社会的権利の実施に向けたアクションプランを公表
欧州委員会は3月、欧州における社会的権利の実施に向けた「アクションプラン」を公表した。就業率の向上や、教育訓練への参加促進、貧困・社会的疎外に直面する人口の削減を目標として掲げている。
就業率78%を目標に
アクションプラン(注1)は、2030年に向けて3つの大きな目標を掲げている。その一つは、20-64歳層の就業率を最低でも78%に引き上げるというものだ。域内における就業率は2019年時点で73.1%で、2020年に75%とするとの目標に近づいていたが、コロナ禍により6年間順調に拡大していた雇用が頭打ちとなった。2030年の新たな目標に向けては、男女間の就業率の差を現在の半分まで縮小すること(2020年第3四半期時点で、男性78.3%に対して女性は66.6%)、公的な早期教育および託児サービスの拡充による仕事と家庭生活の調和を改善し、女性の労働市場参加を支援すること、15-29歳層の無業比率を現状(2019年)の12.6%から9%に削減すること、の3点をより具体的な目標として掲げている。同時に、高齢者や低技能層、障害者、地方・遠隔地の居住者、LGBTIQの人々、ロマその他の民族的・人種的マイノリティなど疎外や差別のリスクに直面する人々、あるいは移民などが、労働市場に可能な限り参加することを促し、より包摂的な雇用の成長をはかる必要があるとしている。
成人の訓練参加率を6割以上に
二つ目の目標は、最低でも成人の60%が毎年何らかの訓練に参加するというものだ。コロナ禍からの回復と、グリーンかつデジタルな経済への移行のためには、エンプロイアビリティの改善やイノベーションの促進、社会的公正やデジタルスキル不足などの点から、成人層の訓練への参加が最重要の取り組みだが、現状では年間で4割弱(2016年時点で37%)に留まっており、低資格層ではさらに低い(同18%)。さらに、こうした訓練の成功には、初期の教育訓練で獲得される基礎的な技能が強固な下地となる。このため、具体的な目標としては、16-74歳層の基礎的デジタルスキルの保有比率を8割以上とすること、義務教育からの脱落者を一層削減し、後期中等教育への参加率を向上させること、の2点を掲げている。
貧困層を1500万人以上削減
三つ目の目標には、貧困リスクや社会的疎外に直面する人口の1500万人以上の削減だ。ここ10年間で、域内における貧困と社会的疎外は減少したものの、2020年までの目標は未達成に終わっており(注2)、さらにコロナ禍によって今後も短期的には状況が悪化する可能性がある、と欧州委は見ている。
新たな目標に掲げる1500万人の削減うち、少なくとも500万人を児童とすることで、世代間の貧困の循環を断ち切ることが重視されている。
なお、加盟各国における社会権の達成度合いは、従来から「社会的スコアボード」の各種指標によって示されているが、アクションプランの作成に合わせて内容の見直しが行われた(図表)。またアクションプラン自体も、2025年には見直しが予定されている。
図表:新たな社会的スコアボード
注
- ”European Pillar of Social Rights Action Plan”(本文へ)
- 2019年時点で、貧困リスクにある人口は9100万人(うち1790万人が児童)で、2008年から1200万人減。2020年までの削減目標は2000万人減とされていた。(本文へ)
参考資料
- European Commission ウェブサイト
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