労働争議による労働損失日数の状況
連邦統計局が1月に発表した資料によると、2022年に労働争議によって失われた労働日は、雇用労働者千人あたり年間平均6.5日となっており、前年の9.1日から2.6日減少した。他方、民間研究所の最新資料によると、翌2023年の労働争議は、2010年以降で最も激しかった可能性が示唆されている。
22年の労働損失日数は前年比減
2022年は、労働争議(ロックアウトを含むが、主にはストライキ)によって、6.5労働日が失われた(雇用労働者千人当たりの年間平均労働損失日数)。前年の9.1日から減少し、22年は比較的、労働争議が少ない年であったといえる。なお、1995年から2022年にかけて、最も損失日数が多かったのは2015年の28.2日(注1)で、逆に最も少なかったのは2000年の1日未満(0.3日)である(図表1)。
図表1:労働争議による年間平均労働損失日数(雇用労働者千人当たり)(1995~2022年)
出所:連邦統計局(2024).
産業別の労働損失日数
産業別に見ると、製造業が最も多く、47.2日であった。計1767事業所、45万5724人の雇用労働者が関与し、ストライキを実施した労働者の4分の1弱(22%)は、自動車および関連部品の製造企業に雇用されていた(図表2)。
図表2:労働争議による年間平均損失日数
(雇用労働者千人当たり、産業別、2022年)
出所:連邦統計局(2024)。
ほとんどの産業では、ストライキは短く、一時的なものに過ぎないが、製造業、小売・運輸・ホスピタリティ、公共分野等のストライキは、規模や市民生活への影響等の大きさから、定期的な労使交渉の際に注目されることが多い。
過少統計の背景
連邦統計局の労働損失日数は、連邦雇用エージェンシーの公式統計に基づいている。
社会法典第3編(SGBIII)320条(5)に基づき、労働争議(10人以上の労働者による1日以上の労働争議、または、事業所の労働損失日数が100日以上の労働争議)が発生・終了した場合、事業所の雇用主は速やかに管轄の雇用エージェンシー(AA)に届出を行うことが義務づけられている。この届出に基づき、連邦雇用エージェンシーは労働争議が行われた事業所数、参加人数、損失日数等を把握している。つまり、10人未満や規定を満たさない小規模な警告ストなどの労働争議は、公式統計から除外されている。
ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)が労組報告や報道をもとに集計した数値は、公式統計よりも大幅に大きく、実態との乖離が指摘されている。このことは、連邦雇用エージェンシー自身も認めており、「統計の継続性のために毎年公表している」と説明した上で、「統計が実際より過少であることに留意した上でデータを利用すること」や、「統計手法の違いにより国際比較には適さない」という旨の注意書きがされている。
なお、WSIの数値を用いても、ドイツは国際的に、労働争議による労働損失日数はそれほど多くない国である。その背景として、協約を締結できる労働組合のみが、ストライキの呼びかけ・実施を合法に行うことができ、協約締結能力のない個人や組織が行うストライキ(いわゆる“山猫スト”)は違法となること、また、協約締結を目指さない政治ストも違法であること等が関係している。さらに、地域別の産別労使交渉が主流であり、パターンセッターとなる地域でパイロット労働協約(注2)が締結されると、当該産業や複数企業の多くを拘束(非組合員にも適用)し、その後の別地域における交渉で労働争議が生じにくい仕組みとなっていることも要因として挙げられる。
23年の労働争議の様相
現時点で、労働争議に関する公式数値は2022年が最新だが、ケルン経済研究所(IW)が2024年1月26日に発表した資料によると、2023年は労働争議がかなり激しい年であったとされる。IWは、労働争議の激しさを、以下の通り0~7ポイントで点数化して、独自の強度指標を出している。
0 = 労使交渉
1 = ストライキとロックアウトの恐れ
2 = 交渉のキャンセル
3 = ストライキ通告
4 = 警告ストの実施
5 = 労使交渉の不調と仲裁、調停等
6 = 労使交渉の不調と即時ストライキの投票・要求
7 = ストライキ/ロックアウト
この指標を用いて労働争議の激しさの推移を示したのが図表3である。ここから、23年の労働争議は、2010年以降、最も激しかったことが窺える。
図表3:合計労働損失日数と労働争議の激しさ(2010年~2023年)
出所:IW(2024).
IWによると、2023年は、モニタリング範囲内で、計23件の労働争議が発生し、うち12件は解決した。報道等で注目を集めたドイツ鉄道、大学病院(医師)、卸売・小売・貿易、航空、製菓、印刷等の労使交渉は、23年12月末時点で未解決のままだった。23件の労働争議のうち、レベル7のストライキに発展したのは、ユーロウィングスの操縦士労組(VC)の交渉1件のみであった。ストライキに関する投票が行われたレベル6は、鉄道や郵便等の労使交渉で、最終的に無期限ストは回避された。公共分野の交渉は、交渉が不調(レベル5)に終わった後、使用者側が仲裁を要求したことで、投票によるストライキが回避された。
24年の労使交渉予定
WSIによると、2024年には1200万人の労働者の団体交渉が行われる予定である。年明けに警備や印刷等の交渉が、春から建設や派遣労働の交渉が始まる。さらに、6月に化学や飲食の交渉が行われ、最後に大規模な金属・電気産業の労使交渉が9月から始まる予定である。なお、2024年末に失効する公共分野の労働協約は、2025年の開始予定とされている。
注
- 2015年の大幅な労働損失日数の増加は、主に郵便(ドイチェ・ポスト)の外注(アウトソーシング)の動きに反発した労働組合によるストライキと、幼稚園・保育園の教職員によるストライキの拡大・長期化が要因である。(本文へ)
- 例えば金属産業労使は、原則として地域ごとに交渉するが、そのうち1つの地域を先導役(パターンセッター)に設定して先に交渉を行い、ほかの地域にその交渉結果を波及させるシステムを採る。(本文へ)
参考資料
- 連邦統計局
- BA
- WSI
https://www.wsi.de/de/faust-detail.htm?sync_id=HBS-008602
https://www.wsi.de/de/pressemitteilungen-15991-tarifrunde-2024-54073.htm
- IW
https://www.iwkoeln.de/studien/hagen-lesch-ein-aussergewoehnliches-jahr.html
- 記事
https://www.dw.com/en/germanys-trade-unions-whats-behind-the-wave-of-strikes/a-68154583
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