市民手当から基礎保障手当へ
―ハルツIVへの回帰か?
- カテゴリー:雇用・失業問題
- フォーカス:2026年8月
ハルトムート・ザイフェルト
ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)元所長
1 問題の所在
2023年に導入された市民手当(Bürgergeld)は、2005年に新設され、「ハルツIV(Hartz IV)」として知られた、求職者のための基礎保障制度に代わる制度であった。この新たな給付制度は、旧制度のハルツIVと同様に導入当初から物議を醸していた。問題とされたのは、両制度の基盤となっている「支援と要請(Fördern und Fordern)」の原則であった。労働組合及び社会政治擁護団体が、要請の原則に従わなかった場合の制裁(Sanktionen)が厳しすぎると捉える一方で、使用者団体は、新たな就労のインセンティブが弱すぎると見なしていた。この双方の利害が対立する状況は、旧制度のハルツIVをめぐる議論においても当初から問題とされていたが、解決することができず、最終的に、ハルツIVに代わる市民手当が導入されることになった。支援と要請は常に緊迫したバランス関係にあり、結局のところ、納得できる形で解決されなかった。市民手当がわずか数年で、2026年7月1日に施行された基礎保障手当(Grundsicherungsgeld)に置き換えられたことは当然の帰結と言える。
市民手当が長続きしなかったことには理由がある。その理由を以下で説明する。市民手当に対してどういった点で議論が高まり、なぜ廃止されるに至ったのか、どういった経験が市民手当から得られ、また新たな給付制度である基礎保障手当によって何が変わるのだろうか。本稿では、以下において、これらの疑問を取り上げ、論争の激しかった公開討論や実証研究の要点をまとめる。まずは、市民手当の導入の経緯と、賛否の分かれる給付の基本原理の背景について簡潔にまとめる。
2 経緯・背景
市民手当は、2023年に導入された社会政策・労働市場政策に基づく給付である。市民手当は、就労可能年齢に達していながら、(十分な)所得を自身では稼得できない者を対象とし、生存最低限(Existenzminimum)の保障と人間らしい生活の実現を図るものであった。受給者の未成年の子も市民手当の受給資格があった。市民手当は、それまでの求職者基礎保障制度であった失業手当II(一般には「ハルツIV」として知られる)に代わる給付であった。ハルツIVは労働市場の大改革(ハルツ法(注1)の過程で2005年に施行され、二つに分かれていた給付「失業扶助(Arbeitslosenhilfe)」と「社会扶助(Sozialhilfe)」を統合した。それまでは、社会扶助の受給者は、就労できない者であり、失業扶助は、失業保険受給期間が終了した失業者に支給されていた。失業扶助は期間の定めがなく、前職の税引き後賃金の53%、子がいる場合は57%が支給されていた。基礎保障である失業手当II(ハルツIV)は、基本的に従来の社会扶助の水準で調整され、それは従来の失業扶助の水準よりも低かった。そのため、特に高所得であった求職者については、ハルツIVの導入により部分的に経済状況が悪化することは明らかであった。失業手当II(ハルツIV)では、それまでの失業扶助のように前職の税引き後所得に応じた給付ではなく、統一基準額が適用されたからである。
ハルツIVの基本理念は、最良の社会参加は、職業生活への統合を通じて実現されるというものであり、この理念は市民手当にも受け継がれた。ハルツ法は、自己責任と自発性の強化を目指し、「積極的労働市場政策」を打ち出した。その中核となるのが、要扶助者への「支援と要請」の原則である(Walwei 2019)。ハルツIVの導入とともに根付いたこの二元論は、積極的な社会国家を目指すという基本理念に基づくものである(Schulze et al. 2025)。積極的な社会国家は、受給資格者に対し、支援を行う一方で、仕事を通じた社会統合への積極的な協力を要請する。失業者は、労働行政機関であるジョブセンターの支援を受けて、就労阻害要因の解消に適切に努めなければならない。つまり、失業者は、自らの問題の解決に対する共同責任を負う。協力を怠れば、給付の減額を伴う制裁が科されることになる(Rudolph, Niekant 2007)。当然ながら、実際に、新しい仕事に就くインセンティブを低下させずに、社会保障を付与するというように、支援と要請をバランスよく行うことは容易ではない。
ハルツIVという新しい給付制度は導入当初から物議を醸していた。労働組合は、社会保障の水準が十分ではなく、貧困に陥るリスクがあると批判していた。また、特に健康、年齢、資格といった面で制約のある求職者が応募できるような求人が少なすぎることから、要請の設定が厳しすぎるとの指摘もあった。低賃金の仕事への就労圧力をかけることは、自身の能力よりもレベルの低い仕事への就労を促すもので非生産的であり、応じなければ制裁を科すというのは生存を脅かすものだと主張された(Promberger, Ramos Lobato 2016)。さらに、全面的に必要性の原則に基づいており、他の給付や所得、財産をすべて考慮した上で判断される点も批判された(DGB 2014)。この批判は、給付額が高すぎて、新たに就労するインセンティブを全く与えないものになっているとする使用者団体の反論と対立するものであった。
実証研究では、ハルツIVは、その目的に反して、健康や年齢による制約や、家族の生活状況又は(正式な)資格が不十分であるため、労働市場でのチャンスが限られている貧困層の市民を稼得労働に統合した、という非常に限定的な意味においてのみ成果があったと総括されている(Promberger, Ramos Lobato 2016)。
3 市民手当
3.1 支援面の重視
2023年に導入された市民手当は、ハルツIVの規則の欠点を部分的に是正し、求職者向け基礎保障制度を抜本的に改革するはずであった(Gellermann et al. 2025)。その目的は、持続可能な労働市場への統合を実現することにあった。受給資格者が、労働市場に対して持続的な見通しをもって、長期的に公的扶助から自立できるようにすることが目指された。そのために、いわゆる就労優先の廃止と、職業能力開発の強化が行われた(Lobato et al. 2025)。月額150ユーロの職業継続訓練手当の新たな導入は、特に十分な資格を有さない受給者に職業養成訓練や再教育を受けるインセンティブを与えるはずだった。さらに、市民手当に月額75ユーロの追加手当を支給し、職業訓練資格(Berufsabschluss)の取得を目的としない、8週間以上の職業継続訓練を促進する措置が設けられたが、これは導入から9か月後に廃止された。ある評価によれば、職業継続訓練への参加を増やす推進力が確認できず、参加者数の増加も、参加者層の構成の変化も認められなかったという(Schele, Tübbicke 2025)。したがって、経済的支援が拡充されたにもかかわらず、市民手当受給者の職業継続訓練への参加について数年来続いている減少傾向に歯止めをかけることはできなかった。2012年に公的な支援により職業継続訓練を受けた者のうち、社会保障法典第二編に基づく基礎保障対象者は48%ほどだったが、12年後のその割合は21.8%とその半分にも満たなかった(Sozialpolitik aktuell 2025)。
市民手当受給者(求職者)は、職業継続訓練を受けるよう動機付けることが難しい。この主に長期失業者で構成される集団は、短期間の失業者に比べて、職業継続訓練から距離を置いている。彼らは職業継続訓練を受けることに、特に将来的な経済的利益を見出さない。さらに、職業継続訓練を断念させる健康上の制約や介護・育児の義務を有していることも多い(Artmann 2026)。また、労働市場政策により職業継続訓練講座の参加者は経済的支援を受けられる可能性があるにもかかわらず、市民手当受給者は、他の失業者と比べて、この情報を把握していないことも多い。
なお、市民手当の導入により、受給者の社会的状況は向上した。給付額が引き上げられ、保有できる資産の上限も引き上げられた。また、制裁が科される条件が具体的に定められた。失業者が、面談の約束を守らなかった場合、あるいは連邦雇用エージェンシーが受け入れ可能と判断した仕事を拒否した場合には、これまで同様に制裁を覚悟しなければならない。市民手当における制裁は三段階となっており、1回目の義務違反では基準給付額が1か月間10%減額され、2回目の違反では2か月間20%減額、3回目の違反では3か月間30%減額された。
もっとも、制裁により問題が生じることも判明している(Knize et al. 2025)。制裁は就労を促す一方で、制裁を受けた受給資格者の雇用関係の質は平均的に低下した。新しく結ばれた雇用関係は長続きせず、稼得所得も少ない傾向にあった。
3.2 市民手当受給者の構造的特徴
実際には、市民手当の受給者全員が一律にこのような変更の影響を受けた訳ではなかった。市民手当の受給者は、求職中あるいは失業中の者だけではなかったからである。特に15歳未満であれば、子どもも市民手当を受給できた。そのうえ、市民手当は、すでに就労中であっても、生活していくために十分な賃金を得ていない、いわゆる上乗せ受給者(Aufstocker)も受給できた。上乗せ受給者は、自身の稼得した所得に追加して公的扶助を受給した。さらに、育児、家族の介護、就学又は病気など、無償の活動を行わなければならないために、有償の仕事に就くことができない者も受給していた。
2026年5月には、ドイツの約12世帯に1世帯が求職者基礎保障給付を受給していた(Bundesagentur 2026)。受給者518万人のうち、就労可能な者は4分の3ほどで、そのうち失業中とされる者は約35%にすぎなかったが、そのおよそ3分の2が1年以上失業している長期失業者であった。連邦雇用エージェンシーは、次の3つの理由に該当する場合は、就労可能な受給資格者であっても失業中ではないとみなしている(Bundesagentur 2026, S. 24)。小さな子どもの世話や家族の介護を行っているか、学校や大学に通っている場合、労働市場政策による措置又は社会への統合のための講座に参加している場合、週15時間以上の支援対象とならない就労に従事している場合である。
市民手当の受給者となる確率は、年齢によって大きく異なる。55歳を超えたシニアよりも、15歳から25歳未満の若者が受給者となる確率の方がはるかに高いとはいえ、若者層の方がシニア層よりも支援を必要としなくなるのは早い(Bundesagentur 2026, S.26)。受給の継続期間は、シニア層の方が明らかに長い。4年以上基礎保障を受給している割合は、シニア層が61%であるのに対して、若者層では30%に過ぎない。
4 市民手当に対する批判
市民手当を批判している者であっても、市民手当が社会政策上果たす機能については基本的に異論がない。市民手当は、生存を保障する基礎保障として社会福祉国家の柱を構成する。個人が困窮すれば生計を維持させるし、社会経済的な危機においては社会の安定に貢献する(Stichnoth 2025)。それにもかかわらず、市民手当に対しては導入当初から激しい批判があった。基本的には、ハルツIVに対してと同じ批判だった。すなわち、市民手当でも、生存最低限の保障と低所得層の十分な就労インセンティブの維持という目的の対立が問題とされた(Stiftung Marktwirtschaft 2023)。批判されたのは主に改革で目指された基本的な方向性であり、この改革は「支援と要請」の原則や補完性の原則の緩和を目的としていると指摘された(Schäfer 2022; Stiftung Marktwirtschaft 2023)。その基本的な問題として、社会安定化機能が挙げられた。この機能のため、多くの場合に就労の開始や就労時間の拡大がほとんど報われないかのように見えてしまう。さらに、給付減額率(注2)が高ければ、追加所得の一部が給付額の減額により相殺され、就労しても報われなくなることから、就労のインセンティブが下がってしまう(注3)。さらに国の財政上、市民手当は巨額の歳出項目である(Stichnoth 2025)。
無論、就労のインセンティブを十分に与えるために必要な賃金差を数値化することはそう簡単ではない。その証明は、市民手当を批判する者が担うべきであろう。一方、実証分析によれば、世帯の構成や地域にかかわらず、市民手当の給付額と最低賃金でのフルタイム労働による収入の間には常に賃金差が存在する(Blömer et al. 2024; Seils 2025)。こうした学術的に十分に証明された分析結果があるにもかかわらず、市民手当の給付額の方が最低賃金による収入よりも多いという反対の主張が押し通ってしまっていた。一部のメディアの支持もあって、この主張は公開討論において広い支持を得ていた。市民手当の受給者はそれだからこそ新たに就労しようとしないというイメージが広まっていた。
さらに、改革によって市民手当は給付額を大幅に削減できるとする意見もあったが、この主張が妥当であるかは疑問である。社会保障と就労のインセンティブの間に目的の対立があることを踏まえれば、大幅な削減の可能性があると考えること自体が、あまり現実的ではない。給付の大幅な削減を検討することに対しては大きな懸念がある。生存最低限(Existenzminimum)についての新たな定義が必要になるが、それはこれまでの受給者の必要性に応じて給付額を決定する(Bedarfsermittlung)慣行に逆行することになるため、給付の大幅な削減は非常に難しいだろう。法律上も実現が難しいうえ、受給者(子や若者を含む)に過大な困難をもたらし、貧困に陥ることの結果として膨大な社会的負担が生じることが十分に証明されていることを踏まえれば、逆効果となる(Stichnoth 2025)。
また公開討論では、多数存在するとされる完全拒否者(Totalverweiger)の実像が部分的に脚色されて説明された。完全拒否者とは、就労可能な市民手当受給者で、受け入れ可能な仕事への就労や、職業養成訓練又は労働市場への再編入措置を頑なに拒否する者のことである。一部の数少ない逸話のようなケースを除けば、完全拒否者が多数いると主張する者は、その実証的証拠を一切示すことができなかった。
行政府のデータに基づく科学的分析によれば、いわゆる完全拒否者は非常にまれである(Bella et al. 2025)(注4)。むしろ、就労斡旋の阻害要因を有する求職者の割合の方が比較的高いことを示している。求職中の市民手当受給者のうち、不相応に多いのは、十分な資格を持っていない者と、健康上の制約がある者である(Brussig, Knuth 2025; Böhme, Dingeldey 2025)。男性の48%、女性の39%が受給の理由としてこれを挙げていた(Bernhard, Baisch 2025)。職業資格を持たない求職者の割合は、時とともにさらに増加し、2026年5月には65%となり、職業資格取得の有無の構成はさらに悪化した。そのため、市民手当受給者が失業手当受給者に比べて、就労に移行する機会が大幅に少ないのも当然である。2019年以降、労働力需要が全体的に良好であったにもかかわらず、就労への移行率には明白な低下傾向がみられた(Brussig, Knuth 2025, 643)。市民手当受給者の平均的な求職期間は、失業手当受給者の求職期間よりもはるかに長い。
これまでは、迅速な労働市場への再編入の要請に応えられていないケースが多かった(Bruckmeier & Hohmeyer, 2018)。支援と要請の制度を通じた就労による統合は時とともに減少すらしていた(Brussig, Knuth 2025)。労働市場への再編入の成果が出せなかったのは、1年以上無職の長期失業者の割合が不釣り合いに高いことと関係しているのは確かである。この長期失業者の集団が、空いているポストを巡る競争に勝つことは非常に難しい。失業期間は汚点となることが多く、再就職のチャンスを狭めてしまうからである。さらに、市民手当受給者の就労による統合の成果が優れないことについては、実証分析により、前述した特定の就労斡旋の阻害要因以外に、ジョブセンターが十分に機能していないことに原因があることも確認されている(Brussig, Knuth 2025)。ジョブセンターは就労先の斡旋以外にも多様な業務を抱えていることが多い。全体的に見れば、ハルツIVと市民手当による20年間の基礎保障の成果はあまり芳しいとはいえない。
5 新たな改革:基礎保障手当
市民手当をめぐる対立は、最終的に2026年7月1日から市民手当に代わる基礎保障手当の導入へとつながった。この新たな基礎保障により、立法者は「社会給付をより公正なものとし、より効果的に乱用を防ぐことを目的」(Bundesregierung 2026)として明確なルールを策定しようとしている。しかし、この改革によって、これまで適用されていたすべての原則が放棄される訳ではない。市民手当が改革されても、中核となる目的や原則は引き続き維持される。つまり、積極的な労働市場政策の原則、支援と要請の原則、持続可能な就労斡旋とそのために重要な役割を果たす職業継続訓練の目的、市民手当受給者と協力するための努力は維持される(Gellermann et al. 2025)。ただし、支援と要請の原則に関しては、要請の側に重点が置かれるよう調整される。それはハルツIVへの回帰ということもできるだろう。
変更されるのは、次の原則及びルールである。まず、就労斡旋優先が再導入される。市民手当では職業養成訓練や職業継続訓練の斡旋が優先されていたが、何らかの仕事を斡旋することが優先されることになる。仕事の斡旋ができない場合にはじめて資格取得や職業継続訓練措置が考慮される。市民手当では労働市場への持続可能な再編入に重点が置かれていたが、基礎保障手当では反対に、直ちに仕事や職業養成訓練を斡旋することが再び強調されている。
単身者に関しては、可能な限り、フルタイムの就労斡旋が行われる。健康上の制約のある失業者に対しては、特に斡旋に力を入れることが予定されている。また保有できる資産の上限が引き下げられている。
制裁は特に強化される。支援措置を中断したり、応募しない者は、これまでよりも給付の削減額が大きくなることを覚悟しなければならない。中断したり応募を見送ったりした場合、その都度、基準給付(Regelbedarf)が3か月間減額される可能性がある。これまで制裁が科される理由として最も多かった面談の約束の無断欠席(Meldeversäumnis)に対しては、段階的な対応が予定されている。ジョブセンターにおける面談の約束を無断欠席した場合、1回目であれば、制裁は科されない。2回目の欠席では、現金給付が1か月間30%減額される。面談を約束したにもかかわらず3回連続で現れない者は、最終的に連絡が取れないことを理由として、住宅費補助を含む給付請求権を完全に失うこともあり得る。
新たに導入される基礎保障手当が、特に労働組合や社会福祉団体の激しい拒絶にあったのは当然である(Sozialverband 2025)。労働組合や社会福祉団体は、制裁の厳格化、保有できる資産上限額の引下げ、持続可能な統合措置の欠落を批判している。これに加えて、給付の段階的な減額そのものが憲法違反ではないのかという疑問もある。この問題については、法律上の最終的な判断はまだ行われていない。2019年に連邦憲法裁判所は先例的判決において憲法(Grundgesetz)を援用した。同判決によれば、基礎保障は、人間らしい生存最低限の生活に対する基本的権利に基づき形成される。国家は、人間の尊厳を尊重・保護し、自己の責任の下で生活を営むための前提条件を整える義務を負う。国家は、社会給付において、積極的な協力を要請することができ、制裁を科すことも認められる。その場合には、国家は、厳格な比例性原則に従うことを考慮しなければならない。ただし、判決では、完全な給付の停止は、「現在の認識の下では、憲法上の基準に合致しない」とされた(Bundesverfassungsgericht 2019)。さらに「生存を保障する給付を完全に停止することが、扶助を必要とする自身の状態を克服するための協力と、最終的に収入を得るための就労という目的を促進するために妥当であるという結論の根拠となるような認識は存在しない」とされた。裁判において新たな規定に対してどのような判断が下されるかについては、今後が待たれる。
6 結論
市民手当の実際の真価について判断を下すのは時期尚早である。とはいえ、ハルツIVや市民手当に関するこれまでの経験を踏まえると、制裁の厳格化が迅速かつ持続可能な再統合の実現につながるのかについては疑問がある。これまでの経験によれば、就労による統合において何よりも重要なのは、労働市場の全般的な動向である。基礎保障手当の受給権を有する求職者の大部分を占める長期失業者は、求人数が増え、労働市場における競争の状況が明白に改善すれば、新たな雇用を見つけやすくなるだろう。加えて、費用や労力をかけた職業継続訓練措置や再就労措置を講じなければならない。基本的には、支援・相談の要素と要請の要素のバランスが取れている必要がある。制裁を厳格化しても、健康上の制約や十分な資格の欠如のような就労斡旋の阻害要因をなくすことはできない。ハルツIVはこの教訓を示している。したがって、市民手当を基礎保障手当に置き換える改革により、ハルツIVに回帰するのであれば、成果を出すことはできないだろう。
プロフィール

ハルトムート・ザイフェルト (Dr. Hartmut Seifert)
ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)元所長/JILPT海外情報収集協力員
ベルリン自由大学卒業(政治経済学博士)。1974年から連邦職業教育訓練研究機構(BIBB)研究員、1975年からハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)主任研究員、1995年から2009年まで同研究所の所長を務める。2010年に当機構の招聘研究員として1カ月半日本に滞在。専門は経済、雇用・労働問題。特に非正規雇用に関する専門家として多くの研究成果を発表。主な研究業績として「非正規雇用とフレキシキュリティ」(2005)、「フレキシキュリティ-理論と実証的証拠との間に」(2008)など多数。
注
- 訳注:就労促進を目的とした規制緩和や失業手当の見直しといった労働市場改革。提案者ペーター・ハルツ氏の名前にちなんでハルツ改革と呼ばれている。ハルツ第I法からハルツ第IV法の4段階に分けて広範に実施された。「「ハルツIV」から「市民手当」へ」(国別トピック:2022年12月)参照(本文へ)
- 給付減額率(Transferentzugsrate)は、市民手当の受給者が所得を得た場合に、市民手当がどの程度削減されるのかを示すものである。給付減額率は、市民手当において考慮される追加で得た税引き後の賃金について、給付金額の減額される割合を定量化して示すものである。追加の賃金が100ユーロを超える場合、80%となる。(本文へ)
- ドイツ連邦議会に審問のために専門家として召喚されたUlrich van Suntum氏はこの結論に至っている(Deutscher Bundestag 2026b, S.7)。(本文へ)
- 連邦雇用エージェンシーによれば、市民手当受給者の1%未満である。(本文へ)
参考文献
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, Aus Politik und Zeitgeschichte,
Walwei, U. (2022): Hartz IV – Zeit für Reformen, in: Arbeitsmärkte in Deutschland und Europa 83, (Hrsg.): Landeszentrale für politische Bildung Baden-Württemberg
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=182.36円(2026年8月6日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
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