人志向(P)にも高い負荷量を示した。C検査(職務遂行の自信度)については中学生、高校生ともに第3版開発時との因子構造上のずれはなかった。

他方、A検査とC検査のRIASECの各領域とB検査のDPTの各志向性を測定する項目を用いてそれぞれ合計得点を算出し、信頼性係数を算出したところ、中学生、高校生ともに第3版開発時と同程度の高い値が得られた(図表1)。

図表1 各検査の下位尺度ごとの信頼性係数(クロンバックのα係数)

図表1画像

2.「職業レディネス・テスト第3版」の換算規準の妥当性の検討

中学生、高校生の男女別に年度をこみにして各検査、下位尺度ごとの合計得点の平均値を算出し、「職業レディネス・テスト第3版」の作成時に得られた中学生、高校生の平均値と比較した(図表2)。

図表2 各下位尺度の中学生、高校生の男女別平均値(mean)と標準偏差(SD)

図表2画像

※A検査とC検査のRIASECはそれぞれに含まれる9項目の合計得点(0~18点)の平均値。B検査のD志向とP志向は各24項目の合計得点(0~24)の平均値、T志向は16項目の合計得点(0~16点)の平均値である。

「職業レディネス・テスト」では各領域の合計得点を換算表で標準得点に変換するが、その際の換算規準は1点刻みとなっている。そこで、本研究のデータで算出した平均値と第3版作成時に算出した平均値の差が1.0以上となっている尺度を検討した。A検査に関しては、中学生、高校生の男女ともに平均値として1.0以上の差がみられた領域はなく、興味の得点による領域の順位も今回のデータと第3版のデータでほぼ一致した。B検査に関しても、中学生、高校生の男女ともに平均値で1.0以上の差がみられた志向性はなかった。C検査では、中学女子の芸術的領域(A)の得点が今回のデータで第3版作成時よりも1.05大きかった。また、高校女子の今回のデータの慣習的領域(C)の得点が第3版作成時よりも1.08小さかった。

一方で、中学、高校の男女別に6領域、3志向性の平均値を2007年度から2017年度までの長期的な水準でみたところ、どのグループの得点も概ね同じ水準で推移していた。上記の平均値で示されたC検査における中学女子の芸術的領域(A)の高さと高校女子の慣習的領域(C)の低さも2007年度から同じ水準で推移しているため、今回の得点は近年にかけての一定の上昇や下降による変化とは考えにくく、データの特性に影響されている可能性が考えられた。そこで、全体の結果を総合的に検討し、一部の領域において第3版作成時との得点の差がみられたものの、換算規準の変更が必要になるほどの問題とは考えにくいという結論に至った。

3.上記を踏まえた改訂の必要性の検討

上記を踏まえた結果、「職業レディネス・テスト第3版」の信頼性、妥当性は今のところ維持されており、現時点においては検査の全面改訂や換算規準の見直しが必要となるほどの大きな問題は生じていないと解釈した。なお、今回の結果で尺度構成上のずれがみられた項目および第3版開発時の標準化データの値との得点差がみられた下位尺度については、今後の継続的な観察の必要性が指摘された。

政策的インプリケーション

本研究でとりあげた「職業レディネス・テスト」は、一般販売されていると同時に、厚生労働省から公共職業安定所を通して中学校、高等学校の希望校に無償で配布され、進路指導や就職支援、あるいはキャリア教育の場面で生徒の自己理解と進路選択を促進するために活用されるツールとして大きな役割を果たしている。加えて近年は、大学、短大、専門学校等の高等教育課程での実施も広がっており、若年者の職業意識の形成や進路選択に役立てられている。

本研究では改訂作業の一環として、検査の信頼性と妥当性の検証を行ったが、「職業レディネス・テスト」を現場の利用者に安心して使い続けてもらうためにこの検証過程は不可欠であり、本研究で得られた結果は「職業レディネス・テスト」の普及と利用の基盤となる資料として位置づけられる。

政策への貢献

「職業レディネス・テスト」の改訂作業に伴い、本稿の結果は「手引」の中に記載され、検査の信頼性と妥当性を実証する基礎資料となる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業情報、就職支援ツール等の整備・活用に関する研究」

研究期間

平成29年度~平成33年度

研究担当者

室山 晴美
労働政策研究・研修機構 理事
深町 珠由
労働政策研究・研修機構 主任研究員
鎌倉 哲史
労働政策研究・研修機構 研究員
松原 亜矢子
労働政策研究・研修機構 統括研究員

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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