OECD対日経済審査報告2024
―労働分野に関する政策提言
経済協力開発機構(OECD)は1月11日、日本経済の評価や提言をまとめた「対日経済審査報告2024」を発表した。同審査は、OECD加盟各国ごとに隔年で実施され、“国の健康診断”のような性質を持つ。報告は、日本の経済分野を中心に、関連する労働政策や環境政策についても多角的な評価や政策提言を行っている。以下に労働分野の概要を紹介する。
父親育休取得率の改善を
現在、日本の出生率は1.3%と、OECD加盟国で下から4番目に低い水準となっている。このまま政策変更がなければ、日本の人口は2060年までに4分の1程度減少すると予測されている。OECDは、今後ワーク・ライフ・バランスの改善や男性が育児に関与しやすい家族と子どもへの支援策を実施すれば、出生率の低下を反転させるのに役立つ可能性があるとしている。
育児休業取得率の推移を男女別にみると、図表1の通り、女性の取得率が8割以上で推移する一方で、男性は2022年時点で17%にとどまっており、取得期間も非常に短い(2021年の男性育休取得者の半数以上が2週間未満であった)。
図表1:育児休業取得率(2007~2022年、男女別)
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男性の育休取得率が低い理由として、世帯収入の減少や、自身のキャリアへの懸念、代替者がいない、取りづらい企業文化などが挙げられており、OECDは、今後全ての親への育児休業給付を引上げ、対象従業員の育休取得率の開示を企業に義務づけることで、父親の育休取得率と期間を増やすべきだと提言している。
女性の正規雇用割合の向上を
女性労働者の非正規割合は、過去30年で55%に急増した(図表2)。非正規労働者の低賃金は、女性の雇用を阻害し、日本の男女賃金格差の一因になっており、同時に就業を通じた訓練機会を失わせ、生産性の伸びを鈍化させる要因にもなっている。さらに、正規・非正規格差(二元的市場)は、女性のみならず、若者や高齢者にも悪影響を及ぼしている。このためOECDは、社会保険の適用拡大を促進し、女性の就業調整につながる税や年金などの抜本的制度改革を行い、さらに、女性の正規雇用割合を増やすことが、今後の働き手の確保に欠かせないと指摘している。
図表2:男女別の非正規割合 (単位:%)
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企業の定年制廃止を
65歳以上人口を生産年齢人口(15歳以上 65歳未満)で割った値である「老齢依存率(old-age dependency ratio)」は、日本において1960年代は1割程度で推移していたが、2022年は54%に達した。OECDはこのままだと2050年には79%に達するとの予測を出している(図表3)。
図表3:OECD諸国の老齢依存率(2022年、2050年予測、%)
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OECD加盟38カ国のうち、企業の定年設定を許容しているのは、日本と韓国のみである。OECDはこの点に言及した上で、急速な高齢化の労働市場への影響を抑制するために、企業の定年設定権利を廃止することで、年功序列型の賃金制度を弱め、高齢者雇用を増やすことができる可能性があるとしている。
現状では、日本企業の94%が退職年齢を設定しており、2022年の時点で、「60歳」としている企業が7割と最も多く、次いで「65歳」としている割合が2割強となっている(図表4)。
図表4:企業の退職年齢の設定割合 (単位:%)
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高度外国人材の受入れ促進を
就業者数が今後急速に減少していく中で、女性や高齢者の雇用を促進すると同時に、高度外国人材の積極的な受入れの重要性も指摘している。OECD統計によると、高学歴の外国人に提供される「機会の質」について、日本はOECD平均を下回っている(図表5)。そのため、外国人に対する差別を防止し、住宅や教育へのアクセスを改善し、長期間の日本滞在を可能としたり、当該外国人の配偶者等が日本で柔軟に働けたりするような包括的な戦略を策定する必要があるとしている。
図表5:高学歴外国人に提供される「機会の質」
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参考資料
- OECD(2024) OECD Economic Surveys:Japan 2024
https://www.oecd-ilibrary.org/economics/oecd-economic-surveys-japan-2024_41e807f9-en
- マティアス・コーマンOECD事務総長記者会見
https://www.youtube.com/watch?v=hBmsBgBqOKY
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