コロナ禍の状況分析と日本に向けた提言
―OECD「対日経済審査報告2021」
経済協力開発機構(OECD)は2021年12月3日、日本経済に関する評価や提言をまとめた「対日経済審査報告2021」を発表した。それによると、今後の日本経済の成長には「さらなる構造改革が必要」として、技術や人材への投資を増やし、デジタル変革(DX)を促すことの重要性を指摘している。以下にその概要を紹介する。
コロナ危機からの回復状況
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界各国に大きな打撃を与えたが、日本はOECD諸国平均と比較して、コロナ危機からの回復があまり力強くない(図表1)。
図表1:コロナ危機が与えた経済的影響と回復状況(日本とOECD諸国平均の比較)
(実質GDP、インデックス2019=100)
- 注:点線はOECD予測。
- 出所:OECD(2021)
政府の支援と経済活動の再開により部分的な回復が見られるものの、感染拡大防止の困難さから、2021年の国内総生産(GDP成長率)は1.8%と比較的低い水準にとどまる見通しである。
他方で、感染状況の改善とワクチン接種率の上昇により、経済は力強さを取り戻し、2022年のGDP成長率は3.4%になると予測されている。
危機で浮かび上がった課題
今回のコロナ危機では、日本のデジタル変革の必要性が浮き彫りになった。
例えば文書業務への依存や印鑑文化等が、感染拡大を抑制するためのリモートワークへの移行の大きな障壁となった。特に行政サービス分野で紙や押印への依存が強く残っていることや、中小企業においてデジタル技術の導入が遅れていることなどをOECDは指摘している。そのため、今後は政府や中小企業を中心に新技術を普及させるための取り組みを強化し、デジタルスキル習得のための職業訓練の実施を提案している。
さらに、行政手続きの簡素化や、不採算企業の温存につながりやすい現在の自己破産規則や、構造的な問題を抱える中小企業支援制度の改善を行い、中小企業の合併・買収・売却を奨励することで、企業の労働力不足を改善し、成長企業への経営資源統合を促進するべきだと指摘している。
さらに、IT(情報技術)分野への研究開発投資なども「十分ではない」として、積極的な取り組みを促している。
働き方改革と残された課題
日本では、2019年4月に働き方改革関連法が施行され、長時間労働の是正や多様な働き方を可能にする労働環境整備を行う企業が増加し、結果として雇用が増え、人口の高齢化による労働力不足を相殺する効果をもたらした。しかし、コロナ危機はこの進展を一部後退させており、コロナによる失業者や新たに就職を希望する新規参入者を支援するための取り組みの強化が求められている。特に若年者がコロナ禍で就職難に直面する場合は、長期的な悪影響が残ると分析している。
報告書は、今後はさらに同一労働同一賃金を確保し、柔軟な働き方の改善を進め、より多くの女性が働けるよう育児サービスの提供を強化したり、平均寿命の延びを勘案した年金受給年齢の引き上げを行うなど、各人がより長く働き続けるインセンティブを生み出す必要があると指摘している。
OECDの国別の経済審査報告は、加盟国すべてに対して定期的に実施しているもので、前回の日本報告は、コロナ禍前の2019年4月に発表された。
参考資料
- OECD(2021) OECD Economic Serveys: Japan 2021 マティアス・コーマン OECD事務総長による記者会見動画 ほか。
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