メンタルヘルス:EU
職業性ストレスに関する取り組み

欧州連合(EU)は、労働者の安全衛生を確保するための各種措置を導入し、職業性ストレス(work-related stress)の問題にも取り組んできた。欧州生活労働条件改善財団の2000年の調査によると、欧州就業者の28%が職業性ストレスの影響を受けている。また、欧州安全衛生機構の調査では、欠勤の50~60%が職業性ストレスに関係し、心疾患のうち、男性16%、女性22%の原因がストレスであるという。

職業性ストレスとは、労働環境の要求が従業員の対応能力(または管理能力)を超えた場合に経験されるものである。ストレスの原因となる職業上の要因については、多くの研究者が一致した見解を持っていると言われており、それを10のカテゴリーに分けて示したのが表1である。

EUは1989年、「労働安全衛生の改善を促進するための施策の導入に関する理事会指令」を採択した(これは枠組み指令と呼ばれ、その後各分野の個別指令を採択)。枠組み指令は、事業者は「就業上のあらゆる局面で労働者の安全衛生を確保する義務を有する」と規定する。この一般原則に基づいて、事業者は、リスクの回避、リスク発生原因の除去、仕事の労働者への適合化等に関する措置を講じなければならない。職業性ストレスに関しても、それを除去または削減する義務を有する。EU加盟国は、指令の内容を自国の法令に取り入れている。

新たな職場のリスクに対応した政策

欧州委員会は、職業性ストレスを包括的に分析した「職業性ストレスに関する手引き」を1999年に発表した。手引きは、職業性ストレスの原因、症状、影響などに関する全般的な情報を盛り込み、職業性ストレスの特定に関する一般的なアドバイスを掲載している。国あるいは企業レベルのソーシャルパートナーの実際的な行動枠組みを提案し、治療よりも予防に重点を置いている。

2000年12月のニース欧州理事会で採択された社会政策アジェンダは、職場の健康と安全を実現するための共同体戦略を策定するよう欧州委員会に指示した。アジェンダは、職業性ストレスなどの心理社会的性質を含む新しいリスク要因に関する基準を設定し、優良事例の紹介を通じて対処していくことを目指していた。

これを受けて、欧州委員会は2002年3月、「労働と社会の変化に対する適応:労働安全衛生に関する新たな共同体戦略(2002~2006年)」を発表した。共同体戦略は、職場のいじめや暴力、ストレスなど、職場における新しいタイプのリスクに対応するためにEUの安全衛生政策を刷新することを目的としている。労働現場における変化と新たなリスクの出現、とりわけ社会心理的側面を考慮しつつ、労働福祉に対するグローバルなアプローチを試みるものである。その際、労働の質の向上、安全で健康的な労働環境の整備を不可欠な要素とみなし、リスク予防文化の強化と徹底、さまざまな政治的手段(立法措置、ソーシャル・ダイアログ、優良事例の紹介、企業の社会的責任と経済的インセンティブ)の活用とあらゆる関係者のパートナーシップ構築の重要性を強調している。

欧州安全衛生機構は2002年10月、職業性ストレスをテーマとした欧州労働安全週間をEU全域で実施した。このキャンペーンで同機構は、企業、労働者、安全衛生専門家が職業性ストレスの原因を把握し対処するためのパッケージ・ツールとして、(1)企業向けストレス減少ガイド(2)ストレス診断および対策用簡易チェックリスト(3)欧州の職業ストレスに関する専用ウェッブ・サイト――を発表した。

EU中央労使団体、職業性ストレスに関する労働協約を締結

EUの中央労使団体は2004年10月、職業性ストレスに関する枠組み協約を締結した。欧州労連(UNICE)、欧州産業経営者連盟(UNICE)、欧州職人中小企業連盟(UEAPME)、欧州公共企業センター(CEEP)の4団体は、各構成組織による協約の履行を約束した。協約は、使用者、労働者および労使団体の職業性ストレスに関する知識と理解を促進し、ストレスに苛まれている労働者の兆候を見逃さないよう注意喚起することを目的としている。

職業性ストレスを防止、除去、削減するための方策として、枠組み協約は、(1)企業の目的と個別労働者の役割を明確化し、個人や集団に対する経営側の十分な支援を確保し、責任と仕事の統制を合致させ、労働組織・作業工程・労働条件や労働環境を改善するための管理や伝達の方法(2)管理職と労働者のストレスとその原因、対処法、変化への適応に関する知識と理解を向上させるための訓練(3)EUおよび各国法制、労働協約や慣行に基づく労働者および労働者代表組織への情報提供・協議の整備――を例示している。各団体の構成組織は、協約の履行状況について、EUレベルのソーシャル・ダイアログ委員会に報告する。同委員会は、毎年、履行状況の概要を取りまとめ、協約締結から4年後に包括的な報告書を作成することとしている。

EUの労働安全衛生政策は、ストレス、うつ、不安、職場暴力、ハラスメントなどの新たな職場のリスクに対応した身体面、モラル面、社会的次元を含む労働福祉(well-being)の継続的向上を目標としている。また、人口動態の変化、新しい雇用形態、職場組織、労働時間、企業規模(中小・零細企業に対する特別対策)などに配慮した施策に重点を置いている。

出所:国際安全衛生センター・ウェブサイト、欧州安全衛生機構発行「Magazine」5号

参考

  1. 国際安全衛生センター・ウェブサイト
  2. 欧州安全衛生機構ウェブサイト
  3. 欧州委員会ウェブサイト

2005年11月 フォーカス: メンタルヘルス

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