OECD、生成AIの台頭で国際指針の見直しへ

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  • 国別労働トピック:2023年6月

経済協力開発機構(OECD)は5月、ChatGPTに代表される生成AI(人工知能)の急速な台頭を踏まえ、2019年に採択された国際的な政策指針である「AIに関するOECD原則(以下、AI原則)」を近く見直すとの方針を示した。

2019年採択の「AI原則」

「AI原則」は、2019年5月の年次閣僚理事会で、当時のOECD加盟国(36カ国)とパートナー国などのうちアルゼンチン、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、ペルー、ルーマニアの6カ国の計42カ国が署名し、採択された。

世界で初めて複数国が合意した本原則は、信頼できるAIの責任ある普及に関する5つの原則と各国政府に対する5つの提言で構成されている(図表)。本原則は同年6月に開催されたG20首脳会合でも首脳宣言の附属文書として採択されている。法的拘束力はないものの、国際標準の設定や各国政府による国内法策定に対して、一定の影響力を持つ。

図表: 2019年に採択された「AI原則」の概要

【AIの5原則】

  1. AIは、包摂的成長と持続可能な発展を促進し、人間や地球環境に利益をもたらすものでなければならない。
  2. AIは、法、人権、民主主義、多様性を尊重し、公平公正で、偏りや不平等を最小限に抑えて、必要に応じて人的介入ができるようにすべきである。
  3. AIの意思決定や行動は、透明性を確保し、責任ある情報開示を行うべきである。
  4. AIの設計者と運用者は責任を持ち、リスク管理と安定・安全性を確保しなければならない。
  5. AIの開発、普及、運用に携わる組織及び個人は、上記の原則に則ってその正常化に責任を負うべきである。

【各国政府への5提言】

  1. 信頼できるAIイノベーションのため、研究開発への官民投資を促進する。
  2. AIエコシステムおよび、データと知識の共有メカニズムの利便性を高める。
  3. 信頼できるAIシステムの普及促進と政策環境を創出する。
  4. AIに関わる技能を人々に身につけさせるとともに、必要に応じて労働者の転職支援を行う。
  5. 情報共有や標準開発を行い、責任あるAIの報告監督義務を果たせるよう、国際的、産業部門横断的な協力を行う。

出所:OECD(2019)をもとに作成。

生成AIが職業に与える影響

生成AIは個人利用が急速に普及する中で、脚本家や作曲家などの創造的職業のほか、弁護士や税理士、コンサルタントといった知的職業にも影響が及んでいる。

例えば、アメリカ・ハリウッドの脚本家1万1500人が加盟する全米脚本家組合(WGA)は5月2日から、報酬の引上げとともに生成AIの利用規制を求めて15年ぶりのストライキに突入した。脚本家らは、ウォルト・ディズニーやネットフリックスなどが加盟する全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)に対して、動画配信時の都度の報酬還元とともに、生成AIの利用制限を協約に盛り込むことを求めている。彼らはAIを調査等に使うことには反対していないが、AIが既存作品を学習して新たな脚本を生成するのであれば著作権侵害や盗用に当たるとして、脚本作りには関与させないことを求めている。

別のケースでは、生成AIが提供した偽情報が問題となった。ニューヨーク州で5月下旬、民事訴訟の原告側弁護士がChatGPTを利用して作成した準備書面に架空の判例が複数含まれていることが判明し、弁護士が謝罪する事態となった。裁判所は今後、当該弁護士の懲戒処分の是非を検討するとしている。

このように生成AIをめぐっては、職業代替への懸念や生成情報の真贋判断の難しさなど、多方面へ影響が出ており、利用の明確なガイドラインやルール作りが急がれている。

G7と連携し、より幅広い枠組みの指針策定へ

OECDは、生成AIの普及に起因する現在の大規模なイノベーションについて、従来の「AI原則」では十分に対処しきれないリスクや課題が生じており、かかる部分の見直しが必要だと考えている。5月に広島で開催されたG7首脳会合においても生成AIは重要な政策課題とされ、7カ国共通の見解が年内にとりまとめられる予定である。OECDは今後G7などとも連携しながら、より幅広い枠組みに対応できる国際的な指針の改訂を目指している。

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