海外直接投資が2022年以降減少傾向
 ―日系進出企業数、拠点数ともに減少

カテゴリー:雇用・失業問題労働法・働くルール

インドの記事一覧

  • 国別労働トピック:2024年2月

海外直接投資が減少傾向にある。23年度5月~8月にかけて前年同月比で20%を超える減少が続き、直近の23年4月から9月までの累計投資額は前年同月比で15.9%減少した。日本企業の拠点数は2019年以降減少し、22年に若干増加したものの、企業数では21年以降減少が続いている。企業数を州別にみると、22年には増加した州もあるが、19年から21年にかけてほとんどの州で減少している。

海外からの投資額の減少

インド準備銀行(中央銀行)の『RBI BULLETIN』は、4月~3月の会計年度で集計する統計数値であり、海外直接投資のドル建て累計額を毎月公表している(注1)。2012年度以降のデータが入手可能であり、2013~20年度までは、2016~18年を除き、概ね10%から20%増で推移している。だが、21年度は1%増に留まり、22年度はマイナス16.3%となった(図表1参照)。2012~22年度までに年間の海外直接投資が最も多かったのは2021年度の848憶3500万ドルであり、22年度は前年から138億6500万ドル減少し709億7000万ドル(16.3%減)となった(図表2参照)。

図表1:年間の海外直接投資額の推移(2012~22年度) (単位:億ドル(億単位未満四捨五入))
画像:図表1

出所:インド準備銀行公表レポート(RBI BULLETIN)より作成。

図表2:海外直接投資額の前年増減額の推移(2013~22年度) (単位:億ドル(億単位未満四捨五入))
画像:図表2

出所:図表1と同じ。

コロナ禍の2020年度は年度の途中で4月から7月にかけて前年度比で6割前後まで減少したが後半に増加したため、年度全体では約10%の増となった。21年度は前年4月から7月にかけて大きく落ち込んだため、21年5月、6月は前年比で倍増したが、8月以降は減少に転じたため、年間額では2.0%増だった。22年度は、5月以降に前年度比で大幅な減少傾向が続き、年間額では16.3%の減少となり2013年会計度以降、初めて減少に転じた。直近の23年度については23年10月までの累計額を見る限り、更に減少幅が大きくなり、前年度比で20%を超える減少の月が多く見受けられる(図表3参照)。

図表3:海外直接投資額の前年同月比増減割合(2023年度) (単位:%)
画像:図表3

出所:図表1と同じ。

海外からの進出企業数の減少

海外からの進出あるいは撤退を企業数でみると、2018年から2023年3月までの間に、外資系企業469社がインドで事業を開始したのに対して、559社が事業を停止したため、撤退が進出を超過している(注2)。海外企業の撤退が進出を上回るという数値は、このほかの統計数値にも表れており、各種メディアで大きく取り上げられている。この期間中、インドで事業を開始した外国企業の数が、閉鎖して事業を停止した数を上回ったのは2019年だけだったとする報道もある(注3)(開始企業137社に対して、閉鎖企業133社)(注4)。また、2022年にインドで新たに事業を開始した外国企業は64社(2018年以来最低の数字)で、同年に撤退した企業は78社に上り、撤退数が進出数を超過している。

財務大臣は23年12月4日、外国企業のインドからの撤退に歯止めがかからない現状に関して、上述の数値は「2018年から2023年(1月まで)の間に2013年会社法第380条に基づきインドで事業所を開設または閉鎖した外国企業」に関するものであるとし、外国企業はインドに事業所を開設するだけでなく、インド子会社(インド企業であるが外国持株会社の子会社)を通じてインドに投資する企業も多いと指摘した。その上で、2018-19年度から2022-23年度(11月まで)の間に、7946社の外国企業がインド子会社を登録したという数値を強調した(注5)

財務大臣が触れた子会社を通じた投資に係る企業数については、2014年から2021年11月までに10,756社の外国企業がインド子会社(連絡事務所、支店、プロジェクト事務所)として登録され(注6)、2,783社の外国企業とその子会社がインドでの事業を停止したことが、21年12月の議会で明らかになっている(注7)。閉鎖した企業の中には、イギリスの油田開発会社のケアン・エナジー、スイスの建築資材メーカーのホルシム、第一三共、フランスのスーパーマーケットチェーン・カルフール、ドイツの家庭用洗剤や接着剤等製造会社のヘンケル、ハーレーダビッドソン、フォードなどの大企業が含まれている。なお、2021年11月30日時点で、事業を継続する外国企業あるいはその子会社は12,458社である(注8)

日本企業の動向

日本企業の動向に目を向けると、企業数は2021年度以降減少しており(図表4参照)、拠点数については、2019年度以降減少し、22年に若干増加した(図表5参照)(注9)

図表4:進出日系企業数の推移(2008~22年度)
画像:図表4

出所:在インド日本国大使館「インド進出日系企業リスト2022」

図表5:進出日系企業数の拠点数の推移(2008~22年度)
画像:図表5

出所:図表4と同じ。

主な州について拠点数の推移を示したのが図表6である。タミル・ナド州(TN)、カルナータカ州(KA)、グジャラート州(GJ)で企業数が数社増加した一方で、ハリヤナ州(HR)、マハーラーシュトラ州(MH)などで減少した(DL:デリー準州、WB:西ベンガル州)。

図表6:進出日系企業数の州別拠点数の推移(2008年度~2022年度)
画像:図表6

出所:図表4と同じ。

海外直接投資の減少や海外企業の撤退が続く要因

ポストコロナ期の世界経済の不確実性により、グローバル・サプライ・チェーンの脆弱性が明らかになり、中国がその中心としての優位性を徐々に失いつつある中、インドはグローバル・サプライ・チェーンの変化の恩恵を最も受ける可能性が高いとする分析がある(注10)。また、中国のアメリカ向け輸出の減少と対照的に、インドは4割以上増加させ、世界の製造業の勝者として台頭しているとの分析もある(注11)。ただ、インド準備銀行のレポートによれば、2022年以降、海外からの投資が減少傾向になっており、メイク・イン・インディア政策の顕著な成果が上がっているとは言い難い。インド政府は、景気回復の遅れる中国から撤退する企業の受け皿となるべく、外国企業を呼び込む政策の一環として、連邦レベルの労働法改革を行ったが、施行規則が制定されておらず、改正法の主要規則は3年以上経過して未だ施行されていない(連邦労働法改正状況と各州における労働法改革に関する記事を後日掲載予定)。

(ウェブサイト最終閲覧:2024年1月17日)

参考レート

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。