多様な働き方:ドイツ
低賃金分野の雇用拡大
- カテゴリー:多様な働き方
- フォーカス:2006年8月
ドイツでは、失業者に占める長期失業者の割合が高く、2006年6月は37.3%であった。なかでも職業資格を持たない低学歴の労働者(以下「低資格労働者」という)の就職は非常に困難であり、失業手当より低い賃金の仕事にしか就けない場合が多い。失業者も低賃金の労働に従事するよりも、手厚い社会保障給付への依存心が強く、就労意欲を失ってしまうことが重大な問題とされている。このため、低賃金分野の仕事をより魅力あるものとし、低資格労働者の雇用を拡大することを目的とした「ミニ・ジョブ」、「1ユーロ・ジョブ」などの施策が実施されている。これらは、税・社会保険料の免除や賃金助成を受けながら低賃金の労働に従事する雇用形態である。2005年末のミニ・ジョブ労働者数は約642万人であり、労働市場における重要性が増している。
ミニ・ジョブとミディ・ジョブ
低資格労働者の雇用促進を目的とした新しい「ミニ・ジョブ」制度が2003年4月に導入された。ミニ・ジョブとは、報酬が月額400ユーロ未満の低賃金労働をいう。ミニ・ジョブに従事する労働者は、税・社会保険料の負担を免除され、月額400ユーロまでの賃金を満額受け取る。また、社会保険加入義務がある本業に従事しながら、アルバイトのようにもう1つのミニ・ジョブを行う場合は、本業の賃金と合算しなくてもよい。ミニ・ジョブ労働者を雇用する使用者は、30%の定率社会保険料を支払う。
ミニ・ジョブの中でも、月額報酬が400~800ユーロの労働は、「ミディ・ジョブ」と呼ばれる。ミディ・ジョブでは、労働者の社会保険料負担が報酬に応じて段階的に増えていき、800ユーロに達すると通常の社会保険料率が課せられる。使用者は通常の使用者負担分の社会保険料を支払う。
ミニ・ジョブに従事する労働者の数は、04年まで一貫して上昇傾向にあったが、05年12月末には約641万7000人と、前年同期の約694万人から約52万3000人減少した。
安定した本業を持たず、ミニ・ジョブに専ら従事する労働者は、06年4月に498万人を数え、1年前に比べて25万4000人増加した。
1ユーロ・ジョブ
05年1月に導入された「1ユーロ・ジョブ」は、失業給付Ⅱ(注)受給者の就労意欲を減退させないため、公共の利益に見合う補足的な就業機会を提供することを目的としている。主に自治体などが社会福祉、市民サービスなどの仕事を提供し、労働者は失業給付Ⅱに基づく給付金に加えて、1時間当たり1~2ユーロの手当を受け取る。1週の労働時間は30時間以下に制限されている。1ユーロ・ジョブは、社会保険加入義務がなく、労働安全衛生法を除き、労働法や労働協約も適用されない。
ドイツ連邦会計検査院によると、05年には約63万人の失業給付Ⅱ受給者が、介護、清掃、建設、飲食店、オーケストラなどの1ユーロ・ジョブに従事したという。
ドイツの6月の失業者数は5月より13万8000人少ない439万7158人。失業率は、0.3ポイント低下し10.5%となった。連邦雇用エージェンシーは、失業者の減少には長期失業者対策が大きく影響していると説明する。5月には29万人が1ユーロ・ジョブに従事し、失業者統計からはずれた。
コンビ賃金
昨年11月に発足したキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)による大連立政権は、低賃金の雇用と賃金助成を組み合わせた「コンビ賃金(Kombi-Lohn)」の検討を打ち出した。コンビ賃金は、「賃金と社会給付をバランスよく組み合わせることで単純労働をやりがいあるものにすると同時に、単純労働の雇用を新しく生み出す」ことを目的としている。
CDU/CSUのコンビ賃金研究グループは5月、コンビ賃金により07年に20万人の失業者を助成する提案を行った。CDU/CSUは、2つのターゲット・グループを念頭に置いているという。第1のグループは12カ月~28カ月失業している55歳以上の高齢者(約40万人)であり、第2のグループは6カ月以上失業している25歳未満の若者(約30万人)である。こうした失業者を雇用する使用者に対して、高齢者は月額賃金1600ユーロまではその40%を、若者は月額賃金1300ユーロまで賃金助成を行うとしている。
SPD前党首のミュンテフェリング副首相兼労働社会相は7月、年金支給開始年齢引き上げの影響を受ける高齢者層に対しコンビ賃金の導入を検討している旨を明らかにした。同大臣の提案は、失業給付の受給期間が120日以上残っている50歳以上の失業給付Ⅰ(失業保険で賄われる通常の失業手当)受給者が失業直前の職より給与の低い新しい職に就く場合、1年目は従前賃金との差額の50%、2年目は30%を助成するものである。また、失業給付Ⅱを受給する高齢者を少なくとも1年以上を雇い入れる使用者に対し、最長24カ月まで賃金助成(最高40%まで)を行う施策も検討しているという。
連立政権は、コンビ賃金、最低賃金、派遣法の有用性やミニ/ミディ・ジョブの機能などについて調査し、06年秋に低賃金分野の雇用拡大に関する包括的な提案を行うこととしている。
注
- 05年1月施行のハルツ第Ⅳ法は、従来の失業扶助と社会扶助の一部を統合し、失業給付Ⅱ制度を創設した。失業給付Ⅰ(失業保険で賄われる通常の失業手当)受給期間満了後、就労能力のある失業者は、税財源によって賄われる失業給付Ⅱを受給できる。
参考
- 1ユーロ(EUR)=147.35円(※みずほ銀行ウェブサイト 2006年8月7日現在のレート参考)
2006年8月 フォーカス: 多様な働き方
- イギリス: IT時代の「賢く働く」という選択
- アメリカ: 雇われない働き方「独立契約者」
- ドイツ: 低賃金分野の雇用拡大
- フランス: 働く女性の「仕事と家庭生活の調和」を支えるパートタイム労働
- 中国: 経済の急成長とともに多様化が進む就業形態