多様な働き方:中国
経済の急成長とともに多様化が進む就業形態

多様化する就業形態

中国政府の発表によると2005年末時点の中国の就業者数は、75825万人であり、そのうち第一次産業の従事者は44.8%、第二次産業は23.8%、第三次産業は31.4%である。このような産業別就業構成に加え、中国では、都市部と農村部で就業が大きく二つに分けて考えられている。2003年の政府統計によると、中国には9億人の農民が存在するが、これは人口の5分の4に相当する。そのうち60%がいわゆる農村余剰労働力として、都市労働力への転換を迫られている。そういった構造の中で、農民の中には技能訓練をうけ、農村出稼ぎ労働者として都市に働きに出る者があとを絶たない。また、沿海部と中心とする都市部でも労働集約的な産業では、農村からの出稼ぎ労働者が貴重な労働力として期待されている。

ところで、改革開放以前の中国の伝統的な国有企業では、労働者は、収益配分には発言力をもたないものの企業所有者の一部と位置づけられ、その就業は終身雇用で保障されていた。しかし、改革開放後は、国有企業改革、民営化が進む中で、労働者の位置づけも変革を強いられ、雇用労働者として雇用契約にもとづき働く労働者と位置づけられるようになっている。雇用契約もかつての終身雇用から個別の労働契約へと変化をもたらし、契約期間は労働者ごとに個別に決められるようになった。そういった中で、雇用形態は、かつての終身雇用から期間限定の契約を繰り返すものへと変化している。

改革開放以前でも50年代においては、国有企業は終身雇用の正規就労者である、いわゆる固定工は取らない方針をとっており、臨時雇工や農村出稼ぎ労働者の短期雇用などフレキシブルな就労形態を採用していた。しかし、これも文化大革命時に臨時雇工を固定工として雇い直す方針に改められ、臨時雇工がすべて固定工となったという経緯がある。中国で企業が臨時雇工を再び採用し始めたのは77年以降のことである。(注1)

中国の労働者の就業形態は非常に複雑であり、明確に定義し区別することは現段階では非常に困難であるが、労働科学研究所の李天国研究員によると、行政調査の統計区分では、正規労働者を、(1)国有企業に勤務するもので1年乃至3年以上の雇用契約を有している労働者、(2)10年以上続けて同じ企業勤務している労働者、(3)自分が正規労働者であると思っている労働者――と定義しているということである。この統計分類に入らない労働者は非正規労働者と位置づけられる。同氏は、中国における労働者概念の混乱は政策立案に影響を及ぼすため、さらに整えていく必要があると指摘する。

中国における非正規就労をある報告書では、下記のとおり7つの類型に分類している。(注2)

  1. フレキシブルな就労:決まった仕事についてフレキシブルな労働時間を有する労働
  2. 段階的就労:おもに女性が育児期間中など段階的に仕事を離れる就労
  3. 非フルタイム就労:女性が家庭生活を重視して選ぶフルタイムでない就労
  4. 派遣労働・労務提供:労務提供組織を通じて実現する就労
  5. 季節就労:生産とサービスの季節的特長から需要が生じる季節型就労
  6. その他臨時就労:短期的、不固定的就労
  7. 独立就業:個人経営、仲間同士の共同経営、自由就業者、その他独立就業形式

下記は、1980から2002年までに正規就労者と非正規就労者による労働時間の割合の推移を表したグラフである。このグラフからは、2000年を境に正規就労者の労働時間が減少し、非正規就労者(季節的就業など臨時雇工)が増加して、割合が逆転していることがわかる。これは、国有企業の下崗労働者が非正規就労者(臨時雇工)として再就職を果たしたこと、近年企業が正規雇用を行わず、むしろ農村から出稼ぎ労働者を臨時工として雇う傾向があることが原因であると考えられる。

就業形態別労働時間数の推移

図

(労働と社会保障部労働科学研究所「2005年中国就業報告」より作成)

以下では、非正規就労の代表的な事例として、農村からの出稼ぎ労働者の働き方と、新しい働き方として雇い主からも労働者からも注目されているが、法規制が未整備なため中国ではまだリスクの高い働き方とされる派遣労働について、最近の動向を紹介したい。

農村出稼ぎ労働者の就業―「炒更」という働き方―

経済の急成長をうけて、2000年に入り、珠江デルタ、長江デルタの沿海部を中心に組み立て産業やアパレル業など労働集約型産業では、「民工荒」(農村出稼ぎ労働者の不足現象)とよばれる、労働者が不足するという現象がおこっている。中国では前述のように農村労働力は余剰気味であり、労働力が不足することはありえないはずであるが、沿海部の生産工場では労働力が定着せず、恒常的な不足状態が続いている。

この原因としては、労働者の権利意識が高まったことから、労働者に労働力需要に対してより良い条件のところに就職したがる傾向が生まれてきたこと、工業化の拡大により沿海部のみでなく内陸部でもよりよい条件での就労が可能となり、選択肢が広まったことなどによる需給のミスマッチが指摘されている。

農村からの出稼ぎ労働者が職に就く方法は、多くは同郷の出身者やもとの職場の仲間などとの情報交換、口コミによるものが多い。これについて、前出の労働科学研究所の李天国研究員は、「民工の人たちは、職業紹介所を介するよりは、携帯電話等で仲間同士が情報交換してより良い条件の職場を探し、仕事に就いているのが現状である。良い条件のところがあれば、仲間からの連絡をうけ、すぐに良い条件の工場に仕事を変える」と指摘する。

よりよい労働条件の職場に人が集まる。労働力不足を深刻に受け止める工場の多くは、違法行為を改め、働く環境の見直しを行い、その結果徐々にではあるが、職場の労働条件や働く環境、労働者の権利保護は向上してきている。特に、労働集約型工場が数多く集積する広東省では、最低賃金を全国に先駆けて780元という高額に設定するなど、労働者が魅力を感じるように囲い込みの努力をしている。

そういった中、2002年ごろから、民工の中でも、臨時雇いの仕事を掛け持ちする働き方である「炒更」という働き方が現れ始めている。普通の民工が職業経験を生み、身につけた技能を活用して、いくつかの工場での労働を掛け持ちするというものである。「炒更」は、中国社会科学院農村発展研究所の劉小京研究員と北京大学社会学系教授揚善華氏の東莞市での調査で明らかになった働き方であるが、「民工荒」の中で機会を得た民工の働き方のひとつとされる。「炒更」は、熟練の労働者たちである。東莞市はアパレル産業工場が数多く存在し、6000社以上が集まっている。「炒更」は、そういった工場でいくつかの仕事を掛け持ちした結果、通常の民工より20%から30%高い賃金を手にすることができる。一カ月に3000元以上をかせぐ「炒更」もいる。しかし、一日18時間を労働に費やすことになり、大変な重労働である。地元の勝手のわかる元「炒更」が仲介人となり、「炒更」たちの仕事の斡旋や苦情処理など世話にあたる、新たに「炒更」を対象とした職業紹介の仕事も生まれている。

近年急増する派遣労働という働き方

中国で非正規就労に関して最近注目される働き方に、派遣労働がある。中国には、日本のような労働者派遣法はまだ存在していない。既存の職業紹介組織については、規定があり、有料で職業の斡旋を行っている。行政が行う公共職業紹介もあり、ここでは3回まで就職困難者に対して無料で職業紹介を行うことができる。これらはいずれも職業斡旋であり、雇用契約は企業と労働者個人が結ぶものである。

一方、中国においても存在する派遣労働は、日本と同様、派遣仲介企業との雇用契約にもとづき、企業に派遣され労働するというものである。派遣企業と労働者が雇用契約を結び、派遣先企業の指揮命令の元で働くという意味で、派遣企業は、職業紹介所とは異なる性質を有する。派遣労働の業種は、現在40業種である。

山東省の農家の劉小女那さんは、大都市で働くことを夢見て、中学卒業後地元の労働管理局所管の施設で職業訓練を受け、労働契約をそこで結んだが、実際には広州市の酒場でマネージメントの仕事をしている。賃金は毎月地元の労働管理局から支給されている。また、張燕色さんは、地元湖北省の工場に勤めていたが破産、長期失業状態で自宅待機をしていたところ広州市の家政婦サービス会社に入社、28日間の訓練を受けた後、家政婦サービス会社の派遣で広州市の家庭で家政婦として働いている。1カ月の給与の内、100元が管理費として家政婦サービス会社に天引きされるが、残りの600元が同社から賃金として支給されている。

上記は、中国の派遣労働の典型的なケースである。しかし、現状では、派遣労働は、法律がまだ未整備なこともあり、派遣労働の内容、派遣企業の責任と役割について明確に全国民が共通の認識をもっていないのが現状である。これに伴う、さまざまなトラブルも発生しており、労働紛争に発展しているケースもある。

派遣労働者を扱う企業は、北京市の例をとってみると、現在の派遣企業の70%が国有企業改革からの労働者の転職斡旋のために誕生したものであり、20%が中小規模の集団企業を対象としているものである。こういった組織は、国有企業からの下崗(リストラ)労働者や失業者をいったん吸収し、訓練を施し再配置するための機能として期待されてきた。しかし、近年は、これに加え、新たな就業形態としての派遣労働が注目されている。すなわち、上記劉さんや張さんの事例のような就職が難しいグループへの就職支援やベンチャー支援という新たな役割を担う派遣労働である。

労働者派遣組織は、改革開放の初期に規模は小さいながらも海外への労働者派遣と外資系企業への就職紹介のための組織として既に存在していた。しかし、今日では、派遣労働者の数も拡大の一途にあることから、派遣組織の責任と役割も大きく変化してきている。政府によると、現在中国の派遣労働者は、300万人以上おり、潜在的な労働力としては1000万人以上いると推計されている。

上海市対外サービス有限公司の胡宏伸副総理は、「グローバル化が進展する今日、欧米や日本でも一般化しつつある派遣労働という形態は、多国籍企業の進出を考えても中国でも取り入れていかなければならない働き方である。雇い入れ、社会保障の扱い、雇用関係の管理、労働紛争処理の問題など未整備な部分が多いが、グローバルなトレンドにおいては避けて通ることはできないため、一日も早く整備していくことが必要である。」と強調する。

参考

  1. 中国労働と社会保障部「2005年労働と社会保障事業発展統計公報」
  2. 南方週末2006年3月23日付け
  3. 中国労働2005年6月号
  4. 労働と社会保障部労働科学研究所「2005年中国就業報告」
  5. 揚河清他「新世紀人力資源開発と就業」中国労働社会保障出版社、2004年
  6. 経営側海外委託調査員レポート2006年7月
  7. 労働と社会保障部ウェッブページ
  8. 上海市ウェッブページ

2006年8月 フォーカス: 多様な働き方

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