非正規雇用をめぐる英・仏・独の動向
フランスの非正規雇用

フランスでは、歴史的には必ずしも常に正規雇用契約が標準的雇用契約だったわけではない。今日の雇用の不安定さと呼ばれるものが長い間主流を成し、労働市場の常態であった 。住民の多くがまだ農業活動に従事していた19世紀を通じて、フランスの使用者は製造業に従事する労働力が農村に戻らないよう労働力を定着させることに腐心してきた。すなわち労働者以上に使用者が雇用の安定を望んでいたともいえる。19世紀の終わりになって初めて被用者が安定を要求するようになった。正規雇用契約がすべての産業セクターに広がり、雇用の標準型になったのは「栄光の30年」(注1)と呼ばれた経済成長期のことである。

非正規雇用の概念

英語の「非正規雇用(non-regular employment)」に該当するフランス語の表現としては「非典型雇用(emplois atypiques)」と「特殊形態雇用(formes particulières d’emploi)」(FPE)がある。フランス語におけるこの表現は、一定の雇用関係がフランスの労働法典で契約規範としている雇用関係、すなわち無期契約のフルタイム賃金労働とはいずれも異なることを意味する。しかし、FPEがフランスにおける労働一般法の規制を受けないということではない。FPEは一般法の適用除外に過ぎず、適用除外自体は、特別法規措置に属し法律の規制を受ける。

特殊形態雇用は一般的に(1)派遣労働(2)見習い契約(3)非正規雇用契約による臨時雇用契約(援助付き雇用含む)(4)パートタイム労働(無期・有期問わず)(5)非賃金労働に区分される。各形態別の割合は図表1のとおりである。

図表 1

*1援助付き雇用を含む

*2 援助付き労働契約のない賃金労働者、公共セクターの研修公務員と正規公務員を含む

範囲:フランス本土、15歳以上(12月31日現在)の就業者

出典:INSEE 継続労働調査

(1)派遣労働

派遣労働契約による雇用には特別法規が適用される。これは派遣の雇用関係が三者間の関係だという理由による。フランスにおける派遣の雇用関係は使用者の権利と義務を民間の人材派遣会社と派遣先企業とに振り分け、派遣労働のリスクから派遣労働者を保護しようとする目的で規制されている。

(2)見習い契約

見習い契約の対象となるのは16歳から25歳の若年者であり、この契約で就労する見習いには被用者の身分が与えられる。この契約は実施される訓練の質を保証し、見習い期間に対する報酬の基本方針を定める。この契約は現在では、見習いの雇用に対し使用者に補助金が支給される期限付きの雇用契約となっている。ただし、非正規雇用契約の「援助付き」雇用契約とは区別される。

(3)非正規雇用契約

非正規雇用契約には「援助付き」雇用という120万件を超える雇用が含まれる。この援助付き雇用は、雇用政策上のさまざまな法規を根拠としている。この雇用のほとんどは失業対策の一環として生み出された契約形態であり、主に若年労働者の労働市場参入促進を目的としている。

非正規雇用契約にはこのほかに、従来の非正規雇用契約とは区別される幾つかのタイプの臨時雇用契約がある。例えば農産物加工業の「季節労働契約」、ホテル・レストラン業の「臨時雇い契約」などであるが、これらの臨時雇用契約はそれぞれ特定の産業部門でしか許可されていない。

(4)パートタイム労働

フランスでは、労働時間が法定時間(協定時間が法定時間より短い場合には協定時間)未満のすべての被用者をパートタイム労働と見なしている。パートタイム労働は非正規雇用契約の場合も正規雇用契約の場合もあるが、正規雇用契約よりも非正規雇用契約の場合の方が多い(図表 2参照)。

雇用契約が非正規雇用か正規雇用かということと労働形態がフルタイムかパートタイムかということには交差する部分がある。非正規雇用の中では、フルタイムの雇用契約とパートタイムの雇用契約は明確な特徴を示す。例えばフルタイムの非正規雇用の方がパートタイムの非正規雇用よりもフレックスタイムの影響を受けにくい。フルタイムの非正規雇用は、労働時間の特性の点では正規雇用フルタイムにかなり近い。一方、パートタイムの非正規雇用はパートタイムの正規雇用とほとんど変わらない。このように、雇用形態が非正規雇用であるか正規雇用であるかの境界は曖昧であるが、パートタイムとフルタイムの分離は非正規雇用と正規雇用の分離よりも明確である。

パートタイム労働者の権利は労働時間と社会保障適用の枠組みを定める規程によって明確に保証されている。だがフランスにおいてもやはり、パートタイムは事実上ほとんどが女性対象の雇用形態だということに変わりはない。2005年には30%以上のパートタイム労働者がフルタイム雇用が見つからなかったためにパートタイムで働いていると答えており(注2)、大抵はやむを得ずパートタイムを選択している実態が浮かび上がる。ここに、パートタイム労働が差別的な雇用形態になり得る余地が生じるのである。

出典:INSEE 継続労働調査

(5)非賃金労働

2008年現在、非賃金労働者は全労働者の10.6%を占めている。1990年代の欧州と米国において、非賃金労働は一貫して減少した後再び増加した。労働形態の中で大きな割合を占めるようになったにもかかわらず非賃金労働者の属性は明確に把握されていない。労働の外部委託・下請けなどの中間的なシステムが発展していることが窺えるが、賃金労働タイプと非賃金労働タイプが混在する曖昧な関係の発展が状況をより複雑にしている。現在およそ200万から300万の独立自営業者が雇用保護を受けていないと見られている(2007年の評価(注3))。彼らは失業保険が適用されず(任意に失業保険契約をする場合除く)、強制疾病保険が受けられず、職業に関して法が被用者に認めている一般的な権利を享受していない。これは重要な問題であると認識され始めている。

正規労働者の従事する産業と職種

フランスでは多様な特殊形態雇用の間で職務を分担する傾向が見られ、異なる形態が同じ用途、同じセクターで用いられたり、同じ持ち場や同じ労働供給カテゴリーを対象としたりすることは少ない。例えば、典型的な派遣労働者は工業の幾つかの分野―-自動車、建設、農産物加工業―-などで用いられる無資格の男性労働者である(図表3参照)。したがって、派遣就業人口の大半がブルーカラー労働者であり、ホワイトカラー労働者はわずか13.2%、管理職と中間職は9%に過ぎない(注4)。一方、非正規雇用契約の対象は、サービス業など第三次産業で雇用される低資格の女性が多い。パートタイム労働はさらに第三次産業に多く、ほぼ女性労働者が独占している。すべての産業で、女性はパートタイム労働の80%以上を占めている(第三次産業では85%以上、工業では75%以上)。パートタイムの男性は主に個人向けサービス(従事する男性の20%以上がパートタイム)、保健・教育(10%強)で就労している(注5)。さらに、パートタイム労働者は比較的若年層に多く、この特徴は週労働時間が短いパートタイムの場合にはさらに顕著である。このような雇用形態の分断はフランスでは古くから見られ、最近の変化により緩和する傾向があるとはいえ、依然として存在する。

出典:DARES - UNEDIC

非正規労働者数の推移

1985年から2005年までの20年間に特殊形態雇用は急激に増加した。一方、臨時雇用、援助付き雇用、見習い雇用はかなり低いレベルに留まっている。最も増加幅が大きかったのは派遣労働で、就業者全体に占める派遣労働の割合はほぼ4倍になった(図表4参照)。一般的に特殊形態雇用市場は経済情勢の変化に大きく左右されるといえるが、派遣労働は経済情勢の変化を超え急速な伸びを示し、2000年初頭から経済危機に至るまで60万人前後のレベルで推移した(図表5参照)。

出典:INSEE労働調査

図表5

なぜ非正規雇用は増加したのか

非正規雇用の割合が増加してきた理由については、現下の激しい国際競争を背景に雇用の柔軟化を避けて通れなくなったという答えが一般的であろう。しかし一方でその影響により労働力保護を破壊している可能性があり、このことは異口同音に非難されている。フランスにおける非正規雇用増加の理由については、(1)労働市場の変化(2)雇用ルールの硬直性(3)雇用政策の影響が主な論点として議論されている。

(1)労働市場の変化

1960年代、労働需要の高まりを受け大量のアルジェリア移民が参入するなど、フランスの労働市場は労働力の増大という新たな状況に直面した。次いで1960年代末から1970年代にかけて戦後のベビーブーム世代が労働年齢に達した。同時に女性の就業行動が変化し、大量に労働市場に参入、出産年齢まで職業活動に従事し続けた。一方、これとほぼ並行して1970年代半ばに石油危機が起き、経済成長が鈍化した。この10年間で労働市場の均衡は完全に変容し、吸収困難な労働力の大量余剰と失業増加の長いトンネルに突入した。そしてこの新たな状況は、労働の供給側と需要側の関係にも影響し、賃金労働者がすでに獲得していた社会的獲得物-その象徴が無期契約のフルタイムいわゆる「常用雇用」であるが-の権利を守る能力を低減させた。そしてこの常用雇用の権利擁護の衰退は、この規範が拘束力のある部分にのみ集中し、この保護の規範の恩恵をあまり受けない雇用や労働者カテゴリーをなおざりにした。この結果特殊形態の雇用が増加し始めた。

(2)雇用ルールの硬直性

柔軟性に関する議論の中心は雇用ルールの問題である。これはつまり、雇用契約の性質と各雇用形態に固有の法規や協定の問題である。無期契約に適用される解雇規制はいずれも賃金労働者を保護する規定になっている。そのため解雇規制は企業の解雇の自由を大幅に縮小させる。したがって企業は、より大きな自由を取り戻すため、より柔軟度の高いタイプの契約を提示する。つまり企業は、必要に応じて正式な解雇手続きを取らずに比較的簡単に従業員を手放せるように、特殊形態の雇用で従業員を雇いたがる傾向がある。解雇手続きは複雑で費用がかかるため、使用者は無期契約を敬遠することになる。有期契約で採用すればリスクを減らすことになるからだ。

サルコジ大統領は2007年の選挙運動を通じて、「フランスの硬直的な労働市場のルールがイニシアティブを妨げ、雇用を阻む作用を及ぼしている」と主張、ルール改革の必要性を訴えた。

(3)雇用政策の影響

1980年代と1990年代の雇用政策の主流は、労働時間を短縮して雇用を守ること、新しい雇用を創出すること、内部柔軟性を発展させて(特に労働時間の柔軟性)労働のシェアを改善することであった。この時の議論はまだ特殊形態雇用の発展を奨励してはいない。それどころか労働力を守るために厳格な枠組みを求めていた。これらが目指したのは、企業内部の雇用を維持しながら、彼らの労働の柔軟性を高める(正規労働者の労働時間調整)ことであった。

ところが、労働市場新規参入者の雇用を促進するため政府が導入したいわゆる「援助付き」雇用により変化が生じた。この援助付き雇用は、資格と報酬が低水準の労働者カテゴリーのみ利用することができ、使用者はその費用負担を軽減する助成を受けるというものである。その後政策が変わるたびに措置の修正が実施されたが、援助付き雇用の件数は増加していった。これらの雇用政策が、新しいタイプの不安定雇用を促進する影響を及ぼしたという指摘がなされている。

均等処遇の実態

フランスにおいては法律上、非正規労働者についても均等待遇が保障されている。とりわけ有期労働者については、同等の就労現場にあって在職期間も同様な無期労働者と比べて平等な取り扱いをすることを保障している。仮に同等な取り扱いが尊重されない場合においては、使用者は刑事罰の対象となり得る。

それでは、フランスにおける非正規雇用に処遇上の問題は存在しないと言い切れるのか。しかし現実はそれほど牧歌的なものではない。それは法律違反が行なわれるからだけではない。不法行為は疑いもなく存在する。とりわけ労働組合が存在せず、それゆえ、特殊形態雇用にある個人の就労保護の遵守に目が行き届かない現場(主として小規模企業)では、特にそういう傾向がある。しかし、本質的にはまず構造上の問題があることを指摘しておかねばならない。これは特殊形態雇用が、報酬が低く労働条件が厳しい職場において存在することに起因する問題である。

(1)労働時間、労働条件

法律上、非正規雇用は正規雇用と同等の権利を有しており、同一の就業規則(労働時間、休暇と祝日、安全衛生、福利厚生等)に従う。派遣労働者の場合は人材派遣会社を法律上の使用者としているので、これらの労働者にとっての平等性は、同一の就労場所に配置されている派遣先企業の労働者との関係で判断される。派遣先企業は、労働条件に従って労働時間の管理権を有しており、労働現場での指揮命令権を保有する一方で就労時間、安全衛生の条件等就労にかかわる取り扱いの平等性について責任を負う。

しかし派遣先企業は派遣労働者を企業の利益を優先して配置しようとするため、相対的に厳しい労働条件の現場にこれらの労働者を配置する傾向がある。すなわち有期労働者が無期労働者と同一の就業規則の下に置かれるとしても、前者は劣悪な労働条件にさらされることになる。一般的に有期労働者の就労時間は無期労働者に比べて不安定であり、1週先の労働予定が立たないなど、労働の自律性は少なく制約は大きい。これは均等処遇の原則からの逸脱とかその非遵守の結果というよりも、本質的に構造上の問題といえる。

(2)賃金、手当

有期労働者は、在職期間が短いため年功による恩恵を受けることはほとんどない。だが一方でこれら労働者は(例外的な集団的合意の場合を除いて)、契約期間中に受けとる報酬総額の10%に相当する不安定手当を受けることができる。また、派遣労働者の場合は、派遣先企業から支給される作業に関連した手当(危険、食事手当等)を受ける。さらに有期労働者が契約期間あるいは派遣期間の間に有給休暇を取得できなかった場合は補償手当を受けることができる。これらの条件を考えると、派遣労働者は必ずしも低い時給の部類に特に集中しているわけではない(注6)。しかし、年間所得の点から見ると事態はまったく異なってくる。これら労働者は、非就労期間、つまり報酬のない期間が長いことを考慮しなくてはならないからである。

(3)職業訓練の機会

非正規労働者は職業訓練についても正規労働者と同等の権利ないしは若干の優遇措置を受ける権利を有する。例えば、有期労働者が危険を伴う就労現場に配置される場合には安全強化訓練を受ける。ただし実際問題としては、不安定な雇用経歴を有する労働者は、無期労働者よりも訓練を受ける機会は少ない(注7)。

派遣労働者には、彼ら固有の恒常的訓練の制度があり、これはある意味において正規労働者の制度よりも有利なものである。フランスでは、すべての使用者は職業訓練のための掛け金を支払わなければならず、その率はすべての企業に対して一律に賃金総額の1.5%と定められているが、人材派遣業の掛け金はさらに高い2%である。とはいえ、実際には派遣労働者がその他労働者よりも訓練へのアクセス機会が少ないことに変わりはない。2005年には、全就業者の9.4%が過去3カ月の間に訓練を受けていたが、派遣労働者に関しては5.5%にすぎなかった(注8)。また、資金援助を受ける訓練期間はきわめて短期間でありその目的が限定的な派遣職務への適応にあることも周知のことである。にもかかわらず、人材派遣業者は派遣労働者の訓練に大きな貢献をしていると主張している。なぜなら彼らにとって訓練の実施は、顧客企業から安定的な派遣労働注文を受けるための重要な要因となっているからである。しかし、派遣内部市場における労働者の入れ換え率は高く、訓練を受けた人員の数は、派遣を経験した人数と比べて多くはない(注9)。

(4)労働組合との関係

すべての給与所得者はその資格の如何にかかわらず、労働組合加入と企業内部での代表選出についての同一の権利を有する。派遣労働者に関しては特別の条項が存在し、代表選出と要求提出の権利は人材派遣会社の内部で行使される。

非正規労働者は相対的に弱い立場にあり、労働組合への依存度が高いことが予想できるが、フランスの基準(注10)に照らしてみてさえ、正規労働者よりはるかに組合加入率が低い。しかしこれもまた、非正規労働者が労働組合組織率の低いセクターでより多く使用されているということの証しである。つまり非正規労働者はほとんど組合に組織化されていない(注11)。

労働組合が不安定就労者を代弁し動員する真の意志を示したのはごく最近のことでしかない。今日、不安定就労と呼ばれる形態の労動が拡大するにつれて、自らの活動基盤が確実に浸食されているということを労働組合は認識し始めている。これら不安定就労者を組合に組織することは労働組合の存在そのものにとって死活問題となってきている。彼らのうちのきわめて多くが派遣労働者であった「サン・パピエ(滞在許可の書類をもたない違法状態にある外国人労働者)」を動員した2008年秋の労働運動も、彼らのそうした関心を反映したものであった。

非正規雇用をめぐる議論の行方

ヨーロッパにおいては、すべての形態における非正規雇用が、2008年以降の経済危機により甚大な影響を受けた。もちろんフランスもこの影響を逃れることはできなかった。ただし非正規雇用の落ち込みはフランスでは他の諸国―とりわけスペイン、オランダ、イギリス―におけるよりも小さかったが。

フランスでは特殊形態の雇用が以前から社会的・政治的論争の重要テーマであった。柔軟性と不安定性を切り離すための処方箋、つまりEUが推奨するフレキシキュリティを発展させようとするあらゆる努力にもかかわらず、この二つは依然として同義であるとして労働組合から批判され続けている。フランスの労働組合は、特殊形態雇用は正規雇用の保護を弱め破壊するために利用される武器にほかならないと常に考えてきた。それゆえ、これらの雇用形態に対する労働組合の敵対的な立場は、正規雇用の保護と、多様化を容認する原則の拒否につながっている。

一方政府は、今回の危機を受けて労働市場の機能を改善してより一層の柔軟性を確保することによって雇用の創出を促すのに適した改革の緊急性を宣言し続けている。しかしながら、労働契約の多様な形態が抱える諸問題は置き去りにされたままである。これら諸問題をめぐる本質的な議論は、大量の雇用が失われ失業率が上昇するという状況の中で後退しているように見える。

原著者略歴

Dr François Michon(フランソワ・ミション)/国立科学研究センター上席研究員

パリ第1大学、パリ第3大学にて教鞭をとる。専門分野は労働社会経済学、とくに労働市場、労働関係、雇用形態、労使関係、労働時間を主な研究テーマとする。

2010年5月 フォーカス:非正規雇用をめぐる英・仏・独の動向