デジタルプラットフォーム労働に関する初の国際条約を採択
 ―第114回ILO総会

カテゴリ−:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2026年6月

国際労働機関(ILO)は6月1~12日、スイス・ジュネーブのILO本部で、第114回総会を開催した。加盟187カ国の政労使からなる代表団約5,700人が出席し、「ジェンダー平等」や「社会対話と三者構成主義」などをテーマに幅広く議論。「プラットフォーム経済」に関する討議では、配車サービスやフードデリバリーなどのデジタルプラットフォームを介して働く労働者を保護する、初めての国際条約を採択した。

ウングボ事務局長「AI革命に人間中心のアプローチを」

総会の開会式で、ILOのジルベール・ウングボ事務局長は、中東危機など世界的に不確実性が高まっているなか、人工知能(AI)の普及という大きな変革に直面していると指摘した。自著『選択のとき― AIを活用したディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現(A Moment of Choice: Harnessing Artificial Intelligence for Decent Work)』(注1)に言及。AIは生産性を向上させ、労働者と企業双⽅に新たな大きな機会をもたらす可能性があるが、⼀⽅で、権利、平等、社会的包摂、そして広範な社会正義に関して、深刻な懸念を引き起こす危険性があると指摘した。

そして、AIを⼈権、国際労働基準、ディーセント・ワークに合致する形で統治するためには、透明性や説明責任の確保とともに、労働者の参加という⼈間中心のアプローチ、つまり「人間の知性」が必要だと提唱。労働の未来は技術の進歩だけでなく、それを導く政策、制度、社会的対話が人々の生活に与える影響によって決定するとし、三者構成の構造と規範的権限を持つILOは、その使命に沿って、AIの⽅向性を積極的に形作る役割を担うことができる独自の立場にある、と主張した。

また、AIの恩恵は、より高い賃金、より強い労働者保護、より包摂的な成長を通じて公平に分配されなければならないと強調し、「今日の私たちがどういう選択をするかによって、AIが機会を増やし広く繁栄をもたらすのか、それとも不平等や不安を深めるのかを決定づけることになる」と呼びかけた。

デジタルプラットフォームを介して働く労働者の権利を保護

今回の総会では、基準設定討議「プラットフォーム経済における適正な労働に関する討議(Decent work in the platform economy)」において、デジタルプラットフォームを通じて働く労働者の労働条件の改善を目的とした、初の国際労働条約を採択した。この「2026年プラットフォーム経済における適正な労働に関する条約(ILO第193号条約、Decent Work in the Platform Economy Convention, 2026 (No. 193))」は、加盟各国に対し、デジタルプラットフォーム労働者が、結社や団体交渉の自由、差別や児童労働・強制労働からの保護、安全で健康的な労働環境の確保など、職場における基本的権利を確実に享受するよう求めている。

プラットフォーム経済の労働者には、ライドシェア運転手、配達員、家事・介護労働者、オンラインフリーランサーなどが含まれる。こうした労働者は個人事業主として分類される慣行が広まっており、賃金や社会保障等の労働条件面で不利になりやすいと指摘されている。

条約は、雇用関係にあるかどうかに関わらず、すべてのプラットフォーム労働者に対して十分な報酬や支払いを拡大することを奨励している。

アルゴリズム(自動化システム)の管理に関しても、国際的なルールを定めた。プラットフォーム企業は、労働者の仕事の割り当てや評価をアルゴリズムで自動的に管理しているケースが多いが、こうしたシステムがいつどのように使用されているのかについて、透明性の確保と説明、審査メカニズムへのアクセスの促進等を盛り込み、責任ある運用を求めた。さらに、差別その他違法な理由に基づくアカウントの停止や無効化に対する保護を規定するとともに、労働者の個人データやプライバシーを守るための安全措置を確立することとした。

また、プラットフォーム労働者を契約上の呼称ではなく、労使関係の実態に基づいて、労働者が正しく分類されるよう確保することを求めた。

初の国際条約の意義

条約の賛否を問う投票は、総会最終日の12日の本会議で各国政労使の代表により行われ、賛成406票、反対8票(米国やニュージーランドの政府、韓国・タイの使用者など)、棄権36票(英国やインドの政府、フランス・スペインの使用者など)で、採択に必要な三分の二以上の賛成票を得た。日本は政労使とも賛成票を投じた。条約の発効には少なくとも2カ国以上の批准が必要となる。批准した国は、国内法令や労働協約、裁判所の判断など、各国の制度に即した方法により、同条約の内容を実施することが求められる。

今回の条約は、プラットフォーム労働者の権利保護に向けて、画期的な一歩になるとみられている。ILOは「AIやデジタルなどの技術革新と新しいビジネスモデルが、労働者の権利や公正な競争、持続可能な経済成長とともにあることを保証する、世界的な取り組みの歴史的な第一歩である」と強調する。

ウングボ事務局長は、同日の閉会あいさつで「この数日間の我々の議論に、数百万人のデジタルプラットフォーム労働者とプラットフォームが、熱い視線を寄せていた。彼らはこの結果を待っていたし、我々は彼らを失望させることはできなかった。そして、ILOは仕事の現在および未来を創り出す力があることを示した」と条約採択の意義をアピールした。

なお、同条約の採択について、国際産業別労働組合UNIグローバルユニオンのクリスティ・ホフマン書記長は、「この条約の成果は驚くべきものであり、プラットフォーム労働者による長年の取り組み、そして国際労働組合総連合(ITUC)とILO総会の労働者代表の粘り強さと決意の賜物だ。国際社会は明確なメッセージを発した。テクノロジーを口実に、労働者の基本的権利を否定してはならない」とコメント。そのうえで「我々はすべての政府に対し、この条約を批准し、その原則を現実のものとするよう強く求める。労働が人間の監督者によって管理されるにせよ、アルゴリズムによって管理されるにせよ、すべての労働者は公正な賃金、安全な労働環境、社会的保護、透明性、そして職場での発言権を得るに値する」と訴えた(注2)

一方、国際使用者連盟(IOE)のロベルト・スアレス・サントス事務総長は「この新しい条約は、プラットフォーム経済には個人事業主と被雇用者の両方が含まれるという根本的な現実を認識している。重要なのは、画一的なアプローチを拒否し、雇用関係を前提とする考え方を否定している点だ。その代わりに、各国の法制度を尊重し、各国が自国の法律と確立された基準に基づいて雇用状況を判断できるようにしている」との見解を示している(注3)

「ジェンダー平等」や「社会対話の強化」について決議案を採択

今回の総会ではこのほか、「仕事の世界におけるジェンダー平等の変革的アジェンダの推進」をテーマに、職場のジェンダー平等の実現に向けた構造的な課題やエビデンスに基づく取り組みについて議論し、決議案を採択した。男女の平等な機会はすべての人にとって働きがいのある仕事の基盤であり、社会正義に不可欠であることを再確認した。そして、より多くの女性が良い仕事に就けるよう、変化する労働環境に効果的な政策アプローチを行い、母性保護や育児・介護サービスと社会保障を強化することが必要だとした。また、経済や労働市場の変化は、すべての人に利益をもたらすものでなければならないとの認識を共有した。

また、ILOが特定のテーマを数年ごとに取り上げる枠組みでは、「社会対話と三者構成主義」について第3回目の討議を行い、各国の取り組みの進展と今後の課題を検討した。社会対話の有効性と影響力を確認するとともに、対話を促進するための環境の確保が必要だとの認識を共有。政府、使用者、労働者が協力して労働の課題に取り組むことの重要性を再確認した。そのうえで、労働者と使用者の組織化と代表権の保護の必要性を強調し、公正で効果的な労働政策の策定を支援するために、より強固な協力と対話が必要だとする決議案を採択した。国家、部門および職場レベルでの社会対話を強化するため、今後のILO支援の指針も提示している。

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