高年齢者の労働力率が50年ぶりの高水準に

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年10月

INSEE(国立統計経済研究所)はこのほど、2023年の高年齢者就労状況等に関する統計調査の結果を発表した。それによると、60~64歳の労働力率が2023年に41.6%に達した。60~64歳の高年齢者の労働力率は1970年代から2000年にかけて、早期退職策の推進と年金支給開始年齢の引き下げ等によって大幅に下落した。だが、2000年代以降に推進された年金改革などの影響もあり、2023年までに1970年代の高い水準に戻った。マクロン大統領は2023年以降、労働市場における完全雇用達成を目標に掲げ積極的な雇用政策を打ち出し、高年齢者の就業率の引き上げについて目標値を設定している。今回の発表で高年齢者の労働力率とともに、就業率も上昇していることがわかったが、大統領の目標値には遠く及ばず、EU諸国の平均と比較しても下回っている。

2000代初頭から高年齢者の労働力率、就業率が上昇

高年齢者の労働力率、就業率ともに上昇傾向にある。INSEEの発表によると、60~64歳の労働力率が2023年に41.6%に達した(注1)。前年から2.7ポイントの上昇で、2000年代初頭と比べると大きく上昇しており、2001年の11.0%から31ポイントの上昇となった。1975年の41.4%から2001年には11.0%まで落ち込んだが、その後25年かけてもとに戻ったことになる(図表1参照)。また、1975年には40.9%だった60~64歳の就業率は、2001年には10.8%まで下落し、その後、上昇に転じ、2023年には38.9%まで高まった。

図表1:労働力率の推移(60~64歳) (単位:%)
画像:図表1

出所:INSEE発表資料より作成。

早期退職策と年金制度改革等による労働力率の低下

2000年までの労働力率低下の理由は、1970年代から始まった全国協約に基づく早期退職の推進と、1982年の法律に基づく法定定年退職年齢の引き下げによるところが大きい。

1960年代以降、特に1970年代から政府は消極的雇用政策の枠組みの中で、高年齢労働者の就業からの撤退を奨励するさまざまな早期退職制度を導入した(注2)。それは、配置換えや再就職斡旋が難しい高年齢労働者が退職することによって若年者の雇用を創出し、失業率を改善することが主な目的だった。また、1983年には法定定年退職(年金支給開始)年齢を65歳から60歳へと引き下げる年金改革が行われた(注3)

近年の労働力率の上昇は、2023年までの一連の年金改革にあるとINSEEの雇用・勤労所得部門長のパッセロン氏は指摘している(注4)。満額年金の受給要件となる被保険者拠出期間が、1990年代以降の年金財政逼迫の問題化に伴って1993年に37.5年(150四半期)から40年(160四半期)への延長が決定した後、2003年には41年(164四半期)に延ばされた。それに加えて、2010年には法定年金支給開始年齢が60歳~62歳に引き上げられ、拠出期間の41.5年(166四半期)への延長が決定した。2023年の改革では拠出期間を(2035年までに)43年間に延長し、支給開始年齢を64歳に引き上げることが決まった。

50歳代の労働力率も2000年以降は上昇

50歳代に関しても労働力率が上がっている。55歳~59歳の世代についても、1975年から2000年にかけて労働力率が下がり、その後上昇した(図表2参照)。1975年に61.8%だった労働力率は、1987年には48.2%まで下がったが、1998年の48.9%以降は上がり続け、2023年には77.0%に達している。50歳~54歳の世代は1970年代から80年代までの期間に70%台から60%台に若干下落したが、その後、83%を超える水準に上昇した。

図表2:労働力率の推移(50歳代と全体) (単位:%)
画像:図表2

出所:図表1と同じ。

完全雇用政策における高年齢者の位置づけ

マクロン大統領は、任期終了の2027年までの完全雇用の達成を目標に掲げ、失業率を5%まで下げることを目指している(目標が発表された2023年6月時点の失業率は7.1%)(注5)。完全雇用達成のために、60~64歳の就業率を2030年までに65%とする目標値を設定し、2023年4月には「職場生活のための新たな協定« un nouveau pacte de la vie au travail »」を労使で締結するよう呼びかけた(注6)。高年齢者の雇用創出措置のほか、職種転換等のための職業再トレーニング(reconversions professionnelles)や企業横断的な労働時間口座(compte épargne-temps universel)について労使で協議し合意を促すものだ。しかし、労組側は年金改革による法定退職年齢の引き上げに反対しており、高年齢者の雇用を促進することが年金支払い年齢の引き上げを後押しするとの懸念があるため、労使協議は滞っている(注7)。しかも、今回発表された高年齢者の就業率の統計数値は年々上昇しているものの、既述のとおり2023年の数値は38.9%にとどまっており、マクロン大統領が目標に掲げる「2030年までに65%」にはほど遠い。年々上昇しているものの、諸外国と比較しても低い水準にあり、EU平均よりも12ポイント低い(注8)

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年10月1日)

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