高齢化社会への対応を強化、シルバー経済に新たな活路
国家統計局の最新データ(注1)によれば、2023年末の60歳以上人口は2億9,697万人で、総人口の21.1%を占め、うち65歳以上(2億1676万人)は15.4%に達していた。予測では、60歳以上人口は2035年時点で4億を超え(総人口の30%超)、深刻な高齢化段階に入るとされる。しかし、高齢化社会の急速な進展が直面する様々な課題は、同時に新たなチャンスを生み出す可能性にもつながる。中国政府は、巨額の高齢者向け消費市場の誕生を見据え、「シルバー経済(銀髪経済)」の活性化に重点を置き始めている。
高齢者向けの巨大消費市場
人民網などの報道によると、中国老齢科学研究センターは2022年3月に「中国老齢産業発展及び指標体系研究」を発表した。それによると、2030年までに高齢者の消費総額は12~15.5兆元の範囲で増加し、GDP(国内総生産)比で8.3~10.8%程度上昇する。さらに、2050年までの同消費総額は40兆~69兆元の範囲で拡大し、GDP比で12.2~20.7%程度上昇すると予測。つまり、近い将来、中国では巨大な高齢消費者層の誕生とともに、高齢者向け力強い消費市場が確立される可能性が示唆されている。そのため、中国政府は「シルバー経済(銀髪経済)」の活性化を重視してきている。
国務院が2022年2月に発表した「『第14次5カ年計画』国家高齢化事業発展および介護サービス体系の計画(注2)」では、「シルバー経済」の大規模な発展を促進し、高齢者向け商品市場を拡大し、高齢者用品の研究開発や製造を強化し、高齢者の衣食住などの多様なニーズに応える生活用品の開発を提案している。さらに、国務院等による同年12月発表の「内需拡大戦略計画概要(2022年-2035年)(注3)」では、シルバー経済の発展を促進に向けて、高齢者に適した公共施設の構築と、高齢者向け製品の技術開発を提案している。
2023年7月には、シルバー経済の発展を促進し、高齢者向けの製品とサービス供給を充実させ、高齢者の多様なニーズに応え、高齢者福祉を向上させるために、国家発展改革委員会は「シルバー経済の発展促進」に関する意見や提案を募集した。
国務院弁公庁による「シルバー経済」促進方針
2024年1月5日には、李強首相が国務院常務会議で、シルバー経済の拡大と高齢者福祉の向上に関する政策を図る方針を示した。会議では、シルバー経済の促進が人口の高齢化に積極的に対処し、高品質な発展を促進するための重要な手段であり、将来的な利益も含まれると強調した。
さらに、国務院弁公庁は1月15日、「シルバー経済の発展と高齢者の福祉向上に関する意見(注4)」を発表し、急速に進む高齢化社会に伴い、高齢者向けの製品やサービスへの提供、老齢段階への準備など、一連の経済活動である「シルバー経済」の促進を目指すこととし、4分野計26項目の包括的な方針を打ち出した。以下にその主要な取り組み内容を紹介する。
1.民生事業の発展、高齢者向けサービスの充実
高齢者向け食事サービスの拡大 |
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在宅高齢者サービスの拡充 |
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コミュニティ便民サービスの発展 |
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高齢者の健康サービスの最適化 |
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高齢看護サービスの充実 |
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高齢者向け文化・スポーツサービスの拡充 |
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農村の高齢者サービスの向上 |
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2.製品提供規模の拡大
シルバー経済の事業主体の育成 |
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産業クラスターの発展 |
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業界組織の効率向上 |
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ブランド化の推進 |
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高水準の標準化プロジェクトの展開 |
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消費供給チャンネルの拡大 |
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3.多様なニーズに応える潜在的な産業の育成
高齢者用品の革新 |
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スマートヘルスケア新概念の構築 |
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リハビリ補助具産業の発展 |
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抗加齢産業の推進 |
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高齢者金融商品の発展 |
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観光サービス形態の拡大 |
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高齢者向けの改造を推進 |
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4.シルバー経済に必要となる発展環境の最適化
科学技術イノベーション応用の強化 |
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土地と住宅の確保の充実 |
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財政金融の支援強化 |
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人材の育成を推進 |
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健全なデータの構築 |
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詐欺行為防止の取り組み |
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中国政府は、これらの新しい戦略を通じて、シルバー経済を活性化させ、高齢者が充実した生活を送るためのサポートを展開している。
注
- https://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202401/t20240117_1946624.html(本文へ)
- 《“十四五”国家老龄事业发展和养老服务体系规划》(本文へ)
- 《扩大内需战略规划纲要(2022—2035年)》(本文へ)
- 国务院办公厅关于发展银发经济增进老年人福祉的意见(本文へ)
- 中国商務部は現在、「2023全国便利な15分生活キャンペーン」を積極的に展開している。「便利な15分生活圏」を立ち上げることで、住民が家から15分以内の範囲で、基本的な生活に必要となるスーパーマーケットや朝食店、コンビニ、宅配便営業所などを利用でき、さらに、教育、医療、娯楽、フィットネス、介護、政務サービスなども利用できるようにする取り組みで、便利なサービス全てが「目と鼻の先」にあるという生活を目指す(「人民日報日本語版」より)。
(http://j.people.com.cn/n3/2023/1204/c94475-20105522.html#:~:text=%E3%80%8C%E4%BE%BF%E5%88%A9%E3%81%AA15%E5%88%86%E7%94%9F%E6%B4%BB,%E3%81%AE%E5%85%88%E3%80%8D%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86)(本文へ) - 自宅を担保にした融資制度の一種。自宅を所有しているが現金収入が少ないという高齢者世帯が、住居を手放すことなく収入を確保するための手段をさす。(本文へ)
参考文献
- 中国人民政府、中国国家発展と改革委員会、新華網、人民網
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=20.85円(2024年2月28日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2024年2月 中国の記事一覧
- 高齢化社会への対応を強化、シルバー経済に新たな活路
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