外国人労働者と社会統合:フランス
最近の移民法その背景にあるもの

フランスでは、つい先ごろ移民法が改正された。伝統的には長い移民の歴史を持つフランス。最近では文化論争ともなったスカーフ問題、2005年の移民青年の暴動など社会統合という視点で注目を集めることも多い。シンポジウムでは在京仏国大使館警察アタッシェ・ダニエル・コンダミナス氏に、改正された新移民法についてのポイントを、その背景にある状況と合わせて報告してもらった。以下、概要を紹介する。

新移民法三つの柱

フランスは伝統的に多くの移民を受け入れてきた国だ。受入れのピークは第一次世界大戦後と1960年代から1974年までの間にあった。以来、総人口に占める移民の割合は安定(INSEE()が行った国勢調査によれば1999年3月時点で約7.4%)している。しかし未だ多くの人々がフランスに移住を希望しており、またその一方でフランスは、1998年から増え始めた庇護申請者に対応しヨーロッパ最大の難民受入れ国でもある。

移民に対する国家の対応が始まったのは1945年に遡るが、移民に関する法律は1974年(石油ショックにより国境封鎖が行われた年)からこれまでに何度も改正されてきた。今回の改正は主に、移民の国内流入への対応とEU法との調和という二つの重要な側面を持つ。

新移民法の基本方針は三つの柱で構成される。第一の柱は「移民流入の抑制」であり、第二が「移民選別の促進」、そして第三が「移民の社会統合」である。とりわけこの第三の柱「統合」という問題は重要であり、最もフランスが成功しようと望んでいるテーマとなっている。

移民流入の抑制

移民流入の抑制は、2003年11月の「移民の抑制、外国人の滞在および国籍取得に関する法律」によって規定されている。この法律の主な目的は、「移民の寛大な受入れ」と「非合法の移民流入ルートに対する取締り強化」。すなわち質の高い移民の受入れについては寛大である一方で、非合法移民については厳しく取り締まるとの方針が明示されている。具体的には「二重刑罰制度」が改正されたほか、非合法移民取締りの対策として滞在資格や査証を申請する外国人の指紋と写真入りファイルの作成が義務付けられ、偽装結婚や養子縁組に対する制裁が定められた。結婚については、婚姻によるフランス国籍取得者が94年の19490件から04年の32390件へと増加している。もちろん、正当な婚姻の権利は尊重されなければならないが、政府はこの中に非合法の入国を目論む者が潜んでいるとして管理を強化しようとしている。結婚を希望する当事者は別々に行政機関で面接を受けるなどいくつかの手続き改正が行われた。滞在許可証は、これまで結婚後2年だったものが3年後初めて与えられることになり、同時に配偶者がフランス社会に統合する意思を明らかにすることが必要とした。すなわち、最低限のフランス語およびフランス文化の知識があることを証明することが前提となる。また、国籍取得のために必要とされる婚姻期間は2年から4年になり、3年以上継続してフランスに在住していない場合は5年の婚姻期間が必要となる。これらは偽装結婚を阻止するための措置である。また、結婚に次ぐ移民輩出源となっているのが家族呼び寄せ。これはフランス憲法及び国際協約で保障されているので拒否はできないが、新移民法はこの権利についても抑制の目的で再定義しようと試みている。すなわち移民の合法滞在期間が従来の1年ではなく、18カ月を過ぎた場合にのみ家族呼び寄せが可能とした。さらにこの際、最低所得保証も義務付けた。少なくとも最低賃金と同額の収入を得ていなければならないとしている。また、不法滞在者であっても10年間フランスに居住していれば自動的に合法化されて滞在許可証が得られるという規定があったが、これは削除された。

一方、庇護申請者についても申請の手続きが一部改正された。これまでの手続きが一元化され、フランス難民無国籍保護局(OFPRA)で一括処理することにより、庇護申請の審査期間が短縮化される。

このように移民の流入については、非合法の入国取り締まりを厳格化するなど「抑制」という方針で改正が為されている。

移民選別の促進

一方でフランスは、2006年7月の「移民と統合に関する法律」で移民選別の促進を規定した。フランス経済の需要に沿って労働力を選別し、経済、科学、文化および人道に関するプロジェクトに参加できるような外国人のみを受け入れる可能性を開こうとするものだ。これは現在の移民受入れがフランスの受入れ能力や経済的需要と均衡していないという認識に基づく。フランスにおける専門的な職業目的の移民は、流入する移民のせいぜい7%程度と言われており、著しく減少している。このような状況を改善するためには、移民の選別を行い、フランスが必要とする有資格者や才能ある人物に門戸を開くことを促進しなければならない。

具体的には外国人留学生の受け入れなどが優遇されることになる。外国人学生の場合、自国で行っている専門的研究が有意義と認められれば、滞在許可証の交付および更新が簡素化される。また、学生の査証の交付や高等教育機関への予備登録を行う際、その期間を早めるなどのサービスを提供する機関としてフランス専門研究センター(CEF)が設置された。これらは国際競争が行われている中、フランスを留学先に選んでくれた学生に対して支援を提供するための措置である。

移民の社会統合

このようにして選別された移民受入れを容易にするためにも、その移民がフランス社会に統合されることが重要になる。これまで多くの移民は、残念ながらフランス社会へ統合されるための枠組みを持っていなかった。雇用、住居、そしてフランス語の知識、これらはフランスで生活するための最低必要条件であるのにもかかわらず、移民の多くはこれらの条件が十分に整っている環境にあったとはいえない。彼らの能力を十分にフランス社会で発揮してもらうためには新しい枠組みが必要となる。

新移民法は、幾つかの新たな統合政策を定めている。受け入れに際して「統合契約」が新たな移民全員に義務化されることになった。この契約で最も重要なのがフランスの原則-自由、平等、博愛の尊重。統合には多くの必要条件があるが、重要なのは移民自身が統合の意思を持ち、自分を受け入れてくれたフランスの原則を尊重するという心構えである。

フランスで初めて滞在許可を得た移民が定住を望む場合には、この契約の枠内で、社会生活およびフランス語について研修を受けることになる。そして10年間の許可証を取得する前に、三つの要素からなる統合条件を満たさなければならない。その要素とは、(1)フランスが規定している原則を尊重すると約束すること、(2)そしてその原則を実際に守ること、(3)フランス語の能力について「フランス語初級免許(DILF)」と呼ばれる新しい免許制度により認可を受けることの三つである。

移民数の統制が必要

以上が新移民法の特徴であるが、この移民法をうまく機能させる前提として、流入する移民数を統制することが重要だ。政府は国会において毎年移民政策の方針に関する報告を行っているが、その報告の中で、数年にわたる移民数流入の数値目標を提示しなければならない。交付される査証や滞在許可証の数、カテゴリーをその中で示すことが義務付けられる。こうした数値目標はフランスの統計的な状況を勘案されて決定されるべきものである。先頃フランスの出生率が上昇しているというニュースがあった。ヨーロッパの中でフランスは最も出生率が高く、女性1人当たりの出生率は2人となった。現在6300万人の人口が5年後には6500万人に増加すると予測されている。移民の流入数はこうした人口統計・増加予測のほか、労働市場の需要、受入能力なども考慮して検討される。さらに移民の受入と統合にともなって必要になる、公共サービスや社会体制がうまく機能することも考えて決定されなければならないのである。

(本稿は、2007年1月17日に開催した国際シンポジウム「外国人労働者と社会統合―欧州における外国人労働者受入れと社会統合の展開― 」より、ダニエル・コンダミナス氏(駐日フランス大使館警察アタッシェ)の報告をまとめたものである。)

2007年2月 フォーカス: 外国人労働者と社会統合

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