高齢者の所得保全と経済的自立に向けた対策

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年2月

2023年における韓国の高齢者扶養率(注1)は27.8%である。すなわち、65歳以上の高齢者1人を20歳~64歳の3.6人で扶養していることになる。OECDによれば、2075年には韓国の高齢者扶養率は78.8%に達する。これは日本の75.3%を上回り、OECDの中で最も高い数値となる。世界に類をみないスピードで進む高齢化が今、韓国では様々な分野に懸念をもたらしている。こうした中、韓国雇用情報院(KEIS)(注2)は、高齢者を経済活動へ導くための対策について考察したレポートを公表した(注3)。この中では、後期高齢者(80歳以上)や学歴の低い(中学卒業以下)高齢者に対する雇用対策の検討や公益型の雇用の拡大等も提言として盛り込まれている。以下はKEISのレポートの概要である。

高齢者が従事する業種・職種、10年前からの変化

韓国の高齢者(注4)のうち経済活動に参加している割合は2022年時点で37.3%であり、OECDの平均値15.9%を上回っている。高齢者が従事する業種は2023年のデータによれば、「事業・個人・公共サービス及びその他」が最も多い43.6%で、次が「農林漁業」(22.5%)、更に「卸小売・飲食宿泊業」(14.3%)等が続く。10年前の2013年のデータでは、「農林漁業」は37.6%、「事業・個人・公共サービス及びその他」は32.1%、「卸小売・飲食宿泊業」は16.4%であった(注5)

また、高齢者が従事する職種については2023年時点では「単純労務従事者」が33.4%と最も高く、次に「農林漁業熟練従事者」(22.2%)、更に「サービス・販売従事者」(19.0%)等が続く。職種についても10年前の2013年からの変化を見ると、「単純労務従事者」には目立った変化はない(2013年34.7%→2023年33.4%)ものの、「農林漁業熟練従事者」は減少(2013年34.7%→2023年22.2%)、「サービス・販売従事者」は増加(2013年13.8%→19.0%)するといった変化が見られる。高齢者の従事する業種・職種に関しては、10年前との比較で見ると、第1次産業からの脱却の様相が窺えるというのがKEISの見解である。

高齢者が働く理由、男女による違いと学歴による違い

定年(注6)を過ぎても継続雇用を希望する高齢者(65歳以上75歳以下)の割合は2013年の43.6%から2023年には55.7%と増加した。また、求職活動をした経験のある高齢者(65歳以上75歳以下)の割合も2013年の11.7%から2023年は18.6%と増加している。これらのデータを見ると、高齢者の定年後の労働意欲は比較的高い。

では、高齢者が働きたいと望む理由についてはどうか。「生活費の足しにしたいから/お金が必要だから」が52.2%で最も高く、次に「健康である限り働きたいから/働くことが喜びだから」が38.0%である。

また、高齢者が継続雇用を希望する理由には男女差や学歴による違いも見られることをKEISは指摘している。すなわち、継続雇用を希望する割合は女性よりも男性の方が高く、特に中学卒業以下の学歴の男性については、その割合が高くなるというものである。中学卒業以下の学歴の男性が継続して働きたいと思う理由は、「生活費の足しにしたいから/お金が必要だから」という経済的理由が50%台後半を占める。半面、学歴が上がるほど「健康である限り働きたいから/働くことが喜びだから」を理由とする割合は高まっていく。大学卒業で54.4%、大学院卒業以上では65.4%に達する。

老後の生活費の源泉は「労働所得・事業所得」と「年金・退職金」が主

高齢者のうち老後の準備をしている者は2023年時点で61.6%。一方、準備をしていない者は38.4%である。どのような準備かについては、「国民年金を通じての準備」とする割合が50.5%に達している。また、準備をしていない理由としては、「能力不足で老後の準備ができない」とする回答が65.8%。続いて「子女に頼る」(23.6%)等の順となる。

老後に生活費を自ら賄う経済的自立度に関しては、年齢が上がるほど低くなり、子女や親類に頼る傾向が見られる。前期高齢者(65歳以上70歳未満)では、生活費を自ら(本人及び配偶者)負担している者は2023年で85.4%に達する一方、後期高齢者(80歳以上)のうち経済的に自立している者は40.5%の水準である。

また、経済的自立度及び生活費の源泉には高齢者の学歴による差異がみられることをKEISは指摘する。中学卒業以下の高齢者の場合、生活費を自ら負担している割合は2023年で58.7%であるのに対し、高校卒業以上の学歴の高齢者の場合、90.8%に達する。すなわち、学歴が高ければ10人のうち9人の高齢者は老後の経済的自立が可能となるというのがKEISの見方である。

老後の生活費の源泉を高齢者の年齢層別にみると、前期高齢者では「労働所得・事業所得」(60.6%、2023年)と「年金・退職金」(28.9%、同)が大きな柱である。後期高齢者の場合、その割合は「労働所得・事業所得」は29.0%(同)、「年金・退職金」が43.9%(同)となる(表1)。高齢になる程、年金等で生活費を賄う比重が大きくなる。

表1:高齢者(65歳以上)の生活費の源泉(年齢層別) (単位:%)
  2023年 2017年
65~69歳 70~79歳 80歳以上 65~69歳 70~79歳 80歳以上
労働所得・事業所得 60.6 42.2 29.0 53.7 40.8 23.9
年金(個人年金を含む)・退職金 28.9 39.6 43.9 28.5 34.3 48.4
財産所得 6.4 11.8 17.6 10.2 15.1 14.7
預金(積立金) 3.9 5.9 9.4 7.6 9.8 12.9
その他 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

出所:KEISの資料を基に作成。

また、生活費の源泉についても、学歴による差異がみられる(表2)。

表2:高齢者(65歳以上)の生活費の源泉(学歴別) (単位:%)
  2023年 2017年
大学卒業以上 高校卒業 中学卒業以下 大学卒業以上 高校卒業 中学卒業以下
労働所得・事業所得 36.6 47.3 52.8 31.1 39.2 50.4
年金(個人年金を含む)・退職金 50.8 36.5 30.0 45.8 37.8 28.2
財産所得 9.7 10.8 10.1 14.7 13.9 12.0
預金(積立金) 2.5 5.2 6.7 8.3 9.1 9.4
その他 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

出所:KEISの資料を基に作成。

中学卒業以下の学歴の高齢者においては、「労働所得・事業所得」によって生活費を賄っている割合は50%以上を超えている。これについてKEISは、この層に属する高齢者は生涯賃金が低く抑えられていたため、準備余力が不足していた結果であるとしている。

高齢者の経済的自立に向けた対策

近年、従前に比べると公的年金等を通じた老後への備えが進んでいる傾向も見られるが、公的年金の水準は、それのみで老後の生活を維持できるまでには達していないのが実情である。

中でも生涯賃金が低かった中学卒業以下の学歴の高齢者及び後期高齢者は、少子高齢化に向かって他に類をみないスピードで進んでいく韓国社会においては、主要な政策対象になると考えられる。当該分野に属する者への雇用を提供していくことによって、所得保障効果を高めて経済的自立を促していく必要がある。

そのためには、各種の既存の支援事業における対象年齢の上限を拡大していくことをKEISは求めている。それとともに、これまでの各種の高齢者雇用対策は、高齢者の雇用拡大に大きく貢献した(注7)点を評価しながらも、それらは主として社会サービス・民間型の雇用であり、後期高齢者そして高い学歴を持たない高齢者にとって、より容易にアクセスが可能な公益型の雇用を拡大し、この分野に属する高齢者に対する所得を保全することによって、経済的自立へと導いていくことが必要であると提言している。

参考資料

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