「性別平等工作法」改正1年、セクハラ申立ての利用は低調
 ―法令遵守の徹底求める

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  • 国別労働トピック:2025年3月

台湾では、職場でのセクハラ被害者を保護するため、「性別(ジェンダー)平等工作法(Gender Equality in Employment Act)」の改正が進められてきた。2024年3月8日、雇用主に対するセクハラ防止対策義務の強化といった内容を盛り込んだ「性別平等工作法」が施行された。労働部による職場のセクハラ実態調査の結果によると、2023年8月から2024年7月の1年間において、職場でセクハラを受けたが、苦情を申立てなかった労働者の割合が2.4%に達した。前年の1.9%から増加し、申立て制度の利用は低調となっている。労働部は申立てをしなかった理由を再調査し、セクハラ防止などの宣伝活動の強化や、雇用主に対する法令遵守の徹底を求めていく方針を示している。

法改正の経緯

台湾では、2002年3月8日に「両性工作平等法」が施行された。2008年1月16日には「性別(ジェンダー)工作平等法」に名称を変更し、職場での性による差別に加え、性的指向に基づく差別も禁止するようになった。また、2014年には、派遣労働者や実習生、研修生も保護の対象に含むよう改正した。さらに近年、社会的なセクハラ事件が頻発していることを受け、2023年には「性別平等工作法」(注1)と名称を変更し、以下の改正を行った。

○「権力型セクハラ」の保護を追加
採用や求職、職務において、指示や監督する地位にある者が権力や機会を利用して行うセクハラ、すなわち「権力型セクハラ」を行った場合、権力を持つ者に対する「調査措置」を追加した。これにより、セクハラの申立て人の相手方が権力を持つ地位にあり、事態が深刻な場合、雇用主はセクハラの調査期間中に相手方(被申立て人)の職務を一時停止または変更することが可能となった。セクハラと認定されなかった場合には、職務停止中の給与は補償される。セクハラが認定され、事態が深刻であると判断された場合、雇用主は予告なしに相手方(被申立て人)の労働契約を解除することができる。

○「勤務時間外」のセクハラ行為の認定
従来、セクハラ行為の認定は「勤務時間帯」にのみ適用していたが、改正により適用範囲を拡大した。勤務時間外であっても、以下の状況で適用される。①同じ勤務先の事業者の人物から継続的にセクハラを受けた場合、②勤務先の事業者と共同事業または取引関係のある事業者の人物から継続的にセクハラを受けた場合、③最高責任者または雇用主からセクハラを受けた場合。

○雇用主のセクハラ防止意識と責任強化
改正前は、従業員数30名以上の事業者だけに、セクハラ防止対策、苦情の申立て方法、懲戒処分の規定の設定を義務付けていた。改正後は従業員が10人以上29人以下の事業者に対して、セクハラの苦情申立てのための相談窓口を設置し、職場で公開することを義務化した。

雇用主は被害者からの申立てに基づき調査を行い、セクハラに気づいた場合、再発防止策を実施し、懲戒を行う。申立てがない場合でも自主的に調査を行い、被害を発見した場合、被害者への支援を実施する。調査は公平かつ中立に実施し、その結果を地方行政機関に報告し、セクハラ防止のための教育や対応策を整備する。

○地方行政機関への直接申立て
セクハラの申立てが、雇用主や最高責任者によって適切に処理されない場合、被害者が地方行政機関(管轄当局)に直接申立てできるようになった。地方行政機関は、セクハラの申立てに対する調査を行う際、専門家や関連団体の協力を求め、必要に応じて警察機関の協力を要請できる。

また、セクハラを受けた者が公務員や教育職員、軍職員であり、セクハラの行為者が最高責任者であった場合、上級機関や主管機関に対して申立てを行える。

○セクハラ申立ての時効及び罰金
地方行政機関への申立ての時効は、加害者の権力の有無によって異なる。また、未成年者の被害者には、特例を設けている。

類型 申立ての時効
加害者が権力のある立場にない場合 セクハラ行為を知ってから2年
セクハラ行為の終了から5年
加害者が権力のある立場にある場合 セクハラ行為を知ってから2年
セクハラ行為の終了から7年
加害者が最高責任者の場合 (申立て人の)離職後1年
セクハラ行為の終了から10年
被害者が未成年者の場合 成年後3年(満22歳まで)

また、法令義務違反に対する以下の罰金を定めている。

違反内容 罰金額
  • 雇用主がセクハラ防止義務を怠った場合
  • 地方行政機関の指示に従わない場合
2万〜100万台湾ドル
セクハラ苦情申立ルートを設置していない場合(従業員数10〜29人) 1万〜10万台湾ドル
セクハラ防止規定を設けていない場合(従業員30人以上) 2万〜30万台湾ドル
  • 最高責任者または雇用主に対するセクハラ行為の申立て調査期間中に、職務や勤務形態の調整を拒否した場合
  • 最高責任者または雇用主が、セクハラ申立て調査に協力しなかった場合
1万~5万台湾ドル
最高責任者または雇用主が、地方行政機関にセクハラの認定を受けた場合 1万~100万台湾ドル

セクハラ被害の状況

労働部は2024年8月から9月にかけて、職場でセクハラの実態を調査し、その結果を「2024年雇用管理及び職場における雇用平等の状況」として発表した。これによると、過去一年間(2023年8月~2024年7月)に女性労働者が職場でセクハラを受けた割合は3.6%であり、セクハラの加害者としては「同僚」および「顧客」が、それぞれ1.7%と1.5%を占めた。遭遇したセクハラの形態では、非身体接触(言葉、覗き見、盗撮、ストーキング、メッセージ送信、露出など)が1.9%で、このほか性差別的言動が0.8%、身体接触が0.7%、とそれぞれ報告された。

セクハラの苦情申立てを行った割合は1.2%で、申立て後は、多くが改善を感じている。一方、セクハラを受けたが、苦情の申立を行わなかった割合が2.4%にのぼり、前年の1.9%から増加。制度の利用が低調であることがうかがえた。申立てを行わなかった理由として最も多かったのは「冗談だと捉え無視した」との回答であり、1.0%を占めた。その他の理由としては、「仕事を失うことが心配」0.6%、「申立てルートが不明」0.4%、「二次被害が心配」および「噂を心配」がそれぞれ0.2%とされており、申立ての利用に向けた課題が浮かび上がった。

調査結果を踏まえ、労働部は申立てをしなかった理由を再調査し、セクハラ防止などの宣伝活動を強化すると発表した。また、訪問調査や専門的な労働検査を通じて、雇用主に対して法令の遵守を求めていく方針を示した。

参考資料

  • 台湾労働部、全国法規資料庫、立法院法律システム、行政院、経済日報

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