カードル(経営管理職)はブルーカラーワーカーよりも長生き
 ―INSEE職種別平均余命調査

カテゴリー:勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2024年9月

国立統計経済研究所(INSEE)は7月16日、職種別、学歴別にみた平均余命に差があり、カードル(経営管理職)とブルーカラーワーカーの差は、男性で約5年、女性で約3年などとするレポートを発表した。経営管理職とブルーカラーワーカーの差は1990年代以降、男性では縮小、女性では拡大する傾向がみられる。また、ブルーカラーワーカーが35歳から65歳までに死亡する可能性は、男性では経営管理職の2.5倍、女性では2倍に及ぶ。過去50年間で管理職は増加し、ブルーカラーワーカーは減少するなど雇用構造が根本的に変化しているにもかかわらず、職種間の平均余命の差は依然として顕著なままであることを裏づける結果となっている。

男性経営管理職はブルーカラーワーカーよりも5.3年長生き

INSEEが公表した調査結果によると、カードル(経営管理職)はブルーカラーワーカーよりも男性で5.3年、女性で3.4年長生きする(注1)

2020-22年の死亡率条件に基づいて、35歳の時点の平均余命を推計したところ、男性の経営管理職は48.9年(35歳を加算した場合の平均寿命は83.9歳)に対してブルーカラーワーカーは43.6年(同、78.6歳)であり、その差は5.3年である(図表1参照)。女性は経営管理職が53.0年(同、88.0歳)に対してブルーカラーワーカーは49.6年(同、84.6歳)で、男性よりもその差が小さく3.4年である。

職種(職業)別に細かくみると、男性では、中間管理職は47.4年(同、82.4歳)、農業従事者は47.2年(同、82.2歳)、職人・商業従事者は46.4年(同、81.4歳)、ホワイトカラーワーカーは45.1年(同、80.1歳)、ブルーカラーワーカーが43.6年(同、78.6歳)、非就業者は34年(同、69.0歳)である(図表1参照)。

図表1:職種別の平均寿命(年)
画像:図表1

出所:INSEE(Insee Première, No 2005)参照して作成。

注:公表データは35歳時点の平均余命の数値であるが、この図では平均余命に35年を加算して平均寿命として示している(以下の図表とも同じ)。

また、35歳の男性が65歳までに死亡するリスクをブルーカラーワーカーと経営管理職で比較した場合、前者(15%)は後者(6%)より2.5倍高い。女性では前者(8%)は後者(4%)の2倍に上る。

さらに、65歳から75歳の間に死亡するリスクを、男女合計でみると、ブルーカラーワーカーは経営管理職の1.7倍である。男性の場合、ブルーカラーワーカーで20%、経営管理職で12%、女性の場合、ブルーカラーワーカーは10%、経営管理職は6%である。

高学歴ほど長生き

学歴別にみた場合、高学歴ほど長生きする。大学院修了レベルの男性は職業資格の無い男性よりも8.0年長生きする(図表2参照)。女性ではこの差は5.4年である。より細かくみると、大学院修了レベルよりも大学卒業レベルの男性は2年短く、高卒レベルの有資格者(職業適格証:CAP、職業教育上級免状:BEP保有者)は3.6年短い。

図表2:学歴別の平均寿命(年)
画像:図表2

出所:図表1と同じ。

1990年代との比較(職種別)

経営管理職とブルーカラーワーカーの平均余命の差を1990年代と2020年代で比較した場合、男性は差が縮まっているが女性は広がっている(図表3参照)。

図表3:経営管理職とブルーカラーワーカーの平均余命の差(年)
画像:図表3

出所:図表1と同じ。

この変化について、平均余命(平均寿命)の差の変移を1976年まで遡って示したのが図表4および図表5である。

男性は、1976年から1999年にかけて広がり、その後縮まっている(図表4)のに対して、女性は1999年にかけて縮まり、その後広がる傾向にある(図表5)。

図表4:経営管理職とブルーカラーワーカーの平均寿命とその差の推移(男性)(歳・年)
画像:図表4

出所:図表1と同じ。

図表5:経営管理職とブルーカラーワーカーの平均寿命とその差の推移(女性)(歳・年)
画像:図表5

出所:図表1と同じ。

1990年代との比較(学歴別)

学歴別に大学院修了レベルと職業資格の無い者の平均余命の差を1990年代と2020年代の比較でみると、男性はほとんど変化がないが、女性は差が広がっている(図表6参照)。

図表6:大学院修了レベルと無資格者の平均余命の差(年)
画像:図表6

出所:図表1と同じ。

この変化の推移を示したのが図表7および図表8である。

女性は、1990年代初頭から2013年にかけて差が縮まったが、その後広がった(図表8参照)。一方で、男性も女性と同じように、90年代初頭から2013年にかけて差が縮まり、その後広がっているが、その広がり方が女性ほど大きくはない(図表7参照)。

図表7:大学院修了レベルと無資格者の平均寿命とその差の推移(男性)(歳・年)
画像:図表7

出所:図表1と同じ。

図表8:大学院修了レベルと無資格者の平均寿命とその差の推移(女性)(歳・年)
画像:図表8

出所:図表1と同じ。

職業的リスクやライフスタイルが影響

INSEEは経営管理職がブルーカラーワーカーよりも長生きする要因について、以下のように分析している。経営管理職はブルーカラーワーカーよりも職業的リスクに晒されることが少ない、つまり、ブルーカラーワーカーの方が労働関連の事故や病気、過酷な労働条件などにさらされることが多いためであるとする。また、ライフスタイルの相違を挙げている。ブルーカラーワーカーは経営管理職に比べて、健康リスクの高い行動をしたり、医療機関を利用しない傾向があり、肥満になりやすいという点を指摘する。さらに、職種や学歴による平均余命の差は、健康状態が原因となっているというよりも、結果として、不健康な行動をとる者が勉学に励むことや仕事を継続することができなくなったり、昇進機会を得られなくなったり、キャリアを形成する中で高い職業資格を必要とする職に就くことが難しくなるために生じている、という見方もできるとしている。

1990年代以降、平均余命の差が男性では縮小傾向にあり、女性では拡大傾向にあることについて、INSEEの家族状況および動態セクションの責任者であるピエール・ポラ氏は、女性の拡大傾向は肺がんの死亡率の推移によるものと分析している。今回の分析対象とした期間に、肺がん死亡率は男性で低下しており、喫煙量が多い男性ブルーカラーワーカーの死亡率を引き下げる効果があった可能性がある。逆に、女性の肺がん死亡率は上昇している。女性に関しても、ブルーカラーワーカーの喫煙量は、経営管理職よりも多いため、女性のブルーカラーワーカーの死亡率を引き上げた可能性がある(注2)

1970年代末以降、雇用構造は根本的に変化しており、管理職は増加し、ブルーカラーワーカーは減少するなど労働市場における位置づけが大きく変化している。時系列で比較したそれぞれの職種別分類による労働者の労働条件が、必ずしも同じというわけではない。そのため、厳密には同じ労働条件の労働者で職種別の平均余命の変化を見ているわけではないが、各時期の経営管理職とブルーカラーワーカーの平均余命を比較した場合、依然として差があることが今回の調査で確認できたと、レポートは総括している。

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年8月30日)

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