外国人の流入削減策に介護労働者の受け入れ停止など
 ―移民制度改革案

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2025年8月

政府は5月、EU離脱以降に急激に増加した外国人労働者や留学生などの流入を削減するため、多岐にわたる制度改正の方針を白書にまとめた。労働者として受け入れ可能な職務レベルや給与水準要件の引き上げ、介護労働者の受け入れ停止のほか、就学ビザに関連した引き締め策、国内の取り締まり強化などを盛り込んでいる。

EU離脱後の緩和策で、低技能労働者や留学生、家族などの流入が急増

外国人の急激な流入増加は、EU離脱に伴う制度改正以降に生じている。EU加盟国との間の移動の自由の廃止後、EU域内外に共通に適用されることとなった新たな制度では、労働力確保の観点から、労働者(skilled worker)の受け入れを認める職種レベルが大卒相当レベルから中等教育修了相当レベルへ(注1)、給与水準の要件が3万ポンドから2万5600ポンドへそれぞれ引き下げられたほか、2022年には介護労働者の受け入れを認めるなどの緩和策が実施された。

白書(Home Office "Restoring Control over the Immigration System (PDF:2.27MB)新しいウィンドウ")の分析によれば、2023年6月までの12カ月間の純流入数(入国者数から出国者数を引いたもの)は、90万6000人と2019年(22万4000人)からは4倍に増加し、記録的な水準に達した。2024年初頭から実施された一連の引き締め策(留学生や介護労働者に関する家族帯同の禁止など)(注2)を挟んで、同年6月には72万8000人に減少しているものの、従来の平均的な水準(2010~2019年で年間20~30万人)を依然として大きく上回っている。主な要因は、相対的に低技能な労働者(調理・ホスピタリティ職種、介護労働者など)や、ランクの低い教育機関における留学生の受け入れ、また帯同する家族などの顕著な増加だ。また、2020年の大卒者ルート(就学後に一定期間の滞在を認める)導入以降の滞在延長者の拡大や、不法入国・滞在者などの難民申請の増加も、流入者数の増加を後押ししていると見られる。

政府は、外国人が国内経済にもたらす利益を認めつつも、前政権下で生じた爆発的な外国人の流入増加は、公共サービスや住宅供給への圧迫、国内の人材育成の停滞など、計り知れない損失を招いたと述べ、国境管理の回復により流入削減をはかるとの方針を打ち出している。

受け入れ可能な職種レベル・給与水準の引き上げ、介護労働者の受け入れ停止など

白書が提示する引き締め策は、就労・就学ビザに関するもののほか、不法就労などの取り締まりや送還、英語能力の要件や永住権等の申請に関する内容などの大きく4分野に分かれる(文末囲み参照)。このうち、就労ビザに関する制度改正では、受け入れ可能な職種のレベルをEU離脱前の水準である大卒相当(レベル6)に戻し、これに合わせて給与基準も引き上げる(注3)。大卒相当未満(レベル3~5)の職種については、諮問機関(Migration Advisory Committee)が長期的な不足状況にあると認めて労働力不足職種リスト(Temporary Shortage List)に掲載し、かつ業界が国内労働者の訓練等による労働力調達のプランを作成していること(注4)、また雇用主が国内労働者の採用拡大に貢献する意思があると判断される場合のみ、一時的に受け入れを認める。

また、受け入れ緩和により急増した保健・介護ビザによる介護労働者については、新規受け入れを停止し、2028年までの過渡的な措置として、既に国内にいる同ビザによる労働者のビザ延長や、他の就労ビザからの転換のみを認める(注5)。別途議論が進んでいる賃金・労働条等の改善の仕組みの設置を通じて、国内労働者の参加拡大を図ることが前提となっている(注6)

このほか、外国人労働者の受け入れ時に雇用主に課される移民技能負担金(Immigration Skills Charge)(注7)の引き上げや、国内労働者の能力開発への投資を動機づける方法(技能訓練を拡大しない雇用主に、受け入れ制限を課すことを含む)の検討などを行うとしている。

就学、家族の帯同・呼び寄せなども条件を厳格化

一方、就学ビザによる留学生の受け入れについても、厳格化が図られる。教育機関に対しては、コンプライアンス評価(受け入れた留学生のコース参加率や修了率などについて求められる基準)の厳格化や、エージェントを通じた留学生の募集における品質維持の責任の明確化などを求めるほか、高等教育機関の留学生受け入れによる収入に負担金を科し、これを技能施策への投資に充てることを検討するとの方針を示している。また、高等教育機関での就学後に、職探し等のための滞在を認める大卒者ビザについては、滞在を認める期間を現行の2年から18カ月に短縮する。

加えて、英語能力に関する全般的な要件の引き上げも予定されている。このうち労働者については、現在課されている英語能力要件の引き上げとともに、帯同する家族等にも、入国時に基礎的な英語能力の基準を満たすことを新たに求める。同様に、永住権・市民権の申請についても英語能力要件を引き上げるほか、申請の要件となる国内での居住期間を、従来の5年から10年に延長する(国内経済・社会への貢献度により短縮があり得る)。このほか、国境や入国管理制度の規則の厳格化、違反者の取り締まり体制の整備、国外追放の手続きの簡素化などの実施を掲げている。

政府は一連の施策による流入者数の減少効果について、受け入れ可能職種レベルの引き上げにより3万9000人、介護労働者の受け入れ停止により7000人、就学関連の制度改正で3万1000人など、合計で9万8000人減少するとの試算を示している(注8)

予定されている施策の大半は、施行規則(Immigration Rules)の改定によって実施可能とされ(注9)、既に7月には一部の制度改正が行われたところだ(注10)。これには、職種レベルの引き上げに伴う受け入れ可能職種の改定(約180職種を削減)や、基準未満のレベルの職種に関する暫定的な労働力不足職種リストの導入(諮問機関による見直しに先立って内務省が作成したもので(注11)、2026年12月までの期限を設定、また家族の帯同は認められない)、介護労働者ビザによる新規受け入れの停止、Migration Advisory Committeeに対する労働力不足職種や給与基準等に関する見直しの諮問などを含む(注12)。また年内には、移民技能負担金の改定や英語要件の引き上げなどの実施が予定されている。

施策をめぐる賛否

白書が提示する一連の流入削減策を巡っては、とりわけ介護業(注13)や高等教育機関(注14)などへの影響を懸念する声が多いほか、外国人労働者に対する搾取の防止が十分考慮されていないといった批判も聞かれる(注15)

研究者の間でも、評価は分かれる。キングス・カレッジ・ロンドンのジョナサン・ポーテス教授は、一連の政府案は現実と乖離している、として批判的だ(注16)。従来、低賃金労働者を多く受け入れてきたとする政府に対して、近年の外国人労働者の賃金(中央値)はイギリス人をわずかに上回る水準にあると反論、帯同する扶養者も就労する傾向にあり、経済的に貢献していると述べている。また、外国人労働者の受け入れによって国内労働者を訓練するインセンティブが影響を受けているかは疑わしい、としている。介護労働者については、外国人への過度の依存から脱するために賃金や労働条件を向上させるとの方針に異論はないが、そのコスト増は納税者やサービス利用者などが負担することになる点について、政府は言明を避けていると指摘している。留学生の受け入れに負担金を課す案についても、自国の高等教育に関税を課すことに等しく、筋が通らないとしている。さらに、多くの労働者に永住権取得までの居住期間要件を10年に延長する案は、国内で生活を築いた低賃金労働者に永住や市民権の取得ではなく出国を奨励するもので、外国人の統合やコミュニティへの包摂を妨げる醜悪なプランだ、と強く批判している。

一方、諮問機関の元委員長として、EU離脱後の制度案の提言にも関わったロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのアラン・マニング教授は、介護労働者の受け入れ停止は必要な措置だった、と評価している(注17)。介護労働者の不足は、賃金や労働条件の低さに起因するものであり、低賃金国からの外国人の受け入れによる低コストの労働力確保は、短期的には望ましい成果をもたらすかもしれないが、長期的には多大なコストとなり得るとしている。こうした層の多くは、永住権を取得する傾向にあると見られるが、彼らは永住権の取得後、より良い仕事を求めて介護業には留まらないであろうこと、また呼び寄せが可能となる家族を含め、50年はあろうかという定住の期間中、必ずしも就労するとは限らないなど、介護労働者を確保する方策としては効果に欠けると指摘。もし外国人による充足を考えるのであれば、介護労働に従事することを条件とし、永住権の申請も家族の呼び寄せも認めない期間限定の就労ビザによって行うべきだが、この方法は既にある搾取の問題をさらに深刻化させるだけだと述べ、低賃金・低労働条件が理由で生じている人手不足には、外国人の受け入れではなく、政府が述べるように処遇の改善によるべきであるとしている。介護労働者の処遇改善は、短期的には財政負担の増加につながると見られるものの、例えば介護ビザで入国した外国人労働者が、生涯にわたって最低賃金レベルの仕事のまま家族を持つ場合や、家族の呼び寄せによって生じ得る子供の教育の公的負担などを考えれば、長期的には財政の改善につながる可能性が高い、としている。

なお、諮問機関Migration Advisory Committeeは、外国人労働者の受け入れと国内での人材育成を関連付ける方向性には一定の理解を示しつつも、実行可能性については慎重な見方を示している(注18)。例えば、労働力不足職種リストを通じた受け入れを希望する業種に対して課すことが予定されている国内労働者の調達プランは、適正であるかの評価が難しいこと、また業種全体を代表する組織がない場合を含め、作成されたプランが業種内の雇用主によって順守される保証がないことなどを指摘、政策の展開には慎重な考慮が必要であるとしている。

参考資料

制度改革案の概要

〇就労ビザに関する改革

  • 専門技術者の受け入れ職種を資格枠組みのレベル6(大卒相当)以上に戻し、給与水準要件も引き上げる。
  • 移民技能負担金を導入以降初めて引き上げる(インフレ率に合わせて32%)。
  • 介護ビザの海外からの申請の受付を停止する2028年までを移行期間として、ビザ延長と既に入国している他の就労ビザ保有者の転換を認める(見直しがあり得る)。
  • 労働市場エビデンスグループを新設、移民労働者に常に依存するのではなく、良質なデータを用いて、労働市場の状況や、諸施策の果たすべき機能に関する十分な情報に基づいた決定を行う。
  • 外国からの採用が多い主要業種に、労働力戦略の作成の義務付けをはかる。
  • ポイント制による受け入れに期間限定のアクセスを認める臨時労働力不足職種リストを新設、レベル6未満の職種については、リストへの記載を受け入れの条件とする。
  • ポイント制による受け入れは、長期にわたり不足状況にある職種について、移民政策の諮問機関が妥当と認め、また労働力調達戦略があり、かつ受け入れを求めている雇用主が国内労働者の採用拡大に貢献する意図がある場合にのみ、期間限定で認める。
  • 移民制度を利用する雇用主が、国内労働者の能力開発に投資することを動機づけられる方法(技能訓練を拡大しない雇用主に受け入れ制限を課すことを含む)を検討する。
  • UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が認めた限られた難民・避難民について、必要な技能を有する場合に、現行の専門技術者ビザによる就労の申請を認める制度を導入する。
  • 極めて高度な人材が、最優秀人材を対象とした受け入れルートを利用することを確保する。

〇就学ビザに関する改革

  • 教育機関が留学生受け入れのために満たすべき要件を強化する。
  • 教育機関に求める基本コンプライアンス評価(注I)の下限を5%ポイント引き上げる(例えば、コース参加率を最低でも95%、修了率を90%とする)。
  • コンプライアンスに関する評価帯制度(リスクに応じて赤、オレンジ、緑に区分)を導入、教育機関自身や自治体あるいは一般に対して、機関ごとのコンプライアンスの度合いを明らかにする。
  • 評価が基準未満となりそうなスポンサーに対しては、それぞれに合わせた改善策を課し、その実施中は新規受入数を制限するなどの介入施策を新たに導入する。
  • 留学生の募集エージェントの利用を希望する全てのスポンサーに、最高基準のエージェント管理の維持を目的とした品質枠組みへの準拠を義務付け、受け入れ対象者が真に就学目的で来英することを確保するという自らの責任を、エージェントに単純に外注できないようにする。
  • 将来の留学生の募集については、スポンサーが受け入れ地域への影響に配慮していることを示す仕組みの導入をはかる。
  • 短期語学コースの提供機関の認定について、手続きの頑健性を見直し、認定・更新において適正な審査の実施に必要となりうる追加の検査について検討する。
  • 大卒ビザ(就学後の職探し等のための滞在を認めるビザ)で滞在可能な期間を18カ月に短縮する。
  • 高等教育機関の留学生受け入れからの収入に負担金を課し、技能施策への投資に充てることを検討する。

〇不法就労の取り締まりから外国人犯罪者の国外追放まで、規則の順守と執行

  • 国境、入国管理制度の規則を厳格化し、規則や法律に反する者の入国や難民申請の拒否を容易にする。
  • 人々が規則や法律に反した場合に、追跡、逮捕し、国外追放するための権限強化と適正な執行を可能とする施策を導入する。
  • 外国人違反者を国外追放するための規則と手続きを簡素化し、より最近の入国者で違反を犯した者の犯罪がエスカレートする前に、的を絞った追加的対策を講じる。
  • 従来の生体居住認証カードに替えて、eビザの導入とビザ順守の新たなチェック制度の導入を通じて、デジタル身分証明の実施による国境管理の強化をはかる。
  • 移民制度を濫用・悪用しようとする者や、母国に申請が妥当と認めうる実質的な変化がないにもかかわらず、入国時・入国後に難民申請を行う意図を隠し持った者に対する管理、制限、調査を強化する。
  • 不法就労の生じやすい主な業種(ギグエコノミーを含む)へのリソースの急速な投入や、不法移民の強制捜査へのeビザや生体認証技術の利用などに、選挙以降で1000人の執行・送還担当職員を再配置して、不法就労への対策を継続する。
  • 既存の銀行システムをもとに、技術の進展を反映させ、税の支払いを怠って規則を尊重しない者への対策を、政府一丸となって構築する。
  • 今年中に、法制度の堅持に向けて、国外追放の簡略化・迅速化を含む、より詳細な改革プランとより強力な施策を打ちだす。
  • 外国籍の違反者が国内に根付く前に対策し、地域コミュニティの保護と犯罪防止のために必要な策を講じるのは正しいことである。

〇英会話能力やイギリスになしうる貢献に関する新たな規則を含め、制度を通じた移民の統合やコミュニティへの包摂支援

  • 既に英語能力の要件が課されている専門技術者や労働者について、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)(注Ⅱ)におけるB1からB2(自立した言語使用者)への基準引き上げを行う。
  • 労働者や留学生の扶養者には、新たな英語能力要件として、配偶者やパートナーとしての入国時に合わせてレベルA1(基礎段階の言語使用者)に達していることを求め、この基準の順次引き上げをはかる。
  • ビザ延長にはレベルA2(基礎段階の言語使用者)、また永住申請にはレベルB2(自立した言語使用者)への進歩を示すことを要件化する。
  • 既存の大多数の移民ルートからの永住申請の英語能力要件を、B1からB2に引き上げる。
  • 永住権・市民権に関する規則の改革として、ポイント制を拡大するとともに、永住権の申請に要する居住期間を10年に延長する。
  • 永住権・市民権の申請に要する居住期間は、国内経済・社会への貢献度に基づいて短縮の機会が与えられる。
  • イギリス国民の扶養者として永住権を申請する非イギリス国民には、引き続き5年の要件を適用し、また家庭内暴力・虐待の被害者など立場の弱い者については保護的措置を継続する。
  • イギリス国民または定住者である子供が死亡した遺族に対するルートを新設し、即時永住権を認める。
  • 永住権申請時等に実施されるテスト(Life in the UK test)の内容や実施に関する刷新と、子供時代から居住していた若年成人がイギリス国籍を取得しやすくするための、金銭的な障壁の軽減について検討する。
  • 一定期間国内に居住していた児童が18歳になり、法的地位がないことが分かった場合に、地位の正規化と永住権の取得を全面的に支援する。これには社会的保護下にある、またはあった児童に関する経路の明確化を含む。

参考レート

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