自動車工場でコロナ感染対策の徹底を求める抗議行動

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

インドの記事一覧

  • 国別労働トピック:2021年8月

インド南部のタミル・ナードゥ州政府は、新型コロナウイルス感染防止策として、5月10日から2週間の予定でロックダウンを実施し、その後、数回にわたって延長した(注1)。同州の州都チェンナイには自動車メーカーの生産工場が集積しており、「南アジアのデトロイト」と呼ばれているが、フォードやルノー・ニッサン、ヒュンダイといった世界的な自動車メーカーの工場において、コロナウイルス感染が拡大している。工場労働者は、感染防止策が十分にとられていない懸念を理由に、操業停止を要求して抗議行動をとったため、各社は5月末の数日間、操業停止することになった。

労組は操業を生活必需関連業に限定するよう要求

5月10日から24日までのロックダウン期間中、販売市場が閉鎖されたため、製造工場の一部はメンテナンスのため操業を停止し、その他の工場でも在庫管理のため生産量を削減する体制となった。ロックダウンが5月31日まで延長された際、州政府は自動車工場の稼働を許可したが、チェンナイの1日の新規感染者数は約3万人で、インド国内で最も感染者数が多い州の一つだった。感染拡大が収まらないなか、防疫措置が十分に取られないままの工場操業を疑問視する労働者が、操業停止を求めて抗議行動を実施した。

タミル・ナードゥ州とポンディシェリ州で活動している労働組合、新民主労働戦線(NDLF)は、州政府に対し、ロックダウン期間中は医薬品、電気、食品といった生活必需品に関連する産業のみを操業許可し、自動車などの他の産業には操業を許可しないように要請した(注2)

感染した従業員の医療費負担を要求

フォードは5月12日から24日まで操業を停止していたが、25日から操業開始した(注3)。再開直後の5月27日に労働者の一部が万全のコロナ感染対策を実施するように会社側に要求し、昼食をボイコットして座り込みの抗議を行った。経営陣への要求書の中で労組は、230人以上の労働者がウイルスに感染していると指摘した上で、検査で陽性となった後に死亡した2人の労働者の親族に対して、それぞれ1億ルピーの補償金を支払うよう求めた。また、労働者が感染した場合には、会社側が労働者の医療費を全額負担すること、感染が急拡大した場合には工場を閉鎖し、労働者に有給休暇を与えるよう要求した。27日の抗議活動は生産に影響を与えなかったが、5月28日から30日までの3日間、工場を閉鎖することが発表された。

安全確保のための操業停止と休暇の付与

ヒュンダイは、ロックダウン開始日の5月10日から15日までメンテナンスのため操業を停止した(注4)。その後、操業を再開したが、5月24日、数人の労働者が操業停止を求めて座り込み抗議を行った。その日の生産は通常通り行われたが、同社と労働組合は、5月25日から5日間、操業停止し、労働者に休暇を付与することで合意した。会社側は、操業停止は従業員の安全を確保するための積極的な予防措置であるとしている(注5)

裁判所が州当局による安全確保の検査を命令

タミル・ナードゥ州は、自動車工場向けに感染拡大の第2波対策として労働者安全ガイドラインを策定している(注6)。ルノー・ニッサンでは、労働者を代表する労組が、5月24日に同社工場がガイドラインを順守しておらず、安全に就労することができないことを理由として、5月26日からストライキを実施すると会社側に通告した(注7)。労組は工場内のソーシャルディスタンスが十分に確保されていないと指摘しており、タミル・ナードゥ州当局が検査に入るよう裁判所に提訴した。これを受けて、同社は工場内の管理体制を確認するため、5月30日まで工場を閉鎖することになった。

マドラス高等裁判所は、6月7日に州産業安全局に対して、同社工場を訪問し、感染拡大対策が順守されているかどうか確認するよう命じた。労組メンバーと同社経営陣が同席した検査の結果、同工場は安全ガイドラインに準拠していることが、産業安全局の担当職員によって確認された。同社が裁判所に提出した書類では、一部の作業場で労働者間の距離を2~3フィート以上確保することは不可能であるとした上で、マルチ、ヒュンダイ、キア、フォード、BMWなど同業他社の工場と同じ水準のソーシャルディスタンスを確保しているとしている。

チェンナイで6月に行われた検査では、ヒュンダイ、フォード、ルノー・ニッサンなどの自動車工場労働者の4人に3人がワクチン接種を受けておらず、7人に1人の労働者がウイルスに感染して、21人が亡くなっていたことがわかった(注8)

(ウェブサイト最終閲覧:2021年8月13日)

関連情報