第二次団塊世代の定年が経済成長に与える影響を分析
 ―韓国銀行レポート

カテゴリー:労働条件・就業環境高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年7月

韓国銀行は7月1日、第二次ベビーブーマー(団塊)世代の定年による労働力人口の減少が経済成長に与える影響を分析した結果を発表した。現在の就業率で推移すれば、経済成長率は年間約0.4ポイント低下すると推計。ただしこの世代は勤労継続意欲や教育水準が高く、政策支援により経済成長の低下は抑えられる、と分析している。

今後11年間で第二次団塊世代が法定定年に

韓国で最大の団塊世代である第二次ベビーブーマー世代(1964~74年生まれ:以下「第二次世代」)は954万人にのぼり、総人口の18.6%を占める。この世代が、2024年から11年間にわたり、法定定年である60歳を迎える(図1)。

第一次ベビーブーマー世代(1955~63年生まれ、総計705万人、13.7%)は、2023年までの9年間に順次定年を迎えた。この間、労働力人口は減少し、2015~23年の年間経済成長率は0.33ポイント低下したと推計されている。レポートはこれを踏まえ、第二次世代の大量定年退職が経済成長に及ぼす影響を多方面から分析した(注1)

図1:韓国の年齢別人口 (単位:万人)
画像:図1
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出所:韓国銀行(2024)

労働継続意欲やITリテラシー、所得の高さ

レポートはまず、第二次世代の経済・社会・文化的な特徴をまとめた。この世代は韓国の経済成長が全盛期に育ち、第一次世代に比べ教育水準や労働意欲が高い。高速インターネットやスマートフォンが普及したこともあり、IT活用率が高く、第一次世代に比べ専門職に就く割合も大幅に高くなっている。所得や資産の状態も第一次世代に比べ良好で、社会・文化活動に対する需要も大きいと分析する。

また、55~79歳を対象とした調査によると、「働き続けたい」と回答した人の割合は、2012年の59.2%から2023  年には68.5%に上昇し、平均就労希望年齢も71.7歳から73.0歳に伸びている。こうした労働意欲を背景に、60歳以上の労働参加率は2010年以降上昇を続けており、特に65歳以上の労働参加率は、他の主要国に比べて高い水準にある(図2)。こうしたことから、定年後の労働継続率は高いと予想している。

図2:主要各国の高年齢者の労働参加率(2023年)
画像:図2
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出所:韓国銀行(2024)

退職前の実質所得と実質純資産についても、第二次世代が第一次世代を大幅に上回っており、定年後の購買力も相対的に良好である。文化・社会活動への需要も高く、消費を活性化させることが出来れば経済成長にもプラスに作用すると指摘する。

高齢者雇用促進の取り組みは経済成長率の低下幅を抑制も

第二次世代の定年が経済成長に及ぼす影響は、以下の3つのシナリオを設定して分析した(図3)。

①現在の60代の就業率が維持されるシナリオ

シナリオ①では、60代の男女の就業率が、今後11年間、2023年の水準(男性68.8%、女性48.3%)で推移する前提条件で分析した。第二次世代の退職により、2024~34年の年間経済成長率は0.38ポイント低下すると試算した。

②政策支援により、現在の就業率の増加が続くシナリオ

シナリオ②は、第二次世代の就業継続意欲が効果的な政策により支えられ、60代の男女の就業率が過去10年間の傾向に沿って上昇する(2034年に男性74.7%、女性57.5%)という前提をとった。この場合、経済成長率の低下幅はシナリオ①に比べ0.14ポイント縮小し、0.24ポイントになると試算する。

③高齢者雇用促進の積極的な取り組みで、60代の就業率が大幅に上昇するシナリオ

シナリオ③では、日本の改正高年齢者雇用安定法のような強力な政策対応により、就業率が大きく上昇する(2034年に男性78.9%、女性61.7%)という前提で分析したところ、経済成長率の低下幅は同0.22ポイント縮小し、0.16ポイントになる。

図3:団塊世代の大量退職による年間成長率の低下幅
画像:図3
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出所:韓国銀行(2024)

このように、政策支援と強力な制度改革によって、仕事を継続したいと考えている労働者が働き続けることができれば、将来の経済成長率の低下は大きく抑えられる可能性がある、と分析する。

高齢者継続雇用や定年延長などの社会的議論を

レポートは、急速な高齢化により経済成長率の低下が見込まれる状況において、第二次世代の労働力を活用して成長力を高めるための政策支援が不可欠だと強調。特に、生涯にわたって蓄積された人的資本を長期的に活用できる条件づくりが重要だと指摘する。同時に、第二次世代の良好な資産や所得状態、社会・文化活動に対する需要を活かし、消費を活性化させることも必要になる。

第二次世代が定年を迎えはじめる今年(2024年)は、「継続雇用制度や定年延長制度など、さまざまな選択肢について社会的な議論が本格化するだろう」としている。

参考資料

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