ディスカッションペーパー 18-01
労働市場の態様を軸とした65歳以降の雇用に関する一考察

平成30年2月14日

概要

研究の目的

65歳以降の雇用に関わる労働市場の描出と課題の提示(JILPT第3期中期計画期間中(2012年度~2016年度)の研究を補完)

研究の方法

第3期中期計画期間中にJILPTが実施した、以下のアンケート調査の二次分析

  • 高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)〔調査時点:2015年7月〕
  • 60代の雇用・生活調査〔調査時点:2014年7月〕

主な事実発見

65歳以降の高齢者が、意欲に応じて働ける社会を形成することが求められている。この実現のためには、継続雇用と中途採用、すなわち内部労働市場と外部労働市場の双方の機能を、できる限り活用しなければならない。

こうした認識の下、本稿ではJILPT第3期中期計画期間中に実施した企業・個人を対象とした調査を二次分析することにより、双方の労働市場の状況把握と、65歳以降の雇用を促進する規定要因の析出を試みた。本稿は、同計画期間中の成果の補完、及び新たな課題の提示を目指している。結果として、以下の事項が判明した。

  1. 希望者全員が65歳以降も働ける企業(<65歳以降全員雇用群>)に、希望したら基準に該当する者は65歳以降も働ける企業を加えると(<65歳以降雇用可能群>)、該当する企業の割合は3分の2程度となる(図表1)。基準を作成せずとも人によって65歳以降も雇用される企業があることを想定すると、65歳以降の雇用があり得る企業の割合はこれより多くなろう。この結果からは、65歳以降の継続雇用は進展しており、希望者全員の継続雇用の裾野が、ある程度広がっているようにみえる。しかし、65歳以降で希望者全員を雇用する企業は、本稿によれば1割程度に過ぎない(図表2)。両者の間には大きな差がある。

    また、65歳以降の中途採用を活用する群(<65歳以降中途採用群>)については、<65歳以降全員雇用群>と大きくは重ならない。他方、<65歳以降中途採用群>と<65歳以降雇用可能群>とは、かなりの部分が重なっている。

    図表1 <65歳以降雇用可能群>と<65歳以降中途採用群>の分布

    図表1画像

    図表2 <65歳以降全員雇用群>と<65歳以降中途採用群>の分布

    図表2画像

  2. 賃金制度の変革は、65歳以降の高齢者雇用を進める駆動力となる。JILPTの先行研究と同様、定年を境とした賃金の低下を抑制することは、65歳以降の継続雇用を推進する要因たり得ることが、本稿でも明確になった。しかも、これは継続雇用のみならず、中途採用にも有用であることが示唆される。65歳以降の継続雇用(内部労働市場に関連)と中途採用(外部労働市場に関連)の有無について同一の方式により推計したところ、賃金制度の変革に関わる説明変数が矛盾のない形で(符号が逆転したりせずに)、他の労働市場の態様で65歳以降の雇用を推し進める上でも有益であるとの結果が得られた。

    なお、これ以外の65歳以降における雇用の規定要因についてみると、特定求職者雇用開発助成金や65歳以降の雇用保険料免除について、政策の目指す本来の効果が発揮されていることが示唆される。

  3. 前述のとおり、希望者全てが65歳以降に雇用される社会を形成しようとすれば、継続雇用、中途採用双方の活用が視野に入れられることになろう。とはいえ、高年齢期以降の職歴で継続雇用されてきたのか、それとも中途採用されたのかによって、労働者からみた「望ましさ」に差が生じるのであれば、こうした差を考慮に入れる必要があると思料される。そこで、(労働者にとっての望ましさの一端を示す)仕事に対する満足度と賃金が両者で異なるかについて調べたところ、有意な差は検出されなかった。

    65歳以降の希望する高齢者全てが活躍できるよう、継続雇用あるいは中途採用により労働市場を形成していくに当たっては、労働需要側の雇用管理のあり様によって画定される面が大きい。それで労働供給側の「望ましさ」に影が差すような証左は、本稿における検討の範囲では見当たらない。しかしながら、継続雇用、中途採用の違いによって仕事満足度や賃金を規定する要因が異なる点には、留意を要しよう。例えば、継続雇用では60歳前後の仕事内容の変化が、中途採用では過去における職務能力分析の実施などが、仕事満足度や賃金と関連している旨が示唆される。

政策的インプリケーション

  • <65歳以降全員雇用群>に該当する企業の割合と、<65歳以降雇用可能群>に該当する企業の割合の差は大きく、仮に65歳以降の希望者全てが雇用される社会が目指されるのであれば、どのような方法で、どのようなスケジュールでこうした懸隔を埋めていくのかが鍵となる。
  • 高齢者における中途採用の推進は、(希望者全員ではないにせよ)65歳以降の者を雇用する裾野の拡大にもつながると考えられる。他方、65歳以降の中途採用と希望者全員の雇用については、別個に推進策を講じていく必要性が大きいことが示唆される。
  • 今後、65歳以降の一部の対象者ではなく、希望者全員が雇用される重要性が増すとすれば、企業の雇用管理そのものの変革が求められる。希望者全員について65歳を超える年齢まで雇用する継続雇用制度を導入する企業や、賃金・退職金制度を含む、人事管理制度の見直しなどに取り組む企業の支援・援助が、これまで以上に前景に出ることも考えられる。
  • 高年齢期以降の職歴で継続雇用されてきたのか、それとも中途採用されたのかによって、高齢者の仕事満足度や賃金を規定する要因は異なる。これらの違いを踏まえて企業が対応策を講じることは、高齢者にとっての「望ましさ」を高める上で実りのある結果をもたらし得よう。

政策への貢献

政策検討の基礎資料として活用

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「人口・雇用構造の変化等に対応した労働・雇用政策のあり方に関する研究」
サブテーマ「生涯現役社会の実現に関する研究」

研究期間

平成29年度

研究担当者

千葉 登志雄
労働政策研究・研修機構 統括研究員

関連の研究成果

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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