雇用労働部、労働時間制度改編案を発表

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  • 国別労働トピック:2023年4月

雇用労働部は3月6日、「労働時間制度改編案」を発表した。韓国の画一的・硬直的な労働時間制度を抜本的に改編し、多様化、高度化する労働市場に対応していくため、新たな労働時間のパラダイムの構築を志向する内容となっていると雇用労働部は説明する。しかしながら、改編案の発表直後、その内容を巡って各界で論争が激化。そのため今般の改編案は再検討を迫られることとなった(注1)。以下は発表直後(再検討前)の「労働時間制度改編案」の概要である。

画一的・硬直的な労働時間制度の見直し

韓国では2018年以降、労働時間を週当り52時間(法定40時間+延長12時間)に制限しているが、管理単位が週単位の枠で定められていること、また、選択労働時間制(フレックスタイム制)、弾力労働時間制(変形労働時間制)等の柔軟な労働時間制度(注2)も現行法上認められてはいるものの、活用期間の制限や手続き上の不備といった理由で、実効性は高くない。今般の改編案には画一的・硬直的な現行の労働時間制度を抜本的に再編することによって、労働時間の選択の幅を拡大し、労働者の生活の質を向上させ、企業を革新と成長へと導く期待が込められている。

改編案の策定に先立つ2022年7月、雇用労働部は専門家による議論機構として「未来労働市場研究会」を発足させた。第4次産業革命、高齢化社会等といった変化の中で、未来の労働市場に対応していくための課題についての議論を重ね、これを経て、研究会は「労働時間制度」と「賃金体系」の革新を求める勧告を出した。すなわち、「自律と選択による労働時間の短縮」と「公正な賃金体系の構築」である。今般の「労働時間制度改編案」はこの勧告を受けて策定に至ったものである。

改編案の4つの柱

改編案は次の4つの柱で構成されている。

  1. 労働時間の選択権の拡大
  2. 労働者の健康権の保護
  3. 休暇の活性化を通じた休息権の保障
  4. 柔軟な働き方の普及

以下はそれぞれの概要である。

1.労働時間の選択権の拡大

現行の延長労働時間の上限である1週当り12時間は、管理単位の枠が「1週間」と定められているため、企業にとっては元請けからの緊急の発注等、一時的、散発的に発生する状況への対応が難しい場合がある。そのため、1週間の枠に加えて、「1カ月」「四半期」「半期」「年」という管理単位の選択肢を設け、それぞれの管理単位内で労働時間の上限を設定しようというものである。具体案は下表のとおりである。

延長労働総量管理案
  現行 追加選択肢
管理
単位
1週
(1カ月)
四半期
(3カ月)
半期
(6カ月)

(12カ月)
延長労働
上限
12時間 52時間 140時間
※ 156時間対比90%
250時間
※ 312時間対比80%
440時間
※ 625時間対比70%

※ 90%、80%、70%については後述。

出所:「労働時間制度改編案」(2023.3.6関係部処合同)を基に作成。

延長労働の管理単位を選択できるようにすることで、繁忙期等必要な時期は集中的に長く働き、そうでない時期は短く働く、あるいは休暇をとるといったメリハリある働き方がこれまで以上に可能になり、労働者の生活の質の向上にもつながると雇用労働部は説明している。また、管理単位の選択にあたっては、労使合意で決定する。そのため、労働者代表の重要性が高まることになるが、これについて、労働者代表の定義しか規定されていない現行法を改め、労働者代表の選出手続き、権限、責務等を盛り込み、労働者代表の制度化を図るとしている。更には、労働時間の選択権拡大に必須の透明な労働時間の記録と管理に関する研究を推進する他、労働者が退勤後に指示、命令を受けない「つながらない権利」の研究のため、専門家による「つながらない権利の議論タスクフォース(仮称)」もスタートさせるとしている。

2.労働者の健康権の保護

労働者の健康権を保護するため、以下の「三重の健康保護措置」を設ける。

  • ① 労働日間の11時間の連続休息の付与または1週の労働時間64時間の上限厳守
  • ② 4週平均64時間以内の労働遵守
  • ③ 管理単位に応じた延長労働総量の縮減

①については、ドイツ、フランス等、EU諸国で普及しているインターバル規制を採択したものである(注3)。インターバル時間を設けない場合は週の最大労働時間を64時間に制限する。②については、労災過労認定基準であり、この水準の遵守が追加されている。③は管理単位に応じた延長労働の総量縮減措置である。管理単位期間が長くなると長時間労働が過度に集中することが考えられるため、単位期間に応じて延長労働の限度を減じる設計となっている。すなわち、四半期単位では、月単位期間の上限52時間に月数を乗じた時間(52時間×3月=156時間)の90%として140時間、同様に半期単位では、312時間の80%として250時間、年単位期間では、625時間の70%として440時間となる(上記表のとおり)。

この他、労働時間とは無関係に包括賃金、固定手当として賃金を支給する方式の、所謂「包括賃金契約」が悪用されている問題の解消に向けて、監督行政を強化し、包括賃金の根絶を進めていく対策も盛り込まれている。

3.休暇の活性化を通じた休息権の保障

「働く時は働き、休む時は休む」という文化が生産性を高め、労働の質を向上させる手段であるとの考えに基づいた休暇促進対策である。

延長労働、夜間労働、休日労働については、その補償を賃金以外に休暇で受取り、貯蓄して必要な時に利用できる「労働時間貯蓄口座制」の導入や、団体休暇、グループ別の輪番休暇、長期休暇、時間単位の休暇等、様々な休暇の制度によって、職場の目を気にせずに休暇を取得できる対策を促進していくとしている。

4.柔軟な働き方の普及

柔軟な労働時間制度として現行認められている「選択労働時間制(フレックスタイム制)」及び「弾力労働時間制(変形労働時間制)」の改善である。

具体的には、始業時刻と終業時刻が労働者の決定に任される「選択労働時間制(フレックスタイム制)」(注4)に関しては、その活用期間(精算期間)が、研究開発業務は3カ月、その他の業務は1カ月に限定されている。これを研究開発業務については6カ月、その他の業務については3カ月に延長するというものである。また、管理単位期間内に労働時間を調整することを前提に、使用者が法定労働時間を超えて労働者を勤務させることができる「弾力労働時間制(変形労働時間制)」(注5)に関しては、事前に確定した労働日の事後変更手続き不備によって、突発的な状況への対応が困難であった点を解消するため、事後変更手続きを新設する。

以上のように柔軟な労働時間制度の実行性、有用性を高め、これを普及していく。更には、今日まで労働時間は一定程度短縮されてきたものの、働く時間と場所の硬直性やラッシュアワー時の通勤等によって体感的には労働時間の短縮には至っていないという状況から、在宅ワーク、リモートワークといった働き方の制度化についても今後検討し、体感労働時間の短縮とワーク・ライフ・バランス文化の普及を図っていく。

なぜ、労働時間の改編が必要なのか

労働時間の改編が今なぜ必要なのかについて、雇用労働部は次のように説明する。韓国の労働時間制度は工場制の生産方式を基盤に整備され、今日まで硬直的な量的規制によって70年間維持されてきた。このような方式の労働時間規制は、労働時間の量的減少には一定程度寄与したが、第4次産業革命による労働市場の大変革の時代にあっては、多様化、高度化する労使の需要に対応するには限界がある。また、労働者の健康権、休息権に関する議論も不足していた。主要国と比較してみても、今日までの画一的・硬直的な労働時間の上限規制方式は、企業と労働者に選択権を付与し、労働者の健康権を保障するグローバルスタンダードともマッチせず、結果的に労働時間の短縮と生産性の向上を阻害してきた。今般の改編案は「選択権」「健康権」「休息権」の普遍的な保障を志向し、新たな労働時間のパラダイムを構築しようとするものである。

しかしながら、本改編案の発表後、労働時間の増大を懸念する労働組合側が反発、その後、論争が激激化した結果、政府は改編案の再検討を迫られることとなった。その概要については別稿「労働時間改編案を巡る論争 ―政府は見直しの検討を開始」(2023年4月 国別労働トピック 韓国)のとおりである。

参考資料

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