プラットフォーム労働における労働条件改善に関する指令案

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  • 国別労働トピック:2022年4月

欧州委員会は12月、プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案を採択した。プラットフォーム労働の従事者に、正しい雇用上の地位を認めることで、権利を保証することを目指すほか、アルゴリズム管理に関する公正性や透明性などの確保や、プラットフォームに対する各種の義務等が盛り込まれている。

従事者の2割が労働者相当の可能性

欧州委によれば、域内におけるデジタル労働プラットフォーム経済の規模は、過去5年間でおよそ500%成長したとされる(注1)。現場でサービスを提供する配車や配達、清掃や介護などのほか、オンラインのみのIT関連業務や翻訳、デザインなど、プラットフォームを通じたサービスの提供は多様な業種にわたる。域内のプラットフォーム労働の従事者は、2800万人と推計されている。域内のプラットフォームの9割は、従事者を自営業者とみなしているとされ、実際に大半が本来の自営業者とみられるものの、一部は従属的で管理された働き方をしており、労働者としての権利が認められないことで、低い労働条件や不十分な社会的保護といった問題に直面しがちであるという。こうした層は、域内のプラットフォーム労働従事者のおよそ2割前後にあたる550万人にのぼるともみられている(注2)。加盟各国では、従事者の雇用上の地位をめぐる訴訟が多数生じており、その多くで、従事者を労働者と認める判決が示されている(注3)

こうした状況を背景に、今回採択された指令案では、プラットフォーム労働の従事者の労働条件と社会的権利の改善が企図されており、具体的な目的として、①プラットフォーム労働従事者に対する正しい雇用上の地位と権利の保証、②アルゴリズム管理に関する公正性、透明性、説明責任の確保、③プラットフォーム労働の透明性、トレーサビリティ(実施状況の把握)、法制度の執行に関する改善、の3点が掲げられている。以下、その概略を紹介する。

従事者に雇用関係を推定

指令案は、域内で遂行されるプラットフォーム労働を組織する「デジタル労働プラットフォーム」(注4)を適用対象としており、プラットフォーム事業者の所在地にかかわらず適用される。また、プラットフォーム労働の従事者のうち、雇用契約または雇用関係にある者を「プラットフォーム労働者」として、従事者と区別している。

プラットフォームが労働の遂行を管理していると考えられる場合、従事者には雇用関係が推定され、プラットフォーム事業者側に反証責任が科される。雇用関係があるとみなされれば、労働者として最低賃金や労働時間規制が適用されるほか、失業手当や出産・育児休暇、休息、有給休暇、就労が困難になった場合の給付など、社会的保護の適用を受ける権利が保障される。指令案は、以下の5つの判断基準を挙げ、うち少なくとも2つを満たす場合、労働遂行の管理に相当すると解される、としている。

  • 報酬の水準を実質的に決定、またはその上限を設定している
  • プラットフォーム労働を遂行する者に対して、外見(注5)や、サービス受容者に対するサービスの提供方法、労働の遂行方法に関する特定の拘束力のある規則の順守を義務付けている
  • 電子的その他の手段により、労働の遂行の監視や、労働の成果の質の評価を行っている
  • 罰則の設定等により、労働を遂行する時間や働かない時間、仕事を引き受けるか否か、また下請けや代理人を使用するか否かに関する従事者の裁量の自由を実質的に制限している
  • 顧客の獲得や、第三者のために労働を遂行する可能性を実質的に制限している

加盟国には法的推定について当事者のいずれもが法的、行政的手続きを通じて反証することを可能としなければならない(5条)。デジタル労働プラットフォームが、問題となっている契約関係について当該加盟国における法律や労働協約あるいは慣行によって定義される雇用関係には該当しないと主張する場合、挙証責任はプラットフォーム側に課される。なお、訴訟によって法的推定の適用は停止されない。また従事者側が雇用関係に該当しないと主張する場合、プラットフォームには自らが保有する全ての関連情報の提供などで適切な解決を補助することが義務付けられる。

加盟国には、これを実現するための法的枠組みの整備とともに、その実施にあたって労使等の理解を促進するためのガイダンスの作成が求められる。

自動化された監視・意思決定システムに人間による監視を

また、指令案は従事者のアルゴリズムによる管理について、公正さや透明性を図る内容を盛り込んでいる。アルゴリズム管理により評価等が自動化されることによる従事者への影響の大きさに配慮するものだ。

まずプラットフォームには、プラットフォーム労働者に対して、自動化された監視システムおよび意思決定システムに関する情報を、就業初日までに(及び実質的な変更の都度)書面(電子フォーマットを含む)で提供することが義務付けられる(6条)。これには、自動化されたシステムを使用しているかその導入途上であることのほか、監視システムにおいて監視、監督、評価の対象となる行動の種類や、意思決定システムにより実行または補助される決定内容、その際に考慮される内容や相対的な重要度、アカウントの制限・停止等あるいは報酬支払い拒否等の根拠などが含まれる。なお、プラットフォームは業務遂行に関連しない労働者の個人データを取り扱ってはならない(注6)

またプラットフォームは、自動化された監視・意思決定システムによる(または根拠として用いられた)決定が、労働者の安全衛生へのリスクとなっていないか、過度のプレッシャーや身体的、精神的健康へのリスクとなっていないか、また適切な安全策や予防的・保護的措置が導入されているか等を、定期的に監視、評価しなければならない(7条)。監視には、必要な能力、訓練受講、権限を有する人員を充てることが求められ、そうした人員は、自動化された決定等を覆したことを理由とする解雇や懲戒処分、その他不利益な取り扱いから保護される。

加えて、プラットフォーム労働者には、自動化された意思決定システムによる(または根拠として用いられた)決定について、プラットフォームから説明を得る権利が保障される(8条)。プラットフォームはこれに関する窓口担当者(職務実施に要する能力、権限を有する者)の連絡先を労働者に提供しなければならない。また、アカウントの制限・停止等あるいは報酬支払い拒否等の重要な決定については、書面によって労働者に理由を提示しなければならない。労働者は、その内容を不服とする場合、決定の見直しを要求することができ、プラットフォームは所定の期限内(通常は1週間)に裏付けとなる回答を行うか、決定の是正あるいはそれが不可能な場合は十分な賠償を行わなければならない。

なお、自動化されたシステムに関するこれらの条項は、雇用関係がないプラットフォーム労働の従事者にも適用される(10条)。

従事者のコミュニケーション手段の設置も義務付け

プラットフォームは、プラットフォーム労働者により遂行された労働について、雇用主として労働・社会保護当局に申告しなければならない(11条)。当局は、従事者の雇用法上の地位に関連したプラットフォームの法的義務の順守を確保するために必要な情報(定期的に従事している労働者の数、契約上・雇用上の地位、一般的な契約条件)について、原則として6カ月ごとに提供を受けることとされる(12条)。また、当局あるいは従事者の代表者(労働組合等)は、提供されたデータに関してより詳細な情報を請求する権利を有する。

このほか、プラットフォームには、従事者相互間の接触・交流や、従事者の代表者による接触を可能とするデジタルインフラを設置すること(または同等の効果的な措置)が義務付けられ、かつこれにアクセスあるいは監視することを控えることが求められる(15条)。

また従事者(雇用契約終了後の者を含む)は、紛争解決と権利救済の制度により、法的救済の提供を受ける権利を有する。また、従事者を代表する者または法人(労働組合等)は、従事者の承認を受けて、代理人または支援者として法的・行政的手続きを行うことができる(14条)。従事者やその代表者は、プラットフォームに対する申し立てや訴訟に起因するプラットフォームによる不利益な取り扱いや不利益な結果(解雇を含む)から保護される(17条、18条)。

加盟国には、指令成立から2年以内に関連する法律を施行すること、またその際、効果的な実施のため、ソーシャルパートナーの関与を得るための十分な手段を講じることが求められる(注7)(21条)。また法改正にあたっては、既存の労働者保護に関する全般的なレベルの低下や、プラットフォーム労働者により良い保護や、より有利な労働協約の適用を認める法制度の制定を妨げないことが求められる(20条)。また、欧州委は指令施行から5年以内に、各国やEUレベルのソーシャルパートナー、主要な利害関係者の意見を聴取、中小零細企業への影響も考慮の上、実施状況をレビューし、適切な場合は法改正を提案する(22条)。

参考資料

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