「雇用連動型インセンティブ・スキーム」を導入
 ―モディ政権3期目の雇用創出と技能強化の政策

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2024年9月

6月総選挙の結果発足した3期目のモディ政権はこのほど、雇用機会を創出する企業に対する給与助成と社会保障負担の軽減など5つのスキームからなる政策パッケージの実施について発表した(注1)。この政策パッケージは「雇用連動型インセンティブ(Employment Linked Incentive)」のスキーム導入を柱とし、5年間で4,100万人の若年者雇用の創出と技能習得促進、その他の研修機会などを提供する。中央政府による支出は総額で2兆ルピーに上る。なお、今年度予算では、教育、雇用、技能習得のために総額1兆4,800億ルピーの規模となる。

スキームA:初回雇用の若年労働者支援

雇用統計によるとインドでは、非正規労働者(casual labour)が全労働者の21.8%を占め、正規賃金・給与労働者(regular wage/salaried workers)は20.9%に過ぎない(注2)。その他は自営業者や家庭内企業の無給労働者としての就労者が多くを占める。今回発表された雇用創出スキームは、従業員積立基金(Employee Provident Fund:EPF)(注3)への登録者数を増やし、非正規労働者の正規化を促進することが目的の一つである。

まず、企業が正規雇用で採用した従業員の初回の給与を助成する措置がスキームAである。EPFに初めて登録された労働者を対象とする制度であり、月給10万ルピーを上限とする。助成金額は15,000ルピーを上限として、1カ月分の給与を3回に分けて従業員に直接給付する(注4)。給付は政府から直接給付金振替 (Direct Benefit Transfer:DBT) を通じて従業員に支払われるが、従業員は2回目の分割払いを請求する前に、必須のオンライン「金融リテラシー・コース」を受講する必要がある。この制度の恩恵を受ける若年者は2年間で2,100万人と試算している。

この助成金は、従業員や雇用主に対して、初めて就労する若年労働者が十分に生産的な職務遂行能力を習得するまでの学習期間を支援するために不可欠なものとして位置づけている。ただし、採用から12カ月以内に雇用契約が終了した場合には、雇用主は助成金を返納しなければならない。この場合、雇用主にとって追加費用となるのか、あるいは雇用主が従業員から助成金を回収して払い戻すことができるのかといった問題が指摘されている(注5)

スキームB:製造業における雇用創出

スキームAに加えて、製造業を対象に、非正規労働者を正規従業員として採用した企業を支援する措置がスキームBである。対象となる雇用主は、これまでEPFに加入していない労働者を、①50人直接正規雇用する、あるいは、②前年度の従業員数の25%に相当する人数を新規に正規雇用する、この二つの基準数のいずれかに該当する雇用主である(注6)。また、過去3年間のEPF拠出実績が助成の条件となる(注7)。助成を受ける雇用主は、これらの条件を常に維持する必要があり、年度途中で下回った場合、給付は停止される。

対象となる従業員は、月額10万ルピー以下の給与を受け取る労働者であり、これまでEPFに登録されておらず、採用に伴って初めてEPFに登録され、採用後雇用主がEPFに保険料を拠出する労働者である。

助成内容は雇用開始から4年間、労使双方に対して、EPF拠出金を助成する。1年目と2年目には労使それぞれ給与の12%ずつ、合計で給与の24%、3年目は16%(労使それぞれ8%)、4年目は8%(同4%)の助成を受けることができる(注8)。ただし、助成対象の上限は月額25,000ルピーである(注9)

このスキームによって300万人の若年労働者の雇用創出が期待されており、その雇用主も恩恵を受けることができる(注10)。ただ、この助成も採用から12カ月以内に雇用契約が終了した場合には、雇用主は助成金を返納しなければならず、前述のように、それが雇用主にとって追加費用となるのか、従業員分として給付を受けた分も雇用主が払い戻す必要があるのか、従業員分も雇用主が返納しなければならない場合、従業員から回収できるかどうかといった問題が指摘されている(注11)

スキームC:製造業以外の雇用主を含めた支援

スキームBの適用を受けた企業以外、つまり製造業以外の全業種を対象として雇用創出した企業にEPF拠出金の助成を2年間行うのがスキームCである(注12)。適用条件は従業員規模で異なり、従業員数50名未満の企業の場合2名以上、従業員数50名以上の企業の場合は5名以上の新規採用をした企業が対象となる(注13)。月給10万ルピー以下の従業員を新たに採用した場合、1人につきEPF拠出金月額3,000ルピーを払い戻すというもので、既にEPFに登録されている労働者の採用にも適用される。スキームBの助成を受けた企業は対象外だが、スキームAの助成を受けた企業はスキームCも利用することができる。このスキームによって、500万人の雇用創出が期待される(注14)

スキームA、B、Cは、既にモディ政権が実施している「生産連動型インセンティブ(Production Linked Incentives:PLI)」に対する批判に応える意味合いがある。PLI制度は、売上高の引き上げ幅に対して給付を拡大するという趣旨だったが、必ずしも雇用創出にはつながらなかったとの指摘があるからである(注15)。これに対して今回定めたスキームは雇用連動型のインセンティブを志向したものといえる。

職業訓練プログラム改革とインターンシップ機会の提供

この他、予算案では、技能育成プログラムと産業訓練機関(Industrial Training Institutes:ITI)のアップグレードに取り組むスキームと、若年者に大手企業でのインターンシップの機会を提供するスキームが発表された。

4つ目のスキームは、5年間で1,000のITIをハブ・アンド・スポーク方式で改革するというものである。200のハブと800のスポークの各拠点における既存の職業訓練コースを再設計し、新規プログラムを開始することにより職業訓練機関の能力を強化する(注16)。財務省によると、ハブ・アンド・スポーク方式は、カルナタカ州政府が3大財閥の一つであるタタと協力してITIの再活性化に取り組んでいる成功例を参考に立案した計画である。この措置により200万人の学生が恩恵を受けることが期待される。

また、5つ目のスキームは、21歳から24歳の若年者にトップ企業500社でインターンシップの機会を提供する措置である。12カ月間、実際のビジネス環境、多様な職業、雇用機会に触れることになり、月額5,000ルピーのインターンシップ手当と6,000ルピーの一時金が支給される(注17)。中央政府は手当の90%と一時金6,000ルピーを負担する、一方で企業は手当の10%を負担する(注18)。この措置により、5年間で1,000万人の若年者が恩恵を受けると見込まれている。ただ、この目標値の設定には疑問視する声もあり、政府からの要請という形の圧力を懸念する企業もある。

(ウェブサイト最終閲覧:2024年9月5日)

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