「政策の不確実性」により、世界経済成長率を2.9%に下方修正
―OECD経済見通し2025
経済協力開発機構(OECD)は6月3日、「経済見通し2025:不確実性に立ち向かい、成長を取り戻す(Economic Outlook 2025: Tackling Uncertainty, Reviving Growth)」と題する報告書を公表した。それによると、高い関税や政策の不確実性、厳しさを増す財政状況などを背景に、企業や消費者の信頼感が低下しており、2024年に3.3%だった世界の経済成長は、2025年には、前回(3月)予測から0.2ポイント下方修正し、2.9%になると予測している。以下に、報告書の概要を紹介する。
関税政策が世界経済成長に与える影響
報告書は、アメリカの高関税政策が今後も継続されるという前提で、2024年に3.3%だった世界の経済成長率が、2025年および2026年にはともに2.9%へ減速すると予測している(図表1)。
2013-2019平均 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 | |
---|---|---|---|---|---|
経済(GDP)成長率 | |||||
世界 | 3.4 | 3.4 | 3.3 | 2.9 | 2.9 |
G20 | 3.5 | 3.8 | 3.4 | 2.9 | 2.9 |
OECD平均 | 2.3 | 1.8 | 1.8 | 1.4 | 1.5 |
アメリカ | 2.5 | 2.9 | 2.8 | 1.6 | 1.5 |
ユーロ圏 | 1.9 | 0.5 | 0.8 | 1.0 | 1.2 |
日本 | 0.8 | 1.4 | 0.2 | 0.7 | 0.4 |
非OECD諸国 | 4.4 | 4.7 | 4.5 | 4.1 | 3.9 |
中国 | 6.8 | 5.4 | 5.0 | 4.7 | 4.3 |
インド | 6.8 | 9.2 | 6.2 | 6.3 | 6.4 |
ブラジル | -0.4 | 3.2 | 3.4 | 2.1 | 1.6 |
OECD失業率 | 6.5 | 4.8 | 4.9 | 5.0 | 4.9 |
インフレ率 | |||||
G20 | 3.0 | 6.3 | 6.2 | 3.6 | 3.2 |
OECD平均 | 1.7 | 7.1 | 5.1 | 4.1 | 3.2 |
アメリカ | 1.3 | 3.8 | 2.5 | 3.2 | 2.8 |
ユーロ圏 | 0.9 | 5.4 | 2.4 | 2.2 | 2.0 |
日本 | 0.9 | 3.3 | 2.7 | 2.8 | 2.0 |
注:2025年、2026年は予測値。
出所:OECD(2025)より作成。
図表2:2025、2026年の経済成長予測と前回(3月)予測との差異 (単位:%)
出所:OECD(2025)より作成。
国別の経済成長予測を見ると、アメリカでは、関税によって所得の増加が抑制され、2025年の成長率は、前回の3月予測より0.6ポイント引き下げて、1.6%としている。2026年にはさらに減速し、1.5%(同0.1ポイント低下)となる見込みである。
一方、ユーロ圏では緩やかな回復傾向が見られ、2025年は1.0%、2026年は1.2%と、いずれも前回予測と同水準に据え置いた。
日本は後述のように、堅調な賃金上昇に支えられた個人消費の伸びが見られる一方で、アメリカの関税政策による不確実性の高まりによって外需が抑制され、成長率は2025年に0.7%(同0.4ポイント低下)となるが、2026年には0.4%(同0.2ポイント上昇)と予測を上方修正している。
中国については、2025年初頭に力強い成長が見られたが、対米報復関税の影響により生産の伸びが鈍化する可能性を指摘しており、2025年の成長率は4.7%(同0.1ポイント低下)、2026年は4.3%(同0.1ポイント低下)になると予測している(図表2)。
図表3は、①2024年12月、②2025年3月、③今回(2025年5月)時点の、3回の世界の経済成長率予測を比較可能な形で示したものである。ここ数か月の間に、アメリカの高関税政策やそれに対応する他国の政策の不確実性が著しく高まったことが、成長率予測の大幅な下方修正につながっていることが読み取れる。
OECDは、アメリカが今後さらに関税を引き上げた場合、価格の上昇によって消費者の購買力が低下し、家計消費や企業の投資意欲を抑制するとともに、各国の報復措置による応酬が「さらなる下押し圧力となる」として、成長率がさらに低下する可能性を示唆している。
図表3:情勢の変化による成長予測の変化
出所:OECD(2025)より作成。
25年の日本の経済成長率を1.1%から0.7%に下方修正
OECDは日本経済について、アメリカとの結びつきが深く、自動車への追加関税などが大きな逆風となっているとして、2025年の成長率予測を前回の1.1%から0.7%へと0.4ポイント引き下げた。
一方で、力強い賃金上昇(図表4)が家計の可処分所得を押し上げることで個人消費が増加し、内需が成長の牽引役となっていると分析している。
図表4:名目賃金の伸び(2018年~2025年)
出所:OECD(2025)より作成。
また、不確実性が高まる中でも、企業収益の拡大や、特に環境・デジタル分野への投資に対する政府の補助金が企業投資を今後下支えすると見て、2026年の成長率は前回予測から0.2ポイント引き上げ、0.4%と予測している。
その上で、金利負担の増加や高齢化に伴う医療・介護関連支出の拡大が、中期的な財政の持続可能性にとってリスク要因となるとして、日本政府に対して、歳入・歳出政策を伴う中期的な財政再建計画を提示した上で、それを遵守する必要性を強調している。
さらに、今後、人口減少が進展する中で、研究開発を促進する税制優遇や大学と中小企業の連携強化、イノベーションの枠組み改善、スタートアップ企業へのインセンティブ強化などによって、生産性の向上とデジタル投資を後押しして労働力の流動性を高めることや、高齢者・女性・外国人労働者の就労促進に向けた改革の継続も重要だと結論づけている。
参考資料
- OECD(2025)「Economic Outlook2025
」
- OECDウェブサイト
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