2012年7月開催「日本・EUシンポジウム」要旨
若年者のエンプロイアビリティの向上と労働市場参入の促進
- カテゴリー:若年者雇用、人材育成・職業能力開発
- フォーカス:2012年9月
去る7月18日、第14回日本・EUシンポジウムが厚生労働省と欧州委員会の共催により東京で開催された。日・EU双方の学識者、労使団体の代表、行政関係者が、「若者のエンプロイアビリティの向上と労働市場参入の促進」をテーマに報告とディスカッションを行ない、若者をめぐる労働市場の現状、教育訓練やジョブカードなどの支援策の状況、企業における人材育成の状況、労使双方の立場など、幅広いトピックが取り上げられた。
以下では、冒頭に行なわれた日本・EUの学識者による基調報告の要旨について、配布資料を参考に紹介する。
日本―新卒採用を中心とする円滑な移行に変容、こぼれる層への就職支援や職業訓練の強化が必要
小杉礼子労働政策研究・研修機構統括研究員
近年の日本の若者雇用問題は、非正規雇用の増加に一つの焦点がある。日本では、雇用期限に定めのないフルタイムの直接雇用を指す正規雇用以外の雇用を非正規と定義しており、臨時雇用ばかりでなくパートタイム雇用、派遣社員などが含まれる。非正規雇用に就く若年者は、1990年代半ば以降急増しており、15~24歳層(在学中を除く)における非正規雇用比率は、1994年の男性8.0%、女性13.0%から、2005年にはそれぞれ28.9%と39.8%になった。正規雇用と非正規雇用の間には、雇用の安定性や労働条件、能力開発機会、社会保障など様々な面での格差があることが指摘されており、若者がその自立を可能にする安定した良好な雇用を獲得することがより困難になっている。
学校から職業への移行の仕組みと日本型雇用
この間、日本の特徴であった学校から職業への円滑な移行に変容が生じている。1990年代半ばまで、日本では、学校から職業への移行は円滑であるのが当然だと思われていた。中等教育であれ高等教育であれ、学校卒業期に就職を希望すれば、大半の生徒・学生が卒業前にフルタイムのパーマネント雇用である正社員の雇用先を確保できた。しかし、景気後退に伴う雇用の減少の影響などもあり、新規学卒者の就職率は減少、近年は景気回復で改善傾向にはあるが、従来の水準には戻していない。日本型の円滑な移行は決して崩壊したわけではないが、近年その枠からこぼれる者を増やしている。また、高学歴化の進展を背景に、高等教育卒業者の割合が増加、移行の中心となる舞台は変化し、近年は高等教育卒業期が特に重要になっている。
学校から職業への円滑な移行を可能にしてきた第一の要因は企業の採用慣行である。現在でもほとんどの大企業や官公庁は高校や大学の卒業時期に合わせた一斉採用を実施しており、中小企業でもこの形式での採用を希望する企業は多い。また、生産現場のブルーカラーの採用においても広く適用されている。中途採用も広く行なわれており、若年者もこの採用の対象となるが、事業所規模が大きいほど新規学卒採用を実施している比率が高くなる(1000人以上規模では9割超)。規模の大きい事業所は、長期的な教育訓練による育成方針を持ち、またOff-JTやジョブローテーションによる育成を行なうところが多い(図表1)。新規学卒者は、長期的視野で手厚い育成を行なう対象として採用されているといえる。
Off-JTの実施 | ジョブローテーションの実施 | |||||
正社員 | 非正社員 | 正社員 | 非正社員 | |||
新規学卒 | 中途採用 | 新規学卒 | 中途採用 | |||
事業所規模計 | 27.5 | 21.4 | 12.7 | 22.3 | 17.4 | 9.7 |
1000人以上 | 78.2 | 69.7 | 31.7 | 66 | 55.1 | 7.1 |
300~999人 | 62.2 | 51.9 | 26.0 | 48.8 | 37.4 | 10.6 |
100~299人 | 50.2 | 38.5 | 20.9 | 39.2 | 29.0 | 10.0 |
30~99人 | 37.5 | 28.8 | 17.5 | 30.3 | 22.1 | 11.6 |
5~29人 | 23.6 | 18.7 | 11.0 | 19.2 | 15.6 | 9.3 |
出典:厚生労働省(2010)「平成21年若年者雇用実態調査」
新卒マッチングシステムと学校の特徴
新規学卒採用は、そのマッチングに学校が大きく関与し、公共職業安定機関との連携により組織的に実施される仕組みである。しかし、1990年代半ばごろからの求人減を背景に、この仕組みからこぼれおち、無業のまま卒業したり、卒業後に非正規雇用に就いたりする者が増えている。最近の調査によれば、東京都内の高卒者の場合、正社員として就職したものとほぼ同じぐらいの数が、非正規社員または無業状態であった。1980年代まで日本の若者の円滑な移行を支えてきた高卒就職システムはその機能を低下させていると思われる。
高学歴化が進行する中で、1990年代後半以降、新規学卒就職者の中心は大学生に移った。大学生についても、かつては高校生と同様に企業が大学に直接求人申し込みをする方法が中心であったが、1970年代には求人情報を広く学生に伝える民間の媒体が発達し、大学組織を経由せずに応募、採用する経路が確立して、大学組織経由の採用と併存してきた。欧州諸国に比べて、日本の大卒者は大学の組織や教員の助力を得て就職活動をする傾向が強く、大学が就職あっせんに果たしている役割は小さくないが、大学においてもこうした組織的支援からもれる学生が増加している。近年の調査は、大学による組織的支援が学生に届いていることが、未就職者を少なくする効果があることを示唆しており、新卒採用慣行のある日本では、組織的支援の効果は高いことが推測される。
一方で、日本の高校・大学は職業教育の面での役割は小さい。高校進学率は近年、98%まで高まっているが、うち職業高校出身者は20%程度と少なく、その比率は長期的に低下傾向にある。また、高校卒業直後の就職者のうち職業高校出身者は半数程度、未就職卒業者に占める職業高校出身者は10数%と少ない。高校段階での職業教育は全体として縮小するとともに、卒業直後に労働市場に出る者に限っても、十分実施されているとは言い難い。
高等教育段階での職業教育も課題が多い。高等教育機関の中心である4年制大学には、高等学校卒業者の約半数が進学するが、多くは職業的な視点を持たない教育を提供してきた。日本の大卒者は欧米諸国と比べて、大学教育で獲得した知識や技能について現在の仕事に活用しているとする割合が著しく低い。特に大卒者の半数以上を占める人文・社会科学系の卒業者でこの活用度が低い。さらに、学生のほとんどは高等学校卒業直後に入学し、所定年限で卒業していく。いったん労働市場に出た若者が入学してきたり、パートタイム学生として学ぶ者も極めて少ない。こうした特徴は、日本企業が内部育成を重視する雇用管理を発展させてきた歴史と相互に関連して形成されてきたものである。教育内容と職業との接続のなさについては、近年課題として認識され、さまざまな対応が進められているものの、歴史的に築かれてきた大学の特質は簡単には変化しない。
若年雇用の現状と課題
こうした中で、1990年代半ばから2000年代半ばまで、非正規雇用に就く若者の比率は急上昇し、ほぼ同じ時期に若年失業率も上昇した。背景にある企業行動の変化として、第一に、景気の改善の見通しが見てない中で新規の採用を抑制し、それは日本の場合、新規学卒者の若者の採用抑制となったこと、第二に、グローバル化を背景に経済変動の幅が大きくかつ頻繁になる中で、長期的な雇用である正社員採用を抑制し、非正規雇用の採用を拡大した事が考えられる。さらに、労働者派遣法の改正によって、より幅広い産業、職業分野に労働者の派遣が可能になったことも要因として挙げられよう。
非正規雇用は1980年代まで、多くが中高年女性(いわゆる「パート」)であり、これに加えて学生の臨時雇用(「アルバイト」)が一定数いた。しかし1990年代になって、学校を卒業した後も非正規雇用を続ける未婚の若年男女が多く加わるようになり、こうした層を指す「フリーター」という新たな呼称が作られた。若年非正規雇用者は、同年代の正社員の若者に比べて賃金水準が低く、雇用調整の対象になりやすい不安定な雇用であり、職業能力開発機会も少ないことが、多くの実証研究により指摘されている。こうした格差の背景には、非正規雇用の中心であった「パート」が既婚の中高年女性の働き方と認識され、正社員との差異を家族内の役割分担と重ね合わせて理解する見方が強かったことがある。税制や社会保障制度も、その設計上、非正規労働者を直接の対象から除外しがちである。あるいは、無業や非正規雇用、あるいは収入が200万円未満の30代前半の男性の結婚率は極めて低く、家族形成が進まないことも若年非正規雇用問題の一つといえる。
正社員 (公務含む) |
アルバイト・パート | 契約・派遣等 | 自営・家業 | 失業・無職 | その他・無回答 | 合計 | N | ||
男性 | 高卒 | 46.6 | 34.7 | 4.1 | 3.2 | 9.1 | 2.3 | 100.0 | 219 |
専門・短大・高専卒 | 66.1 | 16.3 | 8.6 | 1.7 | 6.4 | 0.9 | 100.0 | 233 | |
大学・大学院卒 | 78.1 | 7.5 | 4.7 | 2.1 | 6.5 | 1.2 | 100.0 | 429 | |
中卒・高校中退 | 10.7 | 46.4 | 5.4 | 5.4 | 32.1 | 0.0 | 100.0 | 56 | |
高等教育中退 | 9.5 | 63.5 | 9.5 | 2.7 | 10.8 | 4.1 | 100.0 | 74 | |
その他不明 | 31.6 | 21.1 | 5.3 | 0.0 | 10.5 | 31.6 | 100.0 | 19 | |
男性計 | 59.2 | 21.7 | 5.8 | 2.4 | 8.8 | 2.0 | 100.0 | 1030 | |
女性 | 高卒 | 43.2 | 36.4 | 9.3 | 4.3 | 4.3 | 2.5 | 100.0 | 162 |
専門・短大・高専卒 | 58.5 | 20.4 | 12.9 | 0.6 | 5.6 | 2.0 | 100.0 | 357 | |
大学・大学院卒 | 74.3 | 7.9 | 9.8 | 1.2 | 5.8 | 1.0 | 100.0 | 417 | |
中卒・高校中退 | 2.9 | 70.6 | 0.0 | 5.9 | 20.6 | 0.0 | 100.0 | 34 | |
高等教育中退 | 4.3 | 58.7 | 8.7 | 6.5 | 21.7 | 0.0 | 100.0 | 46 | |
その他不明 | 41.7 | 25.0 | 8.3 | 0.0 | 0.0 | 25.0 | 100.0 | 12 | |
女性計 | 58.1 | 21.3 | 10.4 | 1.8 | 6.6 | 1.8 | 100.0 | 1028 |
参考資料:JILPT(2012)「大都市の若者の就業行動と意識の展開―第3回若者のワークスタイル調査より」
また、正社員への移行が進まないという問題もある(図表3)。非正規雇用の問題は現在、次第に30代後半から40歳代に広がりつつある。家計を自らが支えなければならない男女が非正規雇用者に留まるケースが増加しており、「年長フリーター」問題として現在の課題となっている。新規学卒採用慣行は、既に労働市場に出ているが正社員経験のない若者を新卒向け雇用の対象としにくいため、非正規雇用の若者にとっては、正社員になることを阻む壁となってしまう。これまでの実証研究によれば、非正規から正社員に移行した人々は、前の職場で蓄積される職業能力を評価されて採用されている。そしてその前職職場や最初の職場には、訓練を受講する機会があったばかりでなく、自分の将来に向き合って職業能力を高めることの重要性を伝えるといった、キャリアガイダンス機能があったことが作用している。非正規の職場であっても、こうした教育・ガイダンス機能がある職場であることが、次の職場で正社員としての採用を獲得できるだけの職業能力形成を可能にしたということであろう。
非典型職離職者計 (人) |
構成比 | 正社員移行率 | |||
男女計 (15,424人) |
男性 (4,082人) |
女性 (11,342人) |
|||
非典型雇用離職者計 | 15424 | 100.0 | 16.1 | 27.7 | 11.9 |
年齢段階 | |||||
15―19歳 | 525 | 3.4 | 12.0 | 16.1 | 9.0 |
20―24歳 | 3275 | 21.2 | 22.2 | 28.4 | 18.3 |
25―29歳 | 3552 | 23.0 | 19.7 | 30.7 | 14.4 |
30―34歳 | 3053 | 19.8 | 13.4 | 27.7 | 9.5 |
35―39歳 | 2768 | 17.9 | 11.7 | 25.6 | 8.9 |
40―44歳 | 2251 | 14.6 | 11.5 | 25.7 | 9.2 |
婚姻状況 | |||||
未婚 | 7641 | 49.5 | 21.2 | 24.4 | 18.9 |
配偶者あり | 6689 | 43.4 | 10.0 | 43.0 | 5.9 |
死別・離別 | 986 | 6.4 | 18.1 | 23.9 | 17.4 |
不詳 | 108 | 0.7 | 16.7 | 23.4 | 11.5 |
参考資料:JILPT(2009)「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状―平成19年版「就業構造基本調査」特別集計より―」
さらに、2000年代半ばからは、求職者として労働市場に留まらず、非労働力との間を行き来するという若者特性への配慮が必要だという議論が起こり、これをニート(NEET)というイギリスの政策から学んだ用語でとらえることが始まった。日本のニートは国際的定義と異なり、求職活動をしない最も非活動的な層を指す。国際的定義にあわせて比較すると日本のニート率は高くないが、孤立化して、社会関係を失っている存在として大きな関心を集めている。こうした層は、学歴が低く、世帯収入が低い者が多いこと、また半数程度は就業希望を持っているものの、「病気やけが」、「探したが見つからなかった」、「自信がない」などの理由から求職活動をしていないことが明らかになっている。さらに、支援機関を通しての調査からは、学校中退者や在学中にいじめにあったり、引きこもり経験がある人が多いことも明らかになっている。
施策の方向性と課題
就職支援と学校から職業への移行の円滑化に関する日本の労働政策は、基本的に、これまでの学校から職業への移行を支えてきた新規学卒採用システムの維持を図り、その機能低下に対してはこれを補完して、そこから外れる若者をできる限り少なくするという方向である。すなわち、高校および大学等の高等教育機関に対して、生徒・学生への個別支援等を担当する専門職員の派遣や、高等教育機関に対しての公共職業安定機関の持つ求人情報の提供であり、学外での求職活動が活発な高等教育卒業予定者に対しては、学生(既卒者含む)専門の公共職業安定所の設置である。
また、既卒者の応募機会の拡充を目的に、景気が悪く求人が少ない年に学校卒業を迎えて未就職のまま卒業した層を新卒枠で採用する企業や、3カ月間の有期雇用の後に正規採用する企業に対して、助成金を支給する施策がとられている。一方で、高校・大学における職業教育・キャリア教育を拡充する政策の一環として、就業体験やインターンシップの促進施策、ワークルールの学習促進などの施策が、産業界や労働界も参加する形で実施されている。さらに、ニート支援策の一環として、学校中退防止、中退後の移行支援が、NPOなどとの連携で推進されている。
一方、若者の職業能力開発の推進については、新卒採用の仕組みに乗れない層をはじめ、企業内訓練を受けられず、十分な能力開発の機会を得ることができない若者に対して、効果的な職業訓練の機会を提供する社会的な仕組みを体系的に整備することが課題である。公共職業訓練は、失業者、在職者、高卒直後の者等の若者等を対象にそれぞれ制度化されている。また、昨年度からは雇用保険に加入していない求職者を対象とする求職者支援訓練も新たに立ち上げられたところである。
また、非正規から正規への移行支援を政策目的の一つに掲げて2008年からはじめられたのが、ジョブカード制度である。同制度は、企業における実習(OJT)と教育訓練機関等による座学(Off-JT)からなる実践性、企業外にも通用する訓練成果(公的な職業能力評価基準にのっとった訓練)、受講前後のキャリアコンサルティング(これを通して能力証明となるジョブカードを作成)といった特徴を備えており、訓練効果に期待が持てる。
EU―柔軟な雇用形態と教育訓練の組み合わせで安定的な雇用への道筋を
ピエトロ・ガリバルディトリノ大学経済学部教授
欧州では、中期的な経済成長の低迷が重要な問題であり、高齢化や財政再建によりこれが一層悪化している状況にある。さらに2008-09年の不況の結果として、加盟27カ国全体で550万人もの25歳未満の若年失業者が生じており、新たな社会的課題となっている。若年失業率は22.4%と全体平均の10.2%の倍以上だが、スペインやギリシャでは50%に達している。いわゆる「ニート」の数も750万人にのぼる。学校中退者などの低スキルの若者に留まらず、ますます増加してる仕事に就けない大卒者も同様の問題に直面している。
若年失業率は、2005-08年の期間にはむしろ明確に減少傾向にあったが、不況を期に急速に悪化した。過去2年間、域内の雇用は平均2%減少したが、高齢者の雇用が増加しているのに対して、若年者の雇用は8%と大きく減少している。さらにスキル別にみた場合、全ての年代層で雇用喪失は低スキル労働者に集中しており、このことは教育訓練が投資であると同時に保険として機能していることを示しているといえる。また就業形態別には、非正規労働に集中している。
二重構造Ⅰ―テンポラリー雇用と期間の定めのない雇用
若年失業率の上昇は、過去数十年における多数の加盟国での臨時雇用及び有期雇用の大幅な増加の結果として生じている。この変化は、二つの要因によってもたらされたと考えられる。一つは、労働市場改革により雇用保護法制に限界まで柔軟性が導入されたことである。多くの加盟国では、正規雇用に関する解雇規制を厳格なまま維持しつつ、テンポラリー労働契約の大幅な規制緩和が行なわれた(図表4)。もう一つの要因は、90年代半ばから経済危機に至るまでの欧州経済の成長の低迷である。この間、多くの加盟国がグローバリゼーションという新たな課題に自国の生産構造を適応させることに苦心していた。
図表4:雇用保護法制指標の変化
1985-1998年における変化
1998-2008年における変化
出典:OECD Employment Protection Legislation Indicatorsのデータより作成。
こうした労働市場改革を実施した国を中心に、テンポラリー労働者は急速に増加し、雇用全体に占める比率も上昇した。スペインでは、1983年には雇用全体の11%だったテンポラリー労働者が、1995年には約35%に上昇している。一方で、期間の定めのない雇用契約に関する規制が比較的緩い特徴のあるイギリス、デンマーク、アイルランドなどでは、テンポラリー比率の増加は見られなかった。また多くの加盟国では、若年層におけるテンポラリー労働者比率が高く、加盟国平均で40%、スロベニア、ポーランド、ドイツ、スペイン、ポルトガル、スウェーデン、フランスでは50%を越えている。これは、テンポラリー労働契約が新規雇用において中心的な役割を果たしていることによるもので、とりわけ労働市場の二重性(duality)の強い国でそうした傾向がみられる。
経済危機以降の雇用調整は、こうした労働市場の二重性が顕著な南欧諸国(ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペイン)およびフランスで、若年労働者を中心に実施された。2005-11年の期間におけるこうした国の若年失業者は13%前後増加しており、他の加盟国の平均(2%前後)を大きく上回っている。テンポラリー労働契約の自由化は、経済危機に先立つ期間には雇用創出を後押ししたが、その大半が契約期間終了時に期間の定めのない雇用に移行されなかった。このため、分断された労働市場においては、テンポラリー労働はしばしば正規労働者との間の法規制における差異により、安価な生産要素の調達手段として利用されていると見られる。
正規労働者と比較した場合のテンポラリー労働者に関する問題のひとつは、賃金水準の低さにある。加盟国によっても幅があるが、学歴や年齢を考慮した場合でも10%前後から30%、スウェーデンでは45%の賃金格差がある。これに付随して、低所得やキャリアの断続、またしばしば失業保険が適用されないことが、将来の年金給付にも影響を及ぼす。また、テンポラリー労働者は正規労働者に比べて職場内訓練(OJT)が提供される比率も低い。
労働者の教育訓練の問題は、欧州の労働市場のもう一つの二重構造に関連している。
二重構造Ⅱ―スキル・ミスマッチの拡大と教育から職業への移行の遅さ
EU経済は現在、スキル・ミスマッチの拡大に直面している。失業率と求人の関係を示すベバレッジ曲線を見ると、健全な労働市場に観察されるべき両者の負の相関が観察されず、失業率が高いまま求人が増加している状況が看守できる(図表5)。このことは、経済危機のさなかにこうしたミスマッチが拡大したことを示唆しており、多くの加盟国で同様の状況が見られる。
図表5:EUのベバレッジ曲線(2008年第1四半期―2011年第4四半期)
UR=失業率、LSI:労働力不足指標(労働力不足が生産の制約となっていると回答した雇用主数より算出)
出典:EU Employment and Social Situation Quarterly Report, March 2012
スキル・ミスマッチによる若者の失業は、彼らの将来的な雇用や賃金水準などにも長期的なマイナスの影響を与えるため、教育訓練を通じたミスマッチの解消が必要である。いくつかの加盟国では、雇用と連携させる形での教育訓練の実施に成功している。オーストリア、デンマーク、ドイツ、フランスでは、訓練期間をテンポラリー労働契約としている比率が高く、教育訓練の機会とリンクした形であれば、テンポラリー労働契約が若者の労働市場への参入に有効に作用し、安定的な雇用を提供し得ることを示している(図表6)。
図表6:教育訓練と雇用を組み合わせている18-24歳層の比率
注:DK:デンマーク、NL:オランダ、DE:ドイツ、FI:フィンランド、AT:オーストリア、SI:スロヴェニア、UK:イギリス、SE:スウェーデン、EE:エストニア、PL:ポーランド、LU:ルクセンブルク、LV:ラトヴィア、MT:マルタ、CY:キプロス、IE:アイルランド、FR:フランス、LT:リトアニア、ES:スペイン、PT:ポルトガル、BG:ブルガリア、CZ:チェコ、EL:ギリシャ、BE:ベルギー、IT:イタリア、SK:スロヴァキア、RO:ルーマニア、HU:ハンガリー、IS:アイスランド、NO:ノルウェー、CH:スイス、HR:クロアチア、MK:マケドニア、TR:トルコ
Other contracts-full time/part time:学生などのフルタイム/パートタイム就労、
Temporary contract covering a period of training:アプレンティスシップ等
参考資料:Eurostatウェブサイト'Young people - education and employment patterns'
ドイツで実施されている職業教育訓練は、ひとつの好事例である。学校での座学と職場での訓練が組み合わされ、訓練生のフルタイム雇用への移行を目標として、労働市場に組み込まれた形で実施されている。企業やソーシャルパートナーが関与、予算も官民の出資で運営されている。ただし、訓練参加者の評価を行う商工会議所の試験は、学校での成績を考慮しないため、参加者が座学を軽視する傾向が見られ、結果として修了者の高等教育へのアクセスを困難にしている可能性がある。
一方で、若者の労働市場への参入の難しさを最も体現しているとみられるのが、近年注目を集めているニートである。2010年には15-24歳層の12.8%を占め、経済危機によって多少は増加したとみられるものの、さほどの影響は受けていない。Eurofoundは、教育水準が低いほどニートとなる確率が高くなると指摘している。ただし、加盟国によっては高等教育修了者でニートの比率が高い場合もあり、こうした国では低スキルの労働需要に対して過剰な教育が実施されている可能性がある。
政策的課題
労働市場における若者の困難な状況は、明らかに二重労働市場に起因するところが大きい。しかし、今すぐにテンポラリー労働を廃止する場合、不況の最中に大きな雇用喪失を招くだけでなく、回復期の雇用増も限定的になると考えられる。複数の加盟国では、若者を中心に採用の大きな部分がテンポラリー労働契約で行なわれており、またテンポラリー労働は、企業にとっては労働者の能力を評価しスクリーニングを行なう機会として、また労働者にとっては労働市場への入口、より安定的で質の良い仕事への踏み石として機能しうる。一方で、正規労働者の代替物として人件費削減に利用されることもありうる。分断された労働市場のもとでは、むしろ後者が強く作用していると見られる。
企業にも労働者にもバランスの取れた政策を実施するためには、企業に採用時の試用を認め、他方労働者に対しては、試用によって入職に係る期間が長くなっても、将来安定的な雇用につながる明確な筋道を示す必要がある。
関連情報
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