人材育成支援のロードマップを発表
 ―ホワイトハウス

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2023年6月

ホワイトハウスは5月18日、「良い仕事を支援するためのロードマップ(Roadmap to Support Good Jobs、以下「ロードマップ」)」を発表した(注1)。すべての米国民が学歴や居住地にかかわらず、高度な訓練、教育を受け、より良い条件の仕事に就けるようにするための施策を提示。バイデン政権発足後に成立した法律などに基づき、見習い制度への支援拡充や、特定の地域を拠点に人工知能など新興産業分野の労働力開発(注2)を進める方針などを具体化させている。

4つの優先事項

「ロードマップ」は、「すべての米国民が、大学に行くかどうかにかかわらず、居住するコミュニティを離れることなく、良いキャリアへの道を提供する高質の訓練、教育、サービスに公平にアクセスできるようにして、労働力を構築する」ことを目的とする。

バイデン政権は2021年1月の発足後、以下の法律を施行するなどして、人材の育成、労働力開発への投資の拡大や雇用創出政策を進めている。

  • アメリカ救済計画法(American Rescue Plan Act)2021年3月11日成立
  • インフラ投資・雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act)2021年11月15日成立
  • CHIPS(半導体生産支援インセンティブの創出)および科学法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors and Science Act)2022年8月9日成立
  • インフレ削減法(Inflation Reduction Act of 2022)2022年8月16日成立

「ロードマップ」ではこれらの法律に基づき実行する政策を、次の「4つの優先事項」を念頭に置いて実施する方針を示している。

  • (1)人々を「良い仕事」に結びつける(Connecting People to Good Jobs)
  • (2)変革的な投資に必要な労働力を準備する(Preparing Workers for Our Transformational Investments)
  • (3)各地域社会が基礎的な労働需要を満たせるようにする(Ensuring Every Community Can Meet Its Foundational Labor Needs)
  • (4) 採用と定着を促進するために仕事の質を向上させる(Boosting Job Quality to Promote Recruitment and Retention)

見習い制度への支援などを強化

以下、「ロードマップ」で新たに具体化した主な施策を紹介する(図表1)。

図表1:ホワイトハウス「良い仕事を支援するためのロードマップ」の主な内容

(予算規模の単位:億ドル)

施策名 予算規模 所管する連邦政府機関
登録見習い制度の拡充 0.85 連邦労働省(雇用訓練局)
労働力開発のための高速道路資金 48 連邦運輸省(運輸労働力開発センター)
バス・バス施設プログラム助成金 17 同(連邦公共交通局)
再競争試行プログラム 2 連邦商務省(経済開発局)
Tech Hubsでの新興産業分野の人材育成 5 同上
産業アセスメントセンター訓練プログラム 1.5 連邦エネルギー省

出所:ホワイトハウス・ウェブサイト

連邦労働省(雇用訓練局)は各登録見習い制度(事業主や事業主団体、労働組合などが共同で実施する職業訓練を、連邦政府や州政府が登録して支援する制度)の規模を拡大し、州に8,500万ドルの助成金を支出する。近代的で全国的に受講案内可能な見習いシステムの構築もはかる。

連邦運輸省(運輸労働力開発センター)は「労働力開発のための高速道路資金」に48億ドルを投入し、各州の高速道路の運営・改善に関わる労働者の育成を支援する。安全性向上や渋滞緩和、大気環境改善といったプログラムで、女性やマイノリティの参加の促進、労働力のギャップへの対処、新たな交通技術に関するスキルの取得、雇用創出資源の誘致を進め、大学やコミュニティカレッジ、専門学校への経済的支援、見習いやOJT、インターンシップの支援などを実施する。

また、同省(連邦公共交通局)は「バス・バス施設プログラム助成金」として、バス会社などに17億ドルの資金を拠出。電気自動車などの「ゼロエミッション車」を運転する従業員のスキルの更新や、新入社員の訓練を支援する。

このほか、同省ではインフラ投資・雇用法で定めた労働力の公平性確保のツールである「地域的、経済的な雇用優先措置(Local and economic hiring preferences、特定の地域、困窮者ら特定のカテゴリーの者を優先して雇用する措置)」の実施について、全国の好事例、ケーススタディの紹介を含む手引書を発行する。

連邦商務省(経済開発局)は「再競争試行プログラム(Recompete Pilot Program)」に2億ドルを投じ、経済的に困窮したコミュニティでの雇用創出を支援する。また、人工知能(AI)やロボット工学、バイオテクノロジーなどの新興産業分野で技術革新を進める拠点地域(Tech Hubs)に5億ドルの資金を投入し、労働力の開発を支援する。地方自治体や関連分野の業界団体、企業、教育訓練機関、労働組合等が提携して資金を活用し、技術革新に対応できる人材の確保・育成、雇用の創出をはかる。

連邦エネルギー省は1億5,000万ドルを「産業アセスメントセンター(IAC)」の訓練プログラムに提供する。コミュニティカレッジ、専門学校、労働組合などが提携、協力し、訓練中のエンジニアに実務的な経験を積ませ、労働者がクリーンエネルギー産業関連の良質な仕事に就く道を拡げる。

保健社会福祉省は、安全で質の高いケアを提供できるようにするため、調査に基づき、介護施設における最低限の人員配置基準を提案する。

フェニックスなどを労働力開発の拠点都市に

なお、ホワイトハウスは5月16日、半導体製造、クリーンエネルギー、ロボット工学などを担う労働力の開発を重点的に実施する拠点都市(Workforce Hub)として、アリゾナ州フェニックス、オハイオ州コロンバス、ペンシルベニア州ピッツバーグ、メリーランド州ボルチモア、ジョージア州オーガスタの5都市を選んだ(注3)

これらの拠点を補完するため、連邦労働省は全米都市連盟(National League of Cities)と協力し、労働力開発の技術支援などを行うプログラム「Good Jobs, Great Cities Academy」の対象として、アラバマ州バーミンガム、テネシー州チャタヌーガ、ミネソタ州ダルースなど16の都市を選定した。各地の自治体や労働力開発委員会、教育訓練プロバイダー、産業界、労働界のパートナーシップにより、労働者を質の高い仕事に就かせるための訓練を実施する。

参考資料

  • 日本貿易振興機構、ブルームバーグ、ホワイトハウス、連邦政府機関(運輸省、エネルギー省、商務省、保健社会福祉省、労働省)、各ウェブサイト

参考レート

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