ディスカッションペーパー 15-02
職業相談の研修研究と実践
―認知的タスク分析の手法を取り入れたグループワークの開発―

平成27年3月27日

概要

研究の目的

本研究の目的は、アクション・リサーチ(action research;Lewin,K.,1948)の考え方に倣い、研究→訓練→実践のサイクルを回していくことにより、職業相談の担当者(以下「職員」という。)を対象とした効果的な研修プログラムを研究開発し、実践を通して、ハローワーク等の職業相談の更なる改善を進めていくことにある。

研究の方法

本研究では、まず、職業相談の研修プログラムへの認知的タスク分析の応用を検討した(研究)。認知的タスク分析とは、仕事における働く人の判断や選択などの「心の働き」に焦点を当てた分析手法である。

ついで、認知的タスク分析の考え方と手法を取り入れ、職員同士で職業相談における重要な判断と選択を共有化する研修プログラムを開発し、ハローワーク等の職員を対象とした研修コースで、この研修プログラムを実施した(訓練)。

研修プログラムの参加者を対象としたアンケート調査を実施し、職業相談の窓口業務を進める上で、役に立つ情報やノウハウを、職員がどの程度、得ることができたかを聞き、現場を想定した研修プログラムの有用性を検討した(実践)。

主な事実発見

研修プログラムの効果を検討するため、2012年度から2014年度にかけて、厚生労働省、都道府県労働局、地方自治体就業支援機関、独立行政法人労働政策研究・研修機構等の主催の15の研修コースで研修プログラムを実施した。研修の参加者総数は294人であった。

研修プログラムの効果を測定するため、研修プログラムの終了後、研修の参加者を対象にアンケート調査を実施した。アンケート調査では、研修プログラムの効果として、「この研修を体験したことに満足している(以下「研修への満足感」という。)」、「職業相談の勘やコツを言葉にするためのヒントを得ることができた(以下「認知的タスク分析の理解」という。)」、「職業相談の窓口業務を進める上で、役に立つ情報やノウハウを得ることができた(以下「有用な情報・ノウハウの取得」という。)」等を聞いた。

図1 研修プログラムの効果

図表1画像

その結果、「研修への満足感」は、「あてはまる」が66.8%、「ややあてはまる」が29.7%、「どちらとも言えない」が3.1%、「あてははまらない」が0.4%であった。ほぼ参加者全員が、肯定的に研修プログラムを評価していた。

「認知的タスク分析の理解」は、「あてはまる」が51.9%、「ややあてはまる」が43.0%、「どちらとも言えない」が5.1%であった。ほぼ参加者全員が、肯定的に研修プログラムを評価していた。

「有用な情報・ノウハウの取得」は、「あてはまる」が49.6%、「ややあてはまる」が42.2%、「どちらとも言えない」が7.8%であった。ほぼ参加者全員が、肯定的に研修プログラムを評価していた。

これらの結果から、参加者は、認知的タスク分析を取り入れた研修プログラムに満足しており、認知的タスク分析を理解できるようになり、職業相談業務に有用な情報やノウハウを得ることができたと言えよう。

政策的インプリケーション

ハローワーク等の職員を対象とした研修への活用により、職場における職員一人ひとりが経験的に蓄積した職業相談の暗黙知を共有し、職業相談の質的向上に貢献できる可能性がある。

政策への貢献

  • 平成26年9月5日に、厚生労働省において、ハローワークにおける就職支援ナビゲーターを対象とした「リーダーナビ養成研修」が実施された。この研修では、就職支援ナビゲーターの技能やノウハウの共有、向上を目的として、本研究で開発された認知的タスク分析の手法を取り入れたグループワークが実施された。
  • 平成26年度厚生労働省委託事業「生活困窮者の就労準備状況判断支援ツール開発事業」において、福祉事務所等からハローワークに対して支援要請されている生活保護受給者等の一般就労に向けた準備状況を判断するための着眼点や基準等を調査する際、本研究で研究された認知的タスク分析の手法が活用された。同事業の成果である「ハローワークでの円滑な支援のための生活困窮者の就労準備状況チェックリスト」と、同チェックリストの「活用マニュアル」の開発に貢献した。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職・採用実現のためのマッチングとコンサルティングに関する調査研究」

研究期間

平成24年度~26年度

執筆担当者

榧野 潤
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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