外国人労働者と社会統合:ドイツ
滞在許可と就労許可の手続を統合

ドイツでは、少子高齢化の急速な進展により、将来人口が大幅に減少することが予想される。このため2001年以降、人口減少に伴う労働力不足に対処する総合的な戦略を策定するための議論が活発に行われ、04年7月に新移民法が成立し、05年1月から施行された。

新移民法は、「ワン・ストップ・ガバメント」原則を導入し、「滞在許可」と「就労許可」の手続きを単一の許可に統合した。また、合法的移民のドイツ社会への統合化を促進するための統合コースに関する規定を盛り込んだ。

05年末現在、ドイツに滞在する外国人は676万人であり、全人口の8.2%を占めている。04年の外国人の労働力人口は370万人、全労働力人口の9.1%であった。

新移民法の制定

新移民法は、「滞在法」、「EU市民の移住の自由に関する法律」および既存の法律の諸改正から成る。さらに、新移民法に基づき、初めてドイツに入国する外国人およびドイツ国内に滞在する外国人の雇用について規定する「新規入国外国人の就労許可に関する法令」(就労法令)や「国内に住む外国人の就労手続・許可に関する法令」(就労手続法令)などの法令が制定された。

新移民法は、従来4種類に分かれていた滞在許可を、期限付きの「滞在許可」と無期限の「定住許可」の2種類に整理統合した。滞在の権利は、雇用、教育訓練、人道的理由や家族の呼び寄せなど、滞在の目的に応じて決定される。

新移民法の核心的要素は、「ワン・ストップ・ガバメント」原則の導入である。外国人は、従来のように、滞在許可と就労許可という2つの別々の申請手続きを行う必要がなくなり、所轄の外国人局に滞在許可の申請書を提出するだけでよくなった。申請を受けた外国人局は、申請書を地方の雇用当局に送付して就労を許可するか否かの決定を求め、その結果を滞在許可に記載する。

新移民法に基づく外国人労働者の受入れ

新移民法は、1973年に導入された外国人労働者募集停止規定を維持している。外国人労働者の就労目的の入国と滞在は、引き続き厳正な規則によって特定の労働や資格に対してのみ許可される。労働市場政策の運営主体の連邦雇用エージェンシーが、労働市場への影響や、ドイツ国民、欧州連合(EU)市民への斡旋を優先するなどの要件に配慮して就労認可を行う。これは、すでに国内で暮らしている外国人が低技能の労働市場に参入する際の認可についても当てはまる。

高度な技能を持つ外国人労働者は、連邦雇用エージェンシーの認可なしに、無期限の定住許可が与えられる。高度技能者は、(1)特別な専門知識をもつ学者(2)卓越した地位にある教授や科学者(3)公的疾病金庫保険に加入できる上限額の2倍以上の所得(2005年の場合8万4600ユーロ以上)がある特別な職務経験を有する専門家や幹部職員――とされている。

3年以上の職業教育を必要とする技能労働への外国人の就労は、就労法令、就労手続法令に規定されている場合に認められる。就労許可は通常、外国人労働者の労働条件が同レベルのドイツ人労働者より劣っていないことが前提となる。報酬は、ドイツの賃金協約に従わなければならない。賃金協約がない場合は、その地域で一般的な給与の最低限が適用される。

2004年にEUに新規加盟した中東欧諸国の国民は、ある一定の職に適したドイツ人または同等の資格を持つ候補者がいない場合にのみ、その職に就くことが許可される。ただし、EU新規加盟国の国民は、非EU加盟国の国民より優先される。

外国人留学生は、大学課程修了後、資格に見合った仕事を探すために最長1年間、滞在許可を延長することができる。

呼び寄せ家族には、すでにドイツに居住する外国人と同等の労働市場参入権が与えられる。

アイデアと確かな財源を持つ外国人経営者は、自営業に従事するための滞在許可を取得できる。その許可基準は通常、投資額が100万ユーロ以上で、10人分の雇用を生み出す場合、満たしていると判断される。自営業者は、事業計画が順調に進んで生活費が保障されれば、3年後に定住許可を取得できる。

外国人労働者の参入分野

就労法令は、新規に入国する外国人の就労許可基準を定めている(表)。「許可を必要としない就労」は、連邦雇用エージェンシーが行う労働市場における優先や労働条件に関するチェックを免除されている。「許可を必要とする就労」には、「職業教育を前提としない就労」(季節労働、家事手伝いなど)と「3年以上の職業教育を前提とする就労」(外国語教師、IT技術者、管理職、専門職など)がある。「その他の就労」は、連邦雇用エージェンシーが労働条件についてはチェックするが、労働市場における優先チェックが免除されている。そのほかに「二国間協定に基づく就労」がある。

表:就労法令に基づくドイツ労働市場への参入分野
一般区分 就労法令 関連する職業および分野
連邦雇用エージェンシーの許可を必要としない就労 第1章
第1条~第16条
職業訓練、高資格者、管理職、科学者、研究者および技術者、企業幹部、特別な職業、ジャーナリスト、ボランティア、休暇就労、短期派遣者、国際スポーツ行事への参加者、国際輸送、海運・航空、サービス業、特別な短期活動
連邦雇用エージェンシーの許可を必要とする、職業教育を前提としない就労 第2章
第17条~第24条
季節労働、展示業者助手、オーペア雇用、家事手伝い、派遣者に同伴する家事手伝い、芸術家、教育実習
連邦雇用エージェンシーの許可を必要とする、職業教育を前提とする就労 第3章
第25条~第31条
外国語教師・郷土料理人の有期雇用、IT専門家・科学者、管理職・専門職、外国人のための業務に従事するドイツ語の堪能な社会福祉労働者、介護労働者、国際人材交流・外国プロジェクト
その他の就労許可 第4章
第32条~第37条
ドイツ民族、特定の国籍者(アンドラ、オーストラリア、イスラエル、モロッコ、カナダ、モナコ、ニュー・ジーランド、サン・マリノ、米国等)、ツーバー・フォー住宅の組立、長期派遣労働者、越境労働者
二国間協定に基づく就労 第5章
第38条~第41条
請負契約、研修のための外国人労働者の就労、その他の二国間協定

資料出所:Migration Policy Groupウェブサイト“Current Immigration Debates in Europe Germany: Migration Country Report 2005

社会統合政策

ドイツでは、移民や移民の二世、三世の失業率が著しく高く、外国人子弟の教育水準の低下が深刻な問題となっている。こうした問題に対処するため、新移民法には、合法的移民のドイツ社会への統合化を促進するための統合コースに関する規定が盛り込まれた。

統合コースは連邦政府が主体となって実施するプログラムであり、原則として、ドイツ語の話せない新規移民に対して義務化されている。また過去に入国した移民も統合コースを受講する権利を有する。

統合コースの内容は、600時間のドイツ語教育コースと、30時間のドイツの歴史・文化・法律等を扱うオリエンテーションコースで構成される。ドイツ語教育コースは、日常生活において困らないドイツ語能力の習得を目標としている。カリキュラムは第1段階(基礎語学300時間)と第2段階(中級語学300時間)に別れている。

オリエンテーションコースは、ドイツの政治と国家運営のシステム、とりわけ、自由民主制、政党制度、連邦構造、福祉制度、平等の権利、寛容および宗教の自由の重要性を移民に理解させることを目的としている。

ドイツ語教育コースおよびオリエンテーションコースが終わると、最後に両コースの修了試験が実施される。

今後の課題

社会民主党政府が2001年に連邦議会に提出した新移民法の当初案には、高度技能者以外の外国人労働者受入れに道を開く「ポイント制による最適な選抜手続き」が盛り込まれていた。野党のキリスト教民主・社会同盟は、失業率が10%に達する状況での、外国人労働者の受入れ拡大に強く反対した。その結果、ポイント制を規定した新移民法第20条は法案審議の段階で削除され、現在ブランクとなっている。しかし、高齢化の進展に伴う労働力不足に対応し、ドイツの競争力を強化していくためには、優秀な外国人労働力の受入れが必要であるとの意見が根強くある。最近は、高度技能者の受入れ要件となっている年収制限を引き下げる規制緩和策が議論されている。また、労働市場の状況に応じて、高度技能者以外の労働者を受入れていくための規定整備が今後の課題となっている。

参考

2007年2月 フォーカス: 外国人労働者と社会統合

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