勤労者意識:フランス
フランス人の就業意識

フランス社会を語る際に、「ヴァカンス(休暇)」という言葉がよく用いられる。7月の週末は「グラン・デパール(大出発)」と呼ばれ、パリから南仏に通じる高速道路は大渋滞。8月のパリは静まり返る。こうした夏のヴァカンスに限らず、フランス人は非常によく休むといわれる。雇用省調査統計局(DARES)によれば、2002年のフルタイム従業員の年間の平均労働時間は、1614時間。同年の製造業・生産労働者の年間総実労働時間を日本と比較してみると、フランスの1539時間に対し日本は1954時間(厚生労働省労働基準局賃金時間課推計)。実に400時間以上もフランスの方が短くなっている。

フランス人の国民性として、「就労」よりも「余暇」に大きな価値を見出すことがしばしば指摘されている。「ヴァカンスのために、渋々働く」と言われるほどである。フランスの政治家の一部からは、日本人の就労意欲の高さを評して「日本人は蟻のように働く」(クレッソン元首相)などと、やや否定的なニュアンスの発言さえ聞かれる。

また、フランスでは就業後や休日における同僚との付き合いは少なく、職場(集団)への帰属意識もあまり高くないといわれる。

このように日本人に比して就労に重きを置かない価値観は、退職年齢に関する調査にも現れている。調査会社SOFREが2004年9月に行った世論調査によると、「労働市場からの引退及び公的年金の支給開始」の理想的な年齢は、給付額 などを考慮しない場合は「55歳以下」と考える国民が45%であった。これに「56歳から59歳」の7%、「60歳」の36%を合わせると、実にフランス人全体の9割近く(88%)が「理想の退職年齢は60歳以下」と考えていることになる。

これに対し、「61歳から64歳」という回答は2%、「65歳以上」は6%と、60歳を超えても働き続けたいと考えるフランス人は1割に満たなかった。

また2002年の調査と比較すると、理想的な退職年齢を59歳以下に設定する者の割合が増えており(図1参照)、早期の引退を望む者が増えていることがわかる。

図1理想の年金支給開始年齢

図1

さらに、同調査において「何歳を限度に就労することができるか」を質問したところ、「60歳未満」という回答が11%、「60歳」が41%と、国民の半数以上(52%)が「働くのは60歳までが限度」と考えていた。

このように、フランス国民は早期退職を希望する傾向が強い。その原因としてしばしば挙げられるのが手厚い公的年金制度である 。ただしその給付水準は必ずしも高いとはいえず、日本の厚生年金にあたる「一般制度」の場合、完全年金(フルペンション)は現役時代の報酬の50%(つまり代替率が50%)にとどまっている。これに対して、勤労者の社会保険料・税の負担は大きく、それが就労意欲の減退に繋がっているともいわれる。

こうした年金制度や税制などの社会システムは、フランス人独特の仕事観とともに、その就業行動に影響を与えているといえるだろう。

参考

  1. 大村敦志(2002)『フランスの社交と法』有斐閣
  2. 労働政策研究・研修機構『データブック 国際労働比較2005』
  3. 完全年金(フルペンション)を受け取るのに必要な拠出期間は、現在のところ原則40年間で、拠出期間がそれに満たない場合は減額される。
  4. フランスにおける中高年の就労状況及び中高年の雇用政策と公的年金制度の関係については、JILPTのHP(海外労働情報2004年10月)を参照のこと。

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