ASEAN地域の労働者8,000万人が生成AI技術の影響を受ける可能性
―ILO研究ブリーフ
ILO(国際労働機関)が7月8日に公表したレポートによると、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域の労働者約8,000万人が、生成AI技術による影響を受ける可能性のある職業に就いている。また、生成AIの影響を受ける労働者数は増加しているものの、雇用喪失などの大規模な混乱は見られていない。生成AIに対する対応は各国でばらつきがあり、生産性向上や雇用創出の恩恵を公平に享受するため、ASEAN各国は協力しながら必要な対応を進めるべきだとしている。
国別にはシンガポールが最も高く4割を超える
ILOの新しい研究レポート「ASEANにおける生成AIと労働市場(Generative AI and labour markets in ASEAN)」は、ASEAN各国の雇用と労働市場における生成AIの影響を分析した。それによると、仕事で利用するなど、生成AIに一定以上の影響を受ける可能性のある労働者は、ASEAN諸国の総雇用の22.9%にあたる約8,000万人にのぼる。一方で、約67%は生成AIの影響が確認されていない職業に就く(図表1)。
この割合を、国別の数値が入手可能な国(マレーシア、ブルネイ以外の9カ国)についてみると、シンガポールが42.2%で最も高い。フィリピン(28.1%)、インドネシア(21.7%)、ベトナム(20.8%)、タイ(20.6%)も、比較的影響の度合いが高い。最も低いのはラオスの約13%だった。
生成AIの影響の度合いを4段階(低い・中程度・かなり・高い)に分けて詳細にみると、「高い」とする労働者の割合は3.3%(約1,170万人)にとどまる。「かなり」影響を受けるのは2.2%、「中程度」は8.2%、「低い」は9.1%となっている。
図表1:国別にみた生成AIに影響を受ける労働者の割合 (単位:%)

出所:ILO(2026)
注:数値は入手可能な最新年の値。ASEAN(2025年)、カンボジア(2023年)、インドネシア(2023年)、ラオス(2017年)、ミャンマー(2020年)、フィリピン(2023年)、シンガポール(2023年)、タイ(2024年)、東ティモール(2022年)、ベトナム(2024年)。
年齢層による差はないが、男女差は大きい
レポートはさらに、生成AIの影響度が「高い」労働者の割合について、年齢層別および男女別に分析している。年齢層別にみると、若年労働者層(15~24歳層)、成人労働者層(25歳以上)はいずれも3%台だった。若年がやや高いものの、年齢層による格差はみられなかった。
一方で、男女別にみると、大きな差異があった。生成AIの影響を「高く」受ける労働者は、男性が2.3%なのに比べ女性では4.8%と、女性が2倍以上高い。これについてレポートは、ASEAN諸国において男性は、肉体労働や機械操作などの職種で働く傾向が高い一方、女性は事務職や管理職、一部の専門職に就く割合が高く、こうした職種は特に生成AIの影響を受けやすいためと分析する。そして、「生成AIは男性と女性とで異なった形で作用し、ジェンダー不平等や労働市場参加に影響を及ぼす可能性がある」と指摘している。
図表2:生成AIに「高い」影響を受ける労働者の割合(ASEAN全体、2025年)(単位:%)

出所:ILO(2026)より作成
生成AIへの対応状況は国によって差がある
レポートは、生成AIがASEANの労働市場に与える影響について、比較的大きいものの、その影響が「高い」労働者は限定的で、今のところ広範囲な雇用喪失などの影響は見られていないとしている。しかし、ASEAN各国の生成AIへの対応には差があり、その状況について以下のとおり3つのグループに分類している。
最も対応が進んでいるのはシンガポールで、高度なデジタルインフラ、豊富な人材、そして政府主導で推進した世界的に競争力のある生成AIエコシステムを確立している。
第2グループはマレーシアとタイ、ブルネイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムで、生成AI導入に必要な基盤の多くを確立しているが、高度なスキルや研究能力、コンピュータシステムを支えるインフラなどでは課題がある。
カンボジア、ラオス、ミャンマー、東ティモールは第3グループに属し、デジタルインフラや制度的・技術的なキャパシティーが低く、対応が遅れている。これらの国は、生成AIによる生産性向上の恩恵を十分に受けられないリスクがあると指摘する。
ASEAN全域で協力し、社会対話等を通じて生成AI政策の強化を
また、レポートは、生成AIは仕事の世界を変革する計り知れない可能性があるが、万能の解決策ではなく、習得すべきツールとして捉えることが必要だと指摘。そのうえで、ASEAN各国が、生成AIによるイノベーションを生産性の向上に活用して、質の高い雇用を創出し、その全域で、包括的で平等な成長を促進できるかどうかは、各国の今後の政策選択に左右されるとして、以下の5つの優先事項を挙げている。
- 人間中心のアプローチによる生成AIの統治構造と政策統合の強化
- 将来の労働力を育成するための適切な教育政策と、労働市場移行支援の包括的労働市場政策
- 中小企業など企業への生成AI導入と能力開発の支援
- デジタルインフラ、スキル、広範なイノベーションエコシステムへの持続的かつ大規模な投資
- ASEAN諸国の地域内協力の強化
参考資料
- ILO “Generative AI and labour markets in ASEAN:Significant exposure, limited disruption, uneven preparedness
”(2026) - ILOウエブサイト

2026年7月 ILOの記事一覧
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