医療大乱、研修医の8割が職場離脱

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  • 国別労働トピック:2024年3月

政府が医師不足への対策として打ち出した大学医学部の定員増員計画に反対し、8割以上の研修医が一斉に辞表を提出し勤務先を離れる集団行動を行っている。医師団体や研修医たちは医学部定員増員よりも必須医療分野での人材確保や労働環境の改善を優先すべきなどと主張している。
以下で主な内容を説明する。

大学医学部の入学定員を2025年から2000人増員

研修医らは大学医学部の増員計画に反対して集団行動を実施している。韓国政府は2月、「必須医療政策パッケージ」を発表した。この政策パッケージは韓国国内における医師不足への対策として医療人材の拡充や地域医療の強化などを推進するもので、中には2025年度から大学医学部の入学定員を2,000人(+65%)増員する計画が含まれていた。

政府は医学部の増員が必要な理由として、諸外国と比較して人口1000人あたりの人数が少ないことや(図表1)、急速な高齢化、医師の労働時間の減少(注1)などを挙げており、2035年までに少なくとも1万人の医師の増員が必要とされる。

図表1:人口1000人あたりの医師数(2021年) (単位:人)
画像:図表1

注:韓国は韓医師を除外した数値。韓医を含む場合は2.6人(2021年)。韓医師とは韓国伝統医学である韓医学の医療、保険措置を実施する医師を指す。

出所:大韓民国政策ブリーフィング。

大学医学部の定員は2006年以来3,058人のまま凍結されており、政府は2020年にも増員計画を打ち出したが、研修医の今回と同様の集団行動によって取り消された(注2)

研修医の80%が出勤せず

研修医(専攻医とよばれる、インターンとレジデントに当たる医師(注3))は政府案に反対し、一斉に辞表を提出し職場を離れるという集団行動をとっている。ソウルのビッグ5とよばれる大規模病院5カ所(注4)では、2月19日に所属する研修医全員が辞表を提出し、翌20日から出勤しない日が続いている。

政府は「医師集団行動中央災害安全対策本部」を設置し事態の対応にあたっている(本部長:国務総理、次長:保健福祉部長官)。その後、2月23日には政府は保険医療災害警報段階を「警戒」から4段階中最も危険度が高い「深刻」に引き上げた。

職場を離脱する研修医は次第に増加し、2月23日時点で全国の主要な研修病院100カ所で、10,034人(研修医の80.5%)が辞表を提出し、9,006人(72.3%)が職場を離脱していた。辞表はすべて受理されていない。

政府は職場を去った医師に対しては「業務開始命令」を下している。業務開始命令は、医療従事者が正当な理由なく診療を中断するなど患者の診療に大きく支障をもたらすおそれがある場合に発令される。これに従わず業務に復帰しない場合には3カ月~1年の医師免許停止の行政処分が下され、さらに3年以下の懲役や3,000万ウォン以下の罰金などの刑事罰に処されるおそれがある(注5)。政府は27日には100の病院の9,267人に対して業務開始命令を出したが、そのうち5,976人は業務に復帰しなかった。

医師免許停止処分も復帰者は少数

政府は2月26日、29日までに業務に復帰する場合には一切の責任を問わないが、それ以降も勤務先に戻らない場合には業務開始命令違反として3カ月間の医師免許の停止など法的措置をとると発表した(注6)

しかし2月29日までに復帰した研修医は565人のみで、29日11時時点で勤務地を離脱している専攻医は8,945人(72%)となっている(図表2)。

図表2:辞表提出者数及び職場離脱者数
画像:図表2

注:全国の研修医研修先221病院のうち、主要100カ所が対象。2/22は提出書類に不備があった6カ所を除く。2/26、27は提出書類に不備があった1カ所を除く。

出所:大韓民国政策ブリーフィングをもとに作成

また、3月3日、医師らはソウルで決起集会を行った。韓国最大の医師団体である主催の大韓医師協会によれば、この「大学医学部定員増員および必須医療パッケージ防止のための全国医師総決起大会」に全国から集まって参加した人の数は4万人にのぼった。

研修医が業務開始命令に違反したことを理由に刑事処罰を受けた前例はない。しかし政府は前回研修医が集団行動を行った2020年とは異なり、今回は救済措置をとらないことを強調している。

保健福祉部は3月4日、業務に復帰していない医師に対して少なくとも3カ月間の免許停止処分の手続きを段階的に開始し、処分の取消はしないと説明した。3月4日20時時点では、インターンを除く研修医(レジデント1~4年目、9,970人)の90%にあたる8,983人が勤務地を離脱していた。研修医の人数が上位50の病院への現地調査の結果、行政処分の対象となる者は7,000人を超えるとみられており、残りの50病院についても点検を実施予定である。

一部で手術遅延や診療キャンセルが発生

全国の専門医の人数は1万2,000人あまりで全国の医師のうち11.4%に相当するが、大学病院では特に専攻医の割合が高く30%~40%を占める。前述のソウルの5大病院では医師のうち39%が専攻医である。大学病院では専攻医は診察、検査、手術、措置などに加え救急や集中治療室の24時間当直等を担当しているため、一度に職場を離脱するとこれらの運営が困難になる。ただし集団行動以降、上級総合病院の新規患者入院は24%、手術は上級総合病院15カ所で約50%減少したものの、緊急医療機関のほとんどは正常運営されていた。

政府は公共医療機関45カ所で診療時間を延長したほか、軍病院12カ所で一般人の応急診療受付を行っている。また、2月23日から医師集団行動が終了するまでは非対面診療を全面許可することを決定した。さらに27日から、診療補助看護師が一時的に医師業務の一部を合法的に代行できるようにした。

2月19日から政府が運営している相談窓口(医師集団行動被害申告・支援センター)では19日から27日午後6時までの間に計671件の相談が寄せられ、そのうち304件が被害申告書を受け付けられた。内訳は手術の遅延が228件と最も多く、診療キャンセル31件、診療拒絶31件、入院遅延14件であった。

参考資料

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