「基礎保障給付」受給者の「就労能力」をめぐる課題
―ジョブセンター職員意識調査
ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)がこのほど実施したジョブセンター職員向けオンライン調査(OnJoB)の結果によると、社会法典第2編(SGB II)に基づく基礎保障給付の現場では、受給者に求められる「就労能力」をめぐり、多くの職員が課題意識を抱きながら支援に当たっていることが明らかになった。受給者の状態に応じて、他の福祉・医療制度等へ円滑に移行できるようにすべきだとする職員の意見が多数を占める一方、現行の就労能力基準そのものを抜本的に見直すべきだとする意見は少数にとどまった。
受給者の「就労能力」に疑問を抱く現場職員
現行のSGB IIに基づく基礎保障は、自力で生計を維持することが困難であるものの、少なくとも「1日3時間は就労可能」とされる者を給付対象としている。このため、法制度上、受給者は「就労能力のある者」と位置づけられる。しかし、こうした者の中には、心身の制約を抱え、実際には就労が困難な場合もある。
IABの調査によれば、図表1の通り、ジョブセンター職員の61%が、「自ら担当する受給者の多くについて、実際に就労能力があるのか疑問を抱いている」と回答した。また、必要に応じて他の支援制度や社会保障制度へ移行しやすくする改革については、86%が支持している。移行先としては、例えば、公的年金保険による就労能力減退年金(Erwerbsminderungsrente)や、社会法典第12編(SGB XII)に基づく高齢・就労能力減退時の基礎保障などが想定されている。
図表1:基礎保障受給者の就労能力-ジョブセンター職員の経験と評価

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注:%、未加重値。
出所:IAB-Forum(2026)
このような結果から、現場職員の多くが、SGB IIの枠内だけでは十分な対応が難しい事例に日常的に直面していることがうかがえる。しかし、現行制度の下では、ジョブセンターが受給者について「実質的には就労困難である」と判断したとしても、最終的に法的に有効なのは年金保険機関による認定である。すなわち、ジョブセンターが医療サービスや地方保健当局の医学的鑑定等を踏まえて就労能力がないと判断した場合であっても、その判断が年金保険機関によって正式に裏づけられるとは限らない。調査では、「年金保険機関の鑑定が、ジョブセンターの評価を裏づけている」との設問に対し、同意した者は7%にとどまった一方、63%が否定的な見方を示した。このことから、現場では、ジョブセンター側の見立てと年金保険機関の判断との間に、少なからぬ乖離があると受け止められていることが分かる。
ただし、このような判断の乖離が認識されているにもかかわらず、現行の就労能力基準そのものを見直すべきだとする意見は多くない。IABの調査によれば、就労能力基準の見直しを支持する回答は27%にとどまり、57%は否定的であった。つまり、ジョブセンター職員は、現行の「少なくとも1日3時間の就労が可能」という就労能力の定義自体を直ちに問題視しているわけではないことが示されている。むしろ、可能な限り多くの受給者を就労へ再統合するという基本的な方向性は維持しつつも、長期間の受給を経て就労の見通しが現実的でない事例については、他制度への移行を含め、より実効的に対応できる仕組みを求めていることがうかがえる。
社会福祉改革の議論との接点
こうした問題は、現在国内で進む社会福祉改革の議論とも関係している。政府は、社会福祉の近代化や行政の簡素化を検討する専門委員会を設置し、議論を経て2026年1月に報告書(注1)を公表した。同報告書では、制度の簡素化、デジタル化、手続きの迅速化などが提言されており、基礎保障の受給者に対する鑑定の在り方や制度間の連携の在り方についても、今後の検討課題の一つとして位置づけられている。就労が困難な受給者については、より適切な制度へ円滑につなぐ仕組みを整備する必要性が示唆されている。
ジョブセンターの運営形態とOnJoB調査
なお、ドイツにおいて、雇用保険を主な財源とする失業給付Iは、地域の公共雇用サービス機関である雇用エージェンシー(AA)が担当する。他方、主に税金(連邦負担)を財源とする求職者向けの基礎保障は、ジョブセンターが担当している。
ジョブセンターには、雇用エージェンシーと地方自治体が共同で運営する「共同運営型(gE)」と、認可された地方自治体が単独で運営する「自治体運営型(zkT)」の2種類がある。全国のジョブセンター404か所のうち、300か所が共同運営型、104か所が自治体運営型であり、自治体運営型は全体の約4分の1を占める(注2)。
今回実施されたIABのOnJoBは、全国404か所のジョブセンターに勤務する職員を対象としたオンライン調査で、市民手当(Bürgergeld)導入後の運用実態や職員の評価を把握することを目的としている。第1回目の調査は2024年春に実施され、その後も反復調査として設計されている。
注
- BMAS(2026)Empfehlungen der Kommission zur Sozialstaatsreform (PDF:1476KB)
(本文へ) - BMAS(01. Januar 2023) Organisation der Jobcenter
(本文へ)
参考資料
- IAB-Forum(2026)Die Mehrheit der Jobcenter-Beschäftigten betreut Leistungsberechtigte, die aus ihrer Sicht nicht erwerbsfähig sind

- Bundesagentur für Arbeit(18. September 2025)Stellungnahme der Bundesagentur für Arbeit zur Kommission zur Sozialstaats-reform(Stakeholder-Gespräch)
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