雇用・企業への継続的な支援が必要と提言

国別労働トピック：2021年7月

OECD(経済協力開発機構)は2021年3月、政策ブリーフ「雇用・企業支援：復興期への橋渡し(Supporting jobs and companies: A bridge to the recovery phase)」を発表した。OECDは本文書において、新型コロナウイルス危機に対応するため2020年に各国政府が実施した政策措置の効果を概観したうえで、今後も企業や労働者に対して継続的な支援を行う必要があると述べている。文書の概要は以下のとおり。

多くの企業が雇用維持スキームを利用

新型コロナウイルス危機の労働市場への影響を緩和するためには、一般的かつ包括的な雇用維持スキームが不可欠であった。いくつかのOECD諸国では2020年第2四半期のピーク時に、最大で労働者の3分の1が雇用維持スキームを利用していた(図1)。封じ込め措置解除後(9月)の企業の操業再開に伴い、雇用維持スキームを利用する労働者の割合は大幅に減少したが、感染の第2波到来後の11月・12月には再び増加した。多くの国では、2020年に雇用維持スキームを利用した労働者の割合は、封じ込め措置解除後の段階でさえ、2009年の世界金融危機のピーク時よりも大きかった。

図1：各国の雇用維持スキームを利用する労働者の割合
画像：図1
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注：ピーク時はハンガリーと日本では10月、それ以外では4月・5月を指す。
出所：OECD(2021)

企業の倒産件数は前年比30％減、起業率は過去最低水準に下落

各国政府による企業への大規模な支援策と倒産手続きの一時的な変更は、新型コロナウイルス危機において企業の倒産を防ぐのに役立った。GDPの前例のない低下にもかかわらず、調査対象国(OECD加盟12カ国)における2020年3月以降の毎月の倒産件数は、前年と比べて平均30％減少した。政府の支援がなかった場合、中小企業の倒産率は前年の約2倍になっていたと見込まれる。一方、危機の影響を最も受けた産業(宿泊・飲食サービス、芸術・娯楽・レクリエーション、教育、その他サービスなど)における起業率は、過去最低水準まで下落した。

求人数は減少、産業・職業間に差異

求人数は危機前の水準をはるかに下回っている。2020年夏に求人数は若干増加したものの、感染の第2波により再び減少した。また、求人数は産業や職業間で大きなばらつきがある(図2)。産業別に見ると、オンライン求人の高頻度指標(High frequency indicators)^(注1)は2020年12月には同年1月と比べ、労働需要が宿泊・食品サービス業では45％低かったが、輸送・倉庫業では30％高かったことを示している。職業別に見ると、病院の労働者、食品小売業者の従業員、倉庫職の労働者などのエッセンシャル・ワーカーのオンライン求人数は、危機前と同じか増加した。

図2：オンライン求人数の産業別変化率(2020年1月比、％)
画像：図2
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注：オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカでのオンライン求人情報に基づく。
出所：OECD(2021)

雇用・企業への継続的な支援が必要

新型コロナウイルス危機開始から1年が経過した現在も、将来の動向に関する不確実性は依然として高く、多くの企業が低・無活動を強いられていることから、各国政府は企業や労働者に対して継続的な支援を行う必要がある。こうした支援には短期的な財政支出が不可欠だが、これは危機の長期化による影響を防ぐための投資と見なすべきである。

（１）危機の影響を受ける産業や労働者への支援が必要

まず、雇用維持スキームは企業や労働者を支援するための重要なツールとして引き続き必要である。経済活動の再開が産業や地域間で異なる現状では、雇用維持スキームは採算性のある雇用に焦点を当てる必要がある。将来的に採算性がある雇用かどうかを区別することは困難であるが、そのためには強制的な制限の対象となっている産業とその他の産業との間で支援を区別することが有効である。強制的な制限の対象となっていない産業の場合、雇用維持スキームの費用の一部を企業負担としたり、雇用維持スキームの利用可能期間に制限を設けることができる。一方、強制的な制限の対象となっている産業の場合、将来の採算性を評価することは非常に困難であり、引き続き無条件に支援するべきである。

次に、労働者を雇用維持スキームで保護されている仕事から、そうでない仕事へと移動させることが不可欠である。そのためには、雇用維持スキームを利用している労働者に公共雇用サービスへの登録を義務づける、あるいは認めることや、労働者を短時間の研修に参加させることが有効である。例えば、フランスでは雇用維持スキームを利用する労働者が研修を受けた場合、給付額が純給与の84％から100％に増加するため、労働者には研修を受ける明確な金銭的インセンティブがある。

また、危機の長期化に伴い、危機の初期段階で仕事と収入を失った労働者の失業手当の受給期間が満了したり、貯蓄が底をついて、「最後の手段」である生活保護の受給者数が増加する可能性がある。多くの国では、一時的な給付額の増額、資力調査の緩和、一回限りの給付の導入などの対策を講じている。このように効果的に対象者を絞ることが重要であるが、緊急に支援を必要としている人々が引き続き支援を受けられるようにする必要がある。

（２）起業の奨励と、倒産の回避が必要

まず、新しい企業、特に、より革新的な企業を支援し、起業を奨励することが不可欠である。これには、例えば、自営業者向け失業保険の導入や、今後数年間の起業要件の緩和などが含まれる。新しい企業が雇用創出の大部分を占めていることが、様々な調査結果から分かっている。また、「創造的破壊(creative destruction)^(注2)」は労働者の良好な雇用と収益の見通しをもたらすだけでなく、経済成長を維持するためにも必要である。しかし、起業には時間がかかり、企業の負債増加が効率的な結果につながらないことも考えられるため、通常の創造的破壊プロセスへの復帰は徐々に進むと見込まれる。

次に、今後数カ月間は、特に「過剰債務(debt overhang)」のリスクを管理すべきである。すなわち、高水準の負債が投資を抑制し、投資不足の問題につながる現象により、業績は高いが負債過多の企業が倒産したり、負債を返済するためにイノベーションや投資努力を減らすリスクである。危機以前から存続していた企業、特に中小企業の大規模な債務不履行を回避するためには、高水準の企業債務と多数の破産手続きに対処する必要がある。

（３）採用活動の促進、求職者・雇用者への支援の適応が必要

まず、短期的には金融政策による雇用への支援を継続する必要がある。ミクロレベルでは、一時的かつ対象を絞った雇用助成が、雇用創出の促進に有効なツールとなっており、フランスやイギリスなど多くのOECD諸国が最近このような制度を導入または更新している。

次に、労働者がパンデミックの最中でも雇用の機会を得て、スキルの向上・維持ができるよう、新しい仕事を見つけるための支援が不可欠である。各国政府は、特に就職支援や積極的労働市場プログラムの規模を拡大する必要がある。前述のように、産業間で雇用需要にばらつきが見られる。このことは、雇用機会が依然として限られており、転職が必ずしも容易ではないとしても、一部の労働者を雇用需要が低い産業や職業から、需要の回復が早い産業や職業に再配置する余地があることを示唆している。

次に、各国政府は求職者だけでなく雇用主にも有効な支援を提供できるよう、公共雇用サービスに相当な追加投資を行う必要がある。資源の追加投資がない場合、需要の急増によって既存の制度とサービスに過度に負荷がかかり、サービスの質が明らかに低下する可能性が高いからである。一部のOECD諸国、例えばイギリスでは、すでに公共雇用サービスの人材を増やし始めている。

最後に、最近失業した、あるいは就職口を見つけられないまま卒業した若者と接触を失わないようにすることが極めて重要である。若年労働者は雇用記録が短く不安定であるため、標準的な失業保険制度から支援を受ける可能性が低い。また、単に支援が受けられることを知らないなどの理由から、公共雇用サービスに相談しない場合が多い。各国政府は学校や若者支援団体と協力し、ソーシャルメディア・キャンペーンを行うなど、早急かつ積極的に手を差し延べることが特に重要である。

注

早い周期で経済情勢を測る指標。(本文へ)
「創造的破壊」とは、生産性が低い活動を高い活動に変革し、資源を再配分させること。(本文へ)

参考資料

OECD資料 OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19): Supporting jobs and companies: A bridge to the recovery phase