労働に関する「心理社会的リスク」に関連して年間84万人が死亡
 ―ILO報告

カテゴリ−:労働条件・就業環境勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2026年9月

国際労働機関(ILO)はこのほど、心理社会的労働環境(psychosocial working environment)が労働者の健康に与える影響を分析した報告書『心理社会的労働環境:世界的な動向と行動の道筋』を発表した。労働に関連する心理社会的リスク(仕事の負担、努力と報酬の不均衡、仕事の不安定さ、長時間労働、職場のハラスメント等)の増加が、労働者の安全と健康、組織の生産性や経済成長に対して重大な脅威となっており、こうしたリスクに関連して、世界で年間84万人が死亡していると推計した。また、デジタル革命の進展や新しい雇用形態の広がりにより、既存の心理社会的環境が変化しており、積極的な対処が求められると指摘している。

「長時間労働」や「職場のハラスメント」などが危険要因に

報告書は、仕事に関連する心理社会的にみた危険要因について考察し、長時間労働が心血管疾患の重要なリスク要因であることに関して、2022年のILO報告書をもとに再確認している。それによると、世界の労働者の35%が、週に48時間以上労働している。この割合を地域別に見ると、アジア太平洋地域が47%と最も高く、業種別には卸売・小売業(49%)、運輸・通信業(45%)、製造業(45%)などで高くなっている(注1)

また、職場のいじめやその他の暴力、ハラスメントの被害も大きなリスク要因となっている。ILOが2022年に実施した調査では、世界の労働者の23%が就労中に何らかの形態の暴力やハラスメントを経験している。そのうち最も多いのは「心理的暴力」(18%)で、次いで「身体的暴力」(9%)、「性的暴力」(6%)などだった(ILOおよびロイズ・レジスター財団、2022年)(注2)

世界でGDPの1.37%を損失

こうした状況をふまえ、報告書は、世界の労働者の健康と経済に与える影響を測定するため、5つの主要な労働関連の心理社会的リスク要因(①仕事の負担、②努力と報酬の不均衡、③仕事の不安定さ、④長時間労働(週55時間以上)、⑤職場のいじめ)による負担を定量的に推計した。5つのリスク因子の有病率と人口寄与割合の推計値を世界の死亡率と「障害調整生存年(Disability Adjusted Life Years, DALY)」(注3)データに適用することで、これらの要因が労働関連の疾病と死亡に及ぼす影響を算出している。

その結果、労働に関する心理社会的リスク要因に関連して、世界で年間推計84万人が死亡していると分析した。内訳をみると、心血管疾患(虚血性心疾患および脳卒中)が約78万4,000件、精神疾患が約5万6,000件となっている(図表1)。

図表1:労働関連の心理社会的リスクに起因する世界の死亡者数(単位:人)
(年間、推計)
画像:図表1

出所:ILO(2026)

また、労働関連の心理社会的リスク要因にさらされることで、年間約4,490万DALYが失われていると推計した。うち約2,040万DALYが心血管疾患、約2,450万DALYが精神疾患に起因している(図表2)。

図表2:労働関連の心理社会的リスク要因による世界のDALY損失の内訳(単位:DALY)
(年間、推計)
画像:図表2

出所:ILO(2026)

死亡件数をみると心血管疾患が大部分を占めるが、DALY損失については精神疾患の割合が高くなっている。これについて報告書は、精神疾患の慢性的かつ障害的な性質による影響が大きく出ているため、と説明している。

このDALY損失の影響をマクロ経済レベルでみると、世界の国内総生産(GDP)の推定1.37%の損失に相当する。地域別にみると、最も高いのはアフリカ地域の1.72%で、最も低いのは南北アメリカ地域の1.12%となっている。

デジタル化など新しい労働環境の影響

また、報告書は、人工知能(AI)などのデジタル化やリモートワークの普及、プラットフォーム経済による新しい雇用形態の広がり、人口動態の変化、気候変動など、労働世界をとりまく様々な変革が、心理社会的労働環境を大きく再構築していると指摘する。

こうした変革は、既存の心理社会的環境を悪化させたり、新たなリスクを生み出したりする可能性がある。ただし、同時に、より良い業務組織化や柔軟性向上の機会となる可能性もある、とも示唆する。

労働環境の新たな変化を踏まえて、心理社会的な職場環境リスクの根本原因を改善するため、組織的アプローチをとって積極的に対処できれば、国と企業は、より労働者と組織の双方にとってのぞましい健全な職場を創り出し、生産性や組織のパフォーマンスを向上させ、経済回復を強化することができる、と結論づけている。

心理社会的リスクは現代の労働安全衛生の最重要課題の一つ

ILOの労働安全衛生政策システム担当チームリーダーであるマナル・アッツィ氏は、「心理社会的リスクは、現代の労働安全衛生にとって最も重要な課題の一つになりつつある」と指摘。心理社会的労働環境の改善は、労働者の精神的・身体的健康を守るだけでなく、生産性、組織のパフォーマンス、持続可能な経済発展の強化にも不可欠だ、と訴えた。

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