政府による女性労働権益保護の強化

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年4月

中国政府は近年、女性の労働権益保護を強化し、より公平な待遇や働きやすい労働環境を目指して、様々な取り組みを行っている。以下にその概要を紹介する。

働く女性の現状

大手求人サイトの智聯招聘は3月6日、女性キャリア形成、結婚・家族、職場での男女平等など、働く女性の現状に関する「2023年版 中国女性の働き方に関する実態調査報告書(注1)」を発表した。それによると、職場で不当な扱いを受けた経験がある女性は9割を超え、男性の約2倍に上った。「求職中に結婚・出産について聞かれた」女性は61.1%(昨年の61.2%とほぼ横ばい)で、男性の21.5%を大きく上回った。また、「年齢がキャリアの見通しに影響を与える」と答えた女性は51.1%(昨年の43%から増加)で、同じく男性の28.8%を大きく上回った(図1)。

このように中国では今なお、女性の方が結婚・出産を理由とする不当な扱いを受けやすく、年齢がキャリア形成の上で不利になりやすい現状がある。

図1:職場における差別経験
画像:図1

出所:2023年版 中国女性の働き方に関する実態調査報告書

女性権益保障法改正と雇用主への指導文書

中国の国会にあたる全国人民代表大会常務委員会は2022年10月30日、「女性権益保障法」(以下:「権益法」(注2))の改正案を可決し、2023年1月1日から実施されることになった。同法は、企業による男女雇用差別の禁止や、女性労働者に対する保護の強化を目的としており、以下に主なポイントを説明する。

権益法第43条は、企業が採用活動時を行う際の、以下の行為を禁止している。

  • (1)男性限定もしくは男性優先とすること。
  • (2)基本的な個人情報以外に、女性求職者の婚姻・出産状況に関する質問や調査を行うこと。
  • (3)妊娠検査を入社時の検査項目とすること。
  • (4)婚姻、出産を制限することを入社条件とすること。
  • (5)女性というだけで採用しなかったり、採用時に男女の労働条件を異なるものとすること。

また、雇用主は採用時に「労働契約」または「サービス契約」(注3)を締結する必要があるが、女性労働者の場合は、「女性の結婚や出産などを制限してはならない」等の特別な保護条項を含む必要があると権益法第44条で規定している。

さらに、権益法第49条では、採用、昇進、昇格、専門技術職称(注4)や職務の評価、訓練、解雇等の過程における性別に基づく差別行為を、労働保障監督の範囲に含める必要があると規定し、これにより、全過程における労働保障監督が実現し、女性労働者の保護の強化が図られた。

このほか、女性が出産とキャリアを両立しやすくするために、権益法第48条は、女性従業員の結婚、妊娠、出産休暇、授乳などの理由により、当該従業員の給与削減や福利厚生待遇の悪化、当該従業員の昇進、昇格、専門技術職称、職務等に関する「労働契約」または「サービス契約」を一方的に解除してはならないことを明確に規定した。

また、人力資源・社会保障部や最高検察院等を含む管轄省庁6部門が共同で2023年3月8日、「女性労働者に対する特別な労働保護制度(参考文書1)」および「職場におけるセクシャルハラスメントを防止する制度(参考文書2)」を発表し、雇用主が関連規則を策定する際に女性労働者との労働契約や団体契約を締結する参考文書を示した(注5)。「参考文書1」は26項目あり、女性従業員の雇用、賃金・福利厚生、出産・育児、職業安全衛生の保護などが挙げられている。「参考文書2」は20項目あり、セクハラの定義や主な行為、広報・研修、従業員の報告や苦情、調査・処理、組合の参加や監視などについて明確に記載している。同時に、告発者や調査者の機密保持、個人情報保護に配慮し、被害者に二次被害が生じないように、職務内容の調整などの措置を講じるよう、雇用主を指導している。

地方政府の罰則強化策

北京市政府も女性の権益保護に対し、さらなる罰則強化制度を打ち出している。

北京市人力資源・社会保障局は2023年1月、「北京市人力資源・社会保障行政処罰決定基準表(女性の権益保護法に関わる部分)(注6)」を発表した。この基準表は、募集(採用)中に、雇用主が性別を理由に女性の雇用(採用)を拒否したり、結婚、妊娠、産休、授乳などの理由で女性の採用基準を差別的に引き上げたり、女性労働者の賃金・手当を削減したり、産休期間に労働契約などを打ち切ることなどを禁止しており、違反した場合には最高5万元までの罰金を科すと規定している。

参考文献

  • 中国政府、北京市人力资源和社会保障局等智聯招聘のサイト

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