ギグワーカーが2047年に6,160万人に増加
 ―V・V・ギリ国立労働研究所推計

カテゴリー:非正規雇用多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2025年7月

労働・雇用省のV・V・ギリ国立労働研究所はこのほど、ギグワーカーに関する推計結果を公表した。今後、インドにおいてインターネットの発展、労働市場の変容などにより、ギグワーカーが2047年に6,160万人になるという(注1)。この報告書の分析は、インド政府が掲げる「2047年までに先進国入りを目指す」という野心的なビジョン(注2)を踏まえ、その道筋を検証する一環として行われた。ギグエコノミーはGDP成長を担う主要産業として着目されており、2047年までの先進国入りを支える推進力となると考えられている。だが、プラットフォーム企業の関連で就労する労働者は、社会保障の適用を受けないほか、団結権や団体交渉権といった労働者としての基本的な権利がないために、公正な報酬を受け取れていない場合や、安定的な就労が期待できないことがあるなどの諸問題が指摘されており、法的な保護の枠組みの確立が急務となっている。

先進国入りの推進力となる主要産業としてのギグエコノミー

独立100周年を迎える2047年までにインドの「先進国(Viksit Bharat (Developed Nation))」入りを果たすというビジョンを実現するためには、変化する雇用社会に対応できるエコシステムを早急に整える必要がある(注3)。労働市場は、人工知能(AI)、機械学習、ロボット工学などの技術革新により、その様相を大きく変えつつあり、新たなビジネスモデルが生まれるとともに、新たなスキルが求められている。

インドにおいてギグエコノミーを担う企業は、OlaやUberといったライドシェアサービス、ZomatoやSwiggyといったフード・デリバリー・プラットフォーム、AmazonやFlipkartといったeコマース大手、そしてUrban Companyのような、プラットフォームを介して美容、清掃、修繕などの専門業者を斡旋するサービス(注4)など、デジタルプラットフォームを利用して幅広い職種のサービスを提供している(注5)

労働・雇用省のV・V・ギリ国立労働研究所(V.V.Giri National Labour Institute (VVGNLI))がこのほど発表した報告書によると、政府が先進国入りの目標とする2047年にギグエコノミーで就労する労働者数は、中位推計値で6,160万人になり、非農業労働力全体の14.89%を占めると予測されている(注6)。この推計値はギグエコノミーの進展動向によって上下に最大6,000万人程度の振れが生じる。つまり、技術の混乱や進歩の度合い、規制や政策の変更、経済ショックなど、いくつかの外的マイナス要因を想定する場合の低位推計値では3,250万人だが、プラットフォーム関連企業が急拡大するパターンを想定する場合の高位推計値では9,080万人に増加する。

NITI Aayog推定値に基づく分析結果

VVGNLIは、2022年のNITI Aayog(National Institution for Transforming India Commission、政府系政策シンクタンク「インド政策委員会」)のギグワーカーに関する報告書の推定値を使用し、直近のデータを加味して、トレンドと季節調整を考慮した指数平滑法を適用して時系列データの予測分析を行った。

NITI Aayogの報告書によると、2020年時点でプラットフォーム企業が11程度確認され、300万人以上の労働者がそれらの企業に関連する仕事で就労していた。ギグワーカー全体の就労者は、2019~20年に680万人だったが、2020年~21年に770万人、2029~30年には2,350万人に増加し(注7)、非農業部門の労働力全体の6.67%を占めると予想される。ちなみに2018年の割合は2.01%に過ぎなかった(注8)。これを踏まえたVVGNLIの推計結果によると、NITI Aayog推計の2030年に2,350万人から17年間で2倍以上と幾何級数的に増加することになり、プラットフォーム企業関連の職業がインド経済の雇用創出において重要な役割を果たすことを示唆している。プラットフォーム企業関連の初期段階の主要な就労分野は、ライドシェアやフードデリバリーなどだったが、最近では、医療、教育、クリエイティブサービス、専門コンサルティングなど、様々な分野に拡大していると報告書は指摘している(注9)

ギグワーカーの技能レベルに関してNITI Aayogは、二極化を加速させる可能性があると分析している(注10)。2020年時点でギグワーカーの47%が中技能労働、31%が低技能労働、22%が高技能労働に従事していると指摘している。中技能労働者が多くを占める傾向は、今後、2030年まで続くと予想されるが、それ以降、中技能労働者の割合は徐々に低下し、低技能労働者と高技能労働者に二極分化する可能性があると分析している。

なお、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が実施した調査によると、インドのギグエコノミーは、非農業部門で最大9,000万人の雇用を創出する可能性があり(注11)、効率性と生産性の向上を通じてGDPを最大で2,500億ドル、率にして1.25%押し上げる可能性がある(注12)(注13)

低収入で長時間労働と問題視

先進国入りを目標として掲げるインドにとっては、ギグエコノミーが重要な産業となるが、ギグワーカーの就労に関しては、労働条件や社会保障上に関する多くの問題が指摘されており、法制度を整備する必要性がある(注14)

VVGNLIの報告書では、ギグエコノミーに関する諸問題として、「社会保障の欠如」「アルゴリズムの非対称性(プラットフォーム企業のみアルゴリズムの認知が可能で、就労者は認知できない)」「安定的な就労」「賃金(報酬)の格差」「労使(発注者と受託者)間の関係性」「メンタルヘルスの懸念」「健康確保措置」「団体交渉」「報酬の不確実性」「デジタルデバイドとキャリア獲得の限界」「就労予定の不確実性と長時間就労」の11項目を挙げている(注15)

プラットフォーム就労者は、労働法上の労働者(workman)ではなく、独立請負業者(independent contractor)として位置づけられるため(注16)、最低賃金、残業代、福利厚生などの恩恵を一切受けることができない。ある調査によると、プラットフォーム労働者の60%は週7日勤務し、47%は副収入を得るために1日12時間以上働いている(注17)

独立請負業者は法規定上、働く時間や方法、場所を自分で決定することができる自営業であるため柔軟性が高く、上司への報告義務もない。それにもかかわらず、実際には大きな経済的障害に直面している。これは特に、ギグワーカーの大多数を占める低技能の仕事に当てはまる。発注者との取引で有利な金銭的条件を引き出す交渉力を欠いていることが多く、同等の仕事の標準的な雇用形態の従来型労働者が適用される法的保護を受けられないために、賃金や労働時間、福利厚生、労働環境が大幅に劣悪になる可能性がある(注18)

しかも、ギグワーカーの82.5%以上はインフォーマル就労者とされている。インドにおいて労働者の90%以上がインフォーマルセクターで就労している現状(注19)を踏まえれば、この割合は驚くべきことではなく、当然のことだと考えられている(注20)

ギグワーカーの収入は最低賃金水準と同等かそれ以上との指摘も

ギグワーカーが低収入であるという一般的な認識に対して、インド有数のプラットフォーム企業、Urban Companyの共同創業者、Abhiraj Singh Bhal CEOは、「多くのギグワーカーは現行の最低賃金水準と同等かそれ以上の収入を得ている」と指摘する(注21)。例えば、一般的な配達員は月額20,000~25,000ルピーの手取り収入を、Urban Companyのような大規模のプラットフォームを利用する専門性の高いサービス業は月額20,000~35,000ルピーの手取り収入をそれぞれ得ている。インドでは、失業が依然として深刻な問題であり、賃金水準が先進国と異なる国において、これらの仕事は生計、尊厳、そして向上心を得るための貴重な源泉となっていると主張する。

その一方で、ギグワーカーはまともな収入を得るのが困難な仕事だという実情も指摘されている。フード・デリバリー・プラットフォームで配達員として働くある学生は、家族の生活を支え、自身の学費を稼ぐために、1日9時間就労し、1日の稼ぎは約1,000ルピーである(注22)。固定労働時間がなく、最低報酬保証も福祉給付も受けられないギグワーカーの典型的な例である。

最低報酬の規制に関する知識がなく、交渉する意識が欠如しているギグワーカーの例も散見される。バンガロールで実施されたプラットフォームを介して配送業務を請け負うギグワーカーへのインタビュー調査では、当初60ルピーであった1回当たりの報酬が40ルピーに減額され、直近では30ルピーになっていたことが確認された(注23)。現行法では、従来の法規制の枠組みの職業分類に該当しないため、労働者は規制されておらず、不安定な状況にある(注24)。ギグワーカーはプラットフォーム側と支払い交渉をする機会が与えられず、生活水準を低下させないために、最低報酬に関する制度を整備する必要がある。

大手企業の職を失った労働者には、家族を養うために食品配達プラットフォームで1日13~14時間働いている者もいる(注25)。ケララ州で配達員として働く労働者は、柔軟な勤務時間が魅力でこの仕事を始めたが、実態はそのうたい文句と異なり、複数の配達アプリを掛け持ちし、1日18~20時間働く配達員もいるという。

ハリヤナ州マネサールにあるアマゾンの倉庫で就労する24歳の労働者は、全長24フィート(約7メートル)の大型トラック6台から積み荷を降ろし終えるまで、トイレ休憩と給水休憩を取らないという誓約を強要された。この報道は、アマゾンの倉庫が以前からトイレなどの基本的な設備さえ整っていないと報じられていたために世間の注目が集まった。この問題は、労働組合がマネサールとその周辺の倉庫5軒を1948年工場法の規制に違反したと国家人権委員会(NHRC)に告発するまでに発展し、ギグワーカーを雇用する企業における、広範にわたる諸問題を浮き彫りにした(注26)

(ウェブサイト最終閲覧:2025年7月10日)

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