勤労者意識:イギリス
英国/柔軟な働き方に対する意識の高まり
—2002年雇用関係法が後押し

英国における週50時間以上の労働者の割合(2000年)は日本、アメリカに次いで3番目に高く、その割合は15.5%(表1)。法定祝日および年間休日数もドイツ、フランスよりも少なく、同国は長時間労働の慣行で知られている(表2)。中でも子どもを持つ男性が最も長時間働く傾向があると言われ、フルタイムで働く父親の約3分の1(37%)が週に49時間以上、7分の1が60時間以上働いている(注1)。 そのような中でブレア首相が第4子の誕生に際し2週間の休暇を取ったことは、父親が積極的に育児に参加する姿として国民の共感を集めた。国民の仕事と生活に対する意識に変化が起きているのだろうか。

柔軟な働き方を希望

最近の勤労生活の質(Quality of Working Life)に対する関心の高まりを受け、英国貿易産業省(DTI)が実施しているのが「ワーク・ライフ・バランスキャンペーン」。2000年に開始された同キャンペーンでは、働く「両親」の出産.育児に関する権利の拡大を重点課題としている。長時間労働の慣行に取り組むためには使用者の理解が不可欠としている。こうした考えの実践案としてワーク・ライフ・バランスがもたらす経済的利益や変化の必要性を納得させるための活動がDTIの音頭で展開されている。

2002年雇用関係法(2003年4月施行)では6才未満の子ども又は18才未満の障害をもつ子どもの親がフレックス勤務や在宅勤務といった「柔軟な働き方」を請求する権利がみとめられた。新たに盛り込まれた父親の育児休暇は、2003年4月6日以降に生まれた子供の父親に対し2週間の有給休暇が与えられるというもの。休暇中は平均週給の90%(限度額100ポンド)の法定父親給付(Two Weeks Statutory Paternity Pay :SPP)が雇用主から支給される。

柔軟な働き方に対する関心の高まりはDTIの調査からも窺がえる。2004年の「柔軟な働き方に関する従業員調査(Results of the First Flexible Working Employee Survey)」(注2)によると「柔軟な働き方を要求する権利」を知っていた労働者は52%で、2003年に実施された調査(The DTI Second Work-Life Balance Study- WLB2)(注3)と比較して11ポイント上昇しており、短期間で認識度が高まったことを示している(表3)。また、もう一方の当事者である使用者の関心はさらに高く、2004年調査で「柔軟な働き方を要求する権利」については74%、父親の育児休暇については58%が認識していた。

こうした労使双方の「柔軟な働き方を要求する権利」に対する関心の高まりに伴い、実際に柔軟な働き方を導入する企業が増えている。英国人材マネジメント協会(CIPD)の「柔軟な働き方と父親育児休暇に関する調査(Flexible working and paternity leave the full rate for fatherhood 2004)」(注4)によれば、大多数の企業がワークシェアリング、フレックスタイム、年間時間契約制などの柔軟な働き方を提供するための工夫を行なってきている。柔軟な働き方のうち1般的なものはパートタイム勤務、変形労働時間制など。労働者が柔軟な働き方を要求した理由で最も多いのが「育児」。以下「仕事と家庭生活のバランス」、「家族と過ごす時間を増やしたい」などが続く(図1)。

取得率向上のカギは所得保障

このように、柔軟な働き方の導入が進んではいるが、政府は育児休暇の取得率については、まだ十分なレベルに達していないと考えている。父親の育児休暇取得率が1%未満というわが国とは比較にならないが、英国でも休暇制度の取得率向上は大きな課題となっている。2週間の父親育児休暇制度に対する満足度調査によると、「適当である」と答えた者が53%であったが、「不十分」と答えた者も半数近い41%に上る(図2)。若年齢層(16-29歳)に限定すると現行の休暇制度では短いと考える者がより多くなる。

また、育児休暇制度に対する不満は所得保障についても見られる。法定父親給付(SPP)の限度額が100ポンドと設定されているために、父親と比べて相対的に賃金の低い母親が休暇を取得する方家計の収入低下幅が小さいからだ。CIPDの調査によればこうした理由が響いているためSPPが100ポンド以下であっても育児休暇を取得したいと考える者の割合は46%にすぎない(図3)。

表1

出所:ILO"Working time and worker's preferences in industrialzed countries : Finding the balance, 2004

表2

表3

図1

図2

図3

2005年4月 フォーカス: 勤労者意識

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