ストライキが増加傾向
 ―2022年労働統計局集計、労組組織率は低下続く

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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米連邦労働省労働統計局(BLS)がこのほど発表した2022年における労働組合の労働者組織率は10.1%で、前年を0.2ポイント下回った。労働組合員数は約1,430万人で、前年より27.3万人(1.9%)増加している。また、1,000人以上が参加する大規模なストライキの発生件数は23件で、約12万人が参加。前年から7件、約4万人増加している。カリフォルニア州では大学教職員による4万人規模のストライキが発生。このほか各地のスターバックスの店舗では2021年の労組初結成後にストライキが多発している。

組織率は低下も組合員数は増加

BLSが1月19日に発表した米国における2022年の労組組織率は10.1%で、前年の10.3%から0.2ポイント低下した(図表1)(注1)。データを比較できる約40年前(1983年、20.1%)の半分程度の水準まで落ち込んだことになる。

図表1:労組組織率と組合員数の推移
画像:図表1

出所:連邦労働省労働統計局ウェブサイト

民間部門の組織率は6.0%(前年比0.1ポイント低下)、公共部門(連邦・州・地方の各政府機関)は33.1%(同0.8ポイント低下)で、公共部門の組織率は依然として高いものの、前年比の落ち込みは民間よりも大きかった。また、フルタイム労働者の組織率は11.0%(前年比0.1ポイント低下)に対して、パートタイム労働者は5.5%(同0.6ポイント低下)と半分程度にとどまる。

他方、組合員数は1,428.5万人で前年より27.3万人(1.9%)増加した。組合員数の増加は2017年以来5年ぶりのことだが、分母の雇用者数が530万人(3.9%)増加したため、組織率そのものは低下した。

労組結成、労使紛争はともに増加

職場で従業員を代表する労働組合を結成するためには、全国労働関係委員会(NLRB)に申請のうえ、NLRBの監督の下で従業員投票を行ない、過半数の支持を得る必要がある。従業員投票の申請件数は増加している。NLRBによると、2022会計年度(2021年10月~2022年9月)は2,511件で前年度の1,638件から53.2%増えた。また、NLRBへの不当労働行為の救済申立件数は1万7,998件で、前年度の1万5,081件から19.3%増加。労使紛争の数が2020年のコロナ禍前の水準に戻ってきたことがうかがえる(図表2)(注2)

図表2:NLRBへの従業員投票申請件数と不当労働行為救済申立件数の推移
画像:図表2

出所:全国労働関係委員会(NLRB)ウェブサイト

なお、ギャラップ社が2022年8月30日に発表した世論調査(注3)の結果によると、労働組合を支持する(approve)人の割合は前年の68%から71%へと上昇した。調査は1936年から実施しており、1950年代には支持率75%を記録していた。その後は漸減ないし横ばいの傾向をたどり、2009年には50%を割った(48%)が、以後は上向き、昨年はついに1965年の71%と同水準へと回復した。

カルフォルニア大学で大規模なストライキ

BLSが2月22日に発表した2022年の1,000人以上が参加する大規模なストライキの発生件数は23件で、合わせて約12万人が参加した(注4)。前年から7件、約4万人増加している。

最も参加人員が多かったのは各地のカリフォルニア大学(University of California、UC)におけるストライキで、授業や試験監督・採点、研究事務などに携わる大学院生やポスドク教員(博士研究員)らを中心に、10カ所のキャンパスで約4万8,000人が参加した。教職員らは物価や住宅費が高騰する中で、十分な賃金や社会保障を得られず生活が苦しいと主張。賃金・労働条件の向上などを求めて、最も早い職種では2022年春から交渉を始め、最終的に11月14日からストライキに突入した。こうした「学生労働者」を組織する全米自動車労組(UAW)の支部(UAW Local 2865UAW Local 5810Student Researchers United/SRU-UAW)がストライキを支援した。

交渉は、ポスドク教員(Postdoctoral Scholars、PS)、学術研究員(Academic Researchers、AR)、学術学生職員(Academic Student Employees、ASE)、大学院生研究員(Graduate Student Researchers、GSR) という4つの交渉単位(bargaining unit)(注5)ごとに行われた。労使は12月12日にPSとARに関する労働協約の改定に合意したと発表し、これらの教職員らが先行して職場に復帰した。ASEとGSRの協約改定交渉では、大学側が求める第三者による民間調停の実施を労組側が受諾。サクラメント市長の調停で同16日に労使合意し、組合員投票による承認を得たうえで、ストライキを続けていた約3万6,000人が職場に戻った。いずれも合意内容に初任給や諸手当(育児・ヘルスケア・交通関連)の引き上げ、有給家族休暇の拡充、いじめやハラスメントなどの虐待行為からの保護などを盛り込んでいる(注6)

なお、同州では2023年に入ってからも物価高などを背景にして、ロサンゼルス統一学区(LAUSD)の教師アシスタント、用務員、カフェテリア職員、スクールバス運転手らが賃上げを求めて3日間(3月21~23日)のストライキを実施(注7)している。

スターバックスで相次ぐ労使紛争

コーネル大学労使関係スクールの集計によると、2022年における参加人員1,000人未満規模を含む労使紛争による作業停止の件数は424件(ストライキ417件、ロックアウト7件)にのぼった(注8)。業種別に見ると「宿泊施設・飲食サービス業」が144件を占め、2年ほど前に初めて労組が結成されたスターバックス社や、「Fight for $15」(時給15ドルへの引き上げ運動)を展開するファストフード店の労働者らがストライキを行うケースが目立つ。

スターバックス社では2021年にニューヨーク州バッファローで初めて労組が結成され、各地の店舗に広がった。組織化を進めている労組「スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッド(Starbucks Workers Union、 SWU)」によると、全米で9,000を超す店舗(従業員数約25万人)のうち280以上の店舗で従業員投票の結果、NLRBの承認を経て労組が結成されている(2023年3月時点)。労組はこれらの店舗で約7,500人の従業員をカバーしているという。

なお、通常は労組結成後、労働協約締結のための交渉のプロセスに進むが、同社ではオンラインでの交渉を求める労組側と、対面で行う必要があるとする経営側が対立し、交渉を進められずにいる。経営側は「パートナー」と呼ぶ個々の従業員と直接、労働条件について話し合う方針をとる。会社自らが労働条件の向上をはかっているとして、労働組合に対抗する姿勢を崩していない(注9)

ニューヨークタイムズ紙(2023年3月9日付け電子版)によると、NLRBは2019年以降、労組からの504件にのぼる不当労働行為の救済申立てを受け、調査等を行ったうえで、81件の救済請求状(Complaint)を出し、正式な審判の手続きに入っている。

SWUによると、NLRBは2023年3月29日までに9件の決定を下し、そのうち8件で130の連邦労働法違反を指摘し、救済を命じた。これには、組織化に関わった労働者への不法な監視や解雇、組織化の試みがあった店舗の閉鎖などが含まれる(注10)

スターバックス社の投資家らは3月23日の株主総会で「スターバックス社が国際労働機関(ILO)の定める結社の自由と団体交渉権を遵守しているかどうか、独立した第三者に評価を委託する」ことを提案した(注11)。SWUは株主にこうした評価実施の提案を求めていた。総会では投票者の52%以上が賛成票を投じた。提案の実施に拘束力はないものの、実施しない会社は株主の批判にさらされる可能性がある。

3月29日には米連邦議会上院の健康・教育・労働・年金委員会(委員長:バーニー・サンダース上院議員=民主党系無所属)がこの問題で公聴会を開催し(注12)、前最高経営責任者(CIO)ハワード・ショルツ氏を召喚した。同氏は全国労働関係法(NLRA)を遵守していると主張し、不当労働行為を否定している。

参考資料

  • カリフォルニア大学、ギャラップ社、スターバックス社、スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッド、全国労働関係委員会、日本貿易振興機構、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト

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