外国人療養保護士養成のための大学課程を新設
法務部出入国・外国人政策本部は2025年8月、「外国人療養保護士養成大学」として、全国13の広域自治体から24校を選定したことを発表し、2026年から2年間にわたり試験事業を実施する予定である。本制度は介護人材の不足解消を目的として、地方大学に外国人留学生向けの療養保護士養成課程を新設し、留学生の誘致から資格取得、就労までを一貫して支援する仕組みである。以下で主な内容を紹介する。
療養保護士とは
療養保護士とは、認知症等の老人性疾患のために、自立した日常生活を送ることが難しい高齢者に対して、身体介助や家事支援などのサービスを提供する専門職である。
療養保護士になるためには、所定の教育課程を修了し、資格試験に合格して国家資格を取得する必要がある。教育課程は、座学126時間、実技114時間、現場実習80時間の計320時間で構成されている(注1)。試験は筆記と実技で行われ、それぞれ6割以上の得点が合格条件となる。
2024年より在留資格「特定活動」の対象職種に指定
韓国は2025年から超高齢社会に突入し、介護サービスへの需要が急増している。一方、療養保護士の供給は高齢化等により、深刻な人材不足が課題となっている。療養保護士の平均年齢は2023年時点で61.7歳に達しており、2027年には約7.9万人の人材が不足すると予測されている。こうした状況を受けて、外国人専門人材の受入れ拡大が議論されてきた。
現在、療養保護士の教育課程に申請できる外国人の在留資格は、「居住(F-2)」、「在外同胞(F-4)」、「結婚移民(F-6)」、「永住(F-5)」、「訪問就業(H-2)」、「留学(D-2)」、「求職(D-10)」に限られている。
このうち、「留学(D-2)」及び「求職(D-10)」(韓国国内の大学を卒業した者に限る)は2024年に新たに追加された(注2)。さらに、法務部は同年6月に「特定活動(E-7)」の職種に療養保護士を新たに指定し、年間400人を上限とする特定活動の在留資格付与事業を試験的に開始した。「特定活動(E-7)」は、法務部長官が特別に定めた職種に限り、外国人の就職を許容する在留資格である。
これにより、「留学(D-2)」及び「求職(D-10)」のビザ保有者が、療養保護士の資格を取得した場合には、「特定活動(E-7)」への在留資格変更が可能となった。「特定活動(E-7)」の在留期間は最長3年であるが、雇用契約が延長される場合には、在留資格の延長も可能である。
すなわち、留学生が療養保護士として韓国で働く場合は、①韓国国内の専門学士(2~3年制大学)以上の学位を所持すること、②療養保護士の国家資格を保持していること、③韓国語能力試験3級以上(中級程度)、または社会統合プログラムの3級以上を履修もしくは同プログラムの事前評価で61点以上を獲得、のいづれかの条件を満たす必要がある(注3)。
なお、外国人療養保護士の雇用は韓国人の被用者数の20%以内に制限されており、賃金は韓国人と同等に最低賃金以上を支給しなければならない。
韓国系外国人の活動期間
韓国国内で労働力を調達できない企業を対象に、非熟練労働者の受入れを認める制度として雇用許可制がある。この制度は、韓国政府と了解覚書(MOU)を締結した送り出し国からの労働者を対象とする「一般雇用許可制」と、韓国系外国人を対象とする「特例雇用許可制」に大別される。高齢者向け介護分野では、「一般雇用許可制」による外国人労働者の就業は認められていない(注4)。
「特例雇用許可制」に基づく在留資格である「訪問就業(H-2)」の労働者は介護分野において就業することができ、療養保護士の資格取得も可能である(注5)。
2024年からは、「訪問就業(H-2)」で入国した労働者が療養保護士の資格を取得した場合、在留資格を「在外同胞(F-4)」に切替えることが可能となった。訪問就業(H-2)は入国後の滞在期間に制限(4年10か月)があるのに対し、在外同胞(F-4)は回数制限なく延長が可能なため、既存労働者の長期的な定着や新規人材の参入が期待されている。
地域の大学に養成課程を新設
法務部と保健福祉部は、2026年から2年間、「外国人療養保護士養成大学制度」を試験事業として実施する予定である。この制度は、外国人療養保護士の育成を目的に、地方大学に学位課程を新設し、留学生の誘致から資格取得、就労までを一貫して支援・管理することで、地方における介護人材の不足解消を図るものである。学位課程は、法務部及び保健福祉部が策定するガイドラインに基づき構成され、韓国語教育もカリキュラムに含まれる。対象大学には、全国13の広域自治体から24校が選定されており、これらの大学は2026年度第1学期から養成学位課程の運営が可能となる。
選定された大学にとってのメリットは、外国人のための「初期適応プログラム」または「社会統合プログラム大学連携課程」の運営を希望する場合、優先的に指定を受けることができる(注6)。
また、留学生に対しては、ビザ発給に必要な財政要件を緩和する方針も示されている。
法務部と保健福祉部は、広域地方自治体と連携しながら、定期的に制度の点検及び評価を行い、正式事業への転換可否を判断するとしている。
注
- 関連する職業で1年以上の経歴のある者、関連する国家資格(看護師等)保持者は教育時間が一部減免される。(本文へ)
- 「求職(D-10)」の対象者は、「教授(E-1)」、「外国語教育(E-2)」、「研究(E-3)」、「技術指導者・技術者(E-4)」、「専門職(E-5)」、「芸術家・スポーツ選手(E-6)」、「特定活動(E-7)」の在留資格で研修や就職を予定している者である。(本文へ)
- 社会統合プログラム(KIIP: Korea Imigration and Integration Program)とは、移住者が韓国語及び韓国文化を身につけるためのプログラムである。移住者はこのプログラムを履修することで、在留資格や永住権、帰化申請時に韓国語能力などの証明免除や、スコア付与等の権利を獲得できる。
法務部 社会統合情報網Soci-Net(本文へ)
- 低熟練労働者受入れのための制度である「雇用許可制」のうち、韓国系外国人を除く外国人を受け入れる一般雇用許可制の労働者の在留資格は、「非専門就業(E-9)」である。(本文へ)
- 特例雇用許可制の労働者は、除外業種以外の全ての業種で就業が可能である。(本文へ)
- 早期適応プログラムとは、長期滞在の在留資格で韓国国内に滞在する外国人を対象とする教育プログラムである。内容は生活法、犯罪予防等の共通項目と、在留資格ごとに異なる内容に分かれており、総教育時間は4時間または5時間である。履修することにより、社会統合プログラム参加時の教育時間を2時間控除することができる。また、結婚移民者は外国人登録時に滞在期間を2年間付与される。
法務部 社会統合情報網Soci-Net(本文へ)
参考資料
- 仁川広域市「療養保護者の資格案内
」
- 法務部出入国・外国人政策本部報道資料「「外国人療養保護士養成大学」選定結果発表
」(2025年8月25日)
- 保健福祉部「外国人留学生の療養保護士資格取得とE-7ビザ変更制度案内
」(2025年4月4日)
- 保健福祉部「法務部―保険福祉部、療養保護分野専門外国人労働者活用拡大
」(2024年6月28日)
- 見つけやすい生活法令情報「外国人の療養保護者の資格取得
」
2025年9月 韓国の記事一覧
- 外国人療養保護士養成のための大学課程を新設
- 55~79歳の労働力人口、初の1,000万人突破 ―「経済活動人口調査高齢付加調査」結果
関連情報
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